脱炭素化に向け新たな負担増!? カーボンプライシングとして炭素税でなく「炭素に対する賦課金」とは
2023年度予算政府案が、1月23日に国会に提出された。そこには、エネルギー対策特別会計において、脱炭素化に向けた大胆な先行投資支援を行うべく、その財源としてGX経済移行債(正式には、脱炭素成長型経済構造移行債)の発行が盛り込まれている。
GX経済移行債も、国債の一種である。もちろん、この国債発行は、2022年度までは認められていなかったものだから、今通常国会で、2023年度予算政府案と合わせて審議される関連法案に、その発行を根拠づける規定が盛り込まれている。
GX経済移行債を発行するに当たり、その返済財源をどうするかについても、政府のGX実行会議などの場で議論された。そして、2022年12月に公表された「GX実現に向けた基本方針」の中に、「炭素に対する賦課金」の導入が明記されたのである。
拙稿冒頭の図が、「炭素に対する賦課金」についてのイメージである。縦軸が政府が得る収入で、横軸が時間軸となっており、「炭素に対する賦課金」は2028年度頃から民間事業者等に課し始めて、わが国でカーボンニュートラルを目指している2050年までに、CO2排出量に比した負担を徐々に増やしてゆくことを想定している。
詳細設計は今後検討されることになっている。ただ、2022年12月に開催された第11回産業構造審議会産業技術環境分科会グリーントランスフォーメーション推進小委員会/総合資源エネルギー調査会基本政策分科会2050年カーボンニュートラルを見据えた次世代エネルギー需給構造検討小委員会の合同会合で配付された資料(冒頭の図もその一部)では。CO2を排出する事業者として、化石燃料の輸入事業者等を、賦課金を課す対象とすることが提案されている。
要するに、温暖化を助長するCO2の排出にペナルティーを与えるべく、CO2排出量に比した形で「炭素に対する賦課金」を課そうという発想である。
炭素税と何が違うのか
CO2排出量に比した形で負担を求めるものとしては、炭素税がある。炭素税という議論は、拙稿「EUの炭素国境調整措置は、あなどれない。日米首脳会談を控え、わが国のカーボンプライシングはどうするか」でも紹介しているが、わが国でも以前から議論されていた。そして、現にわが国で石油石炭税の一部として導入されている地球温暖化対策のための税(温対税)が、CO2排出量比例の課税であることから、炭素税の一種と位置付けられている。
では、新たに提案された「炭素に対する賦課金」と炭素税とは何が違うのか。
まず、法律的な位置づけとして根本的に違うのが、炭素税は租税だが、「炭素に対する賦課金」は租税ではない、という点だ。
租税は、日本国憲法にも30条や84条で規定されている租税法律主義を踏まえなければならない。つまり、租税の賦課徴収は、議会で議決された法律に基づかなければならない。それは、税率を変える際でもそうである。
しかし、賦課金は、それを課す根拠となる法律は当然必要だが、その賦課金の水準(租税でいえば税率)は、必ずしも法律に基づかなくてもよく、(法定する形で)政省令で変更が可能と解釈されるものもある。
例えば、特許料や商標や意匠等の登録料は、法定されている上限の範囲内で、政令で定めることができると法定されている。その改定には、いちいち国会の議決は必要ない。
さらに言えば、政府与党との関係でいえば、租税は与党の税制調査会での審議を経ないと改正法案が出せない慣例となっているが、賦課金は税制調査会の議題にはならず、関係部会等での議論を経ることとなる。
炭素に対する賦課金も、そのように位置づけられる可能性が高い。これは、消費税率のように、税率を引き上げる際にその都度国会の議決を必要とするのとは大きく異なる。
ただ、CO2排出量比例で負担を課す点では、炭素に対する賦課金も炭素税と同様の発想に基づいている。それなのに、敢えて、炭素税とせず炭素に対する賦課金とした意図は何なのか。それは、
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