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ぼくらの町にD51(デゴイチ)がやって来た!

鳥塚亮大井川鐵道代表取締役社長。前えちごトキめき鉄道社長
糸魚川駅構内で展示走行するD51827号。。

筆者が代表取締役を務めるえちごトキめき鉄道(新潟県上越市)では、12月17~18日に沿線の糸魚川駅開業110周年を記念して、市が企画した祝賀イベントにSLのD51(通称デゴイチ)を構内走行させ、地元の人たちに大歓迎を受けました。

このD51形827号機はいつもは直江津駅構内の直江津D51レールパークで動態保存されているもので、体験乗車ができる目玉として大人気のSLですが、レールパークは12月から来春まで冬期休館中のため、「だったら糸魚川駅へ運んで地元の皆さんに喜んでいただこう。」と企画したものです。

動態保存機とはいえ、鉄道車両扱いにはなっていないものを線路の上を移動させて糸魚川駅へ持って行くということは、鉄道業界的には実に大変な作業なのですが、そのくだりについては後日またお話しさせていただくこととして、今回は糸魚川駅での歓迎の様子をご紹介させていただきます。

なぜD51(デゴイチ)なのか?

日本の鉄道の営業線からSLが消えたのが昭和50年(1975年)12月。その後各地で復活運転は行っているものの、半世紀近く前に現役を引退している蒸気機関車というものを若い世代の方々はほとんど知りません。

「今どきSLでもないでしょう。」

そういうご意見も多く聞かれる時代となりました。

ところが、えちごトキめき鉄道でデゴイチの体験乗車ができる直江津D51レールパークを開園したところ、実に多くのお客様にご来場いただいています。

そして、その中心になっているのがご家族連れ。若いお父さんとお母さんがベビーカーを押している姿や、おじいちゃんおばあちゃんが、お孫さんを連れてきている姿をたいへん多く見かけるようになりました。

D51の体験乗車は当初は鉄道ファンが中心になるだろうと考えていたコンテンツでしたが、ふたを開けてみるとたくさんのご家族連れでにぎわっているのが現状ですので、地域の皆様方にもっと身近にご覧いただくことはできないかと考えていたところ、この糸魚川駅での開業110周年記念イベントの話が舞い込んできたのです。

家族連れでにぎわう直江津D51レールパーク
家族連れでにぎわう直江津D51レールパーク

そこで、筆者は糸魚川市の皆様方に鉄道を身近に感じていただくためには、皆様方の思い出に残るようにD51を目の前で走らせてみようと考えまして、各方面に相談して今回の糸魚川駅構内でのデモンストレーションとなったのです。

イベント当日の12月17日は朝からたくさんの皆様方がホームにデゴイチの雄姿をご覧に詰めかけました。

歓迎セレモニーや糸魚川市長さんをはじめ地元の重鎮の皆様方によるテープカット、出発式が開催されました。

式典にご参加されたご来賓の方々も皆様笑顔で大喜び。童心に返られたようで、自分が子供の頃、デゴイチが走っていて・・・という思い出話を口々にされていました。

また、この開業110周年に合わせて、トキめき鉄道がスペシャルアンバサダーに任命した新潟のアイドルグループNGT48の佐藤海里さんが1日駅長としてイベントに参加していただきましたので、NGTファンの皆様方にもたくさんお越しいただきました。

アイドルと鉄道の融合で何か化学反応が起きそうな予感がしました。

子供の頃の思い出が、鉄道の未来を創る

祝賀式典のご来賓の方々も皆様口々に子供の頃の鉄道の思い出を語られていましたが、最近の地方鉄道沿線では、地域住民の皆様方はなかなか鉄道に乗る機会がありません。中には電車の乗り方を知らない子供もいて、小学校の授業の一環として切符の買い方や電車の乗り方を体験学習しているところもあります。

そういう地域の子供たちは、ともすれば鉄道の思い出がないまま大人になってしまいそうで、そうなると将来的に鉄道に未来はなくなるのではないか。

だったらいろいろな体験を鉄道でしていただいて、子供たちに鉄道の思い出を持ってもらうことで鉄道の未来が拓けるのではないか。

筆者はそのように考えています。

デゴイチの運転士さんもちびっ子たちにとってはヒーローですね。鉄道の職員にあこがれを持ってもらうことも大事な使命だと考えます。
デゴイチの運転士さんもちびっ子たちにとってはヒーローですね。鉄道の職員にあこがれを持ってもらうことも大事な使命だと考えます。

D51の走行イベントは17、18日の2日間行われ、1000人以上の来場者がありました。

そんな中で、この写真のようにお父さんやお母さん、あるいはおじいちゃんおばあちゃんに連れられてD51を見に来た地元のちびっ子たちがたくさんいました。

こういう経験をした子供たちは大人になってもきっと「ぼく、デゴイチ見たんだ。」と覚えていてくれることでしょう。

そして、ふるさとの駅を大切に思い、ふるさとの鉄道を大切にしてくれるのではないでしょうか。

地元の人たちに「電車に乗ってください。」というのはなかなかハードルが高いものがありますが、「駅に来てください。」ならできると思います。

そして、駅に来ていただければ、「やっぱり乗ってみたいね。」という気持ちになると思います。

こちらは同じ糸魚川駅の大糸線ホームです。

大糸線はJR西日本が維持管理が困難な路線に指定したところですが、この日はたくさんのお客様が列車待ちをしていました。

鉄道というのは「大切な地域の足」であることは紛れもない事実です。ただし、地域の足だけでは守ることが難しい時代になってきました。

地元の鉄道をいろいろな使い方をして、地域に人を呼ぶコンテンツとして磨きあげることができれば、立派な観光資源として新しい使い方ができる。

今、人口減少時代を迎え、日本のローカル鉄道沿線地域には、そういうことができるかどうかが求められていると筆者は考えます。

えちごトキめき鉄道は月曜から金曜までの地域の足を守るために、土休日に観光で稼いでいくことで地域経済にも波及して地域全体が浮上していくことを目指して、わざわざ乗りに来たくなるような列車を走らせていきたいと考えています。

当日は駅構内で開催されたマルシェに寒い中たくさんのお客様にお越しいただきました。

こうして地域経済にも貢献していくことが、地域に根付いたローカル鉄道として求められていると筆者は考えます。

当日ご来場いただきました皆様、ありがとうございました。

※使用写真はすべて筆者撮影のものです。

大井川鐵道代表取締役社長。前えちごトキめき鉄道社長

1960年生まれ東京都出身。元ブリティッシュエアウエイズ旅客運航部長。2009年に公募で千葉県のいすみ鉄道代表取締役社長に就任。ムーミン列車、昭和の国鉄形ディーゼルカー、訓練費用自己負担による自社養成乗務員運転士の募集、レストラン列車などをプロデュースし、いすみ鉄道を一躍全国区にし、地方創生に貢献。2019年9月、新潟県の第3セクターえちごトキめき鉄道社長、2024年6月、大井川鐵道社長。NPO法人「おいしいローカル線をつくる会」顧問。地元の鉄道を上手に使って観光客を呼び込むなど、地域の皆様方とともに地域全体が浮上する取り組みを進めています。

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