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宮迫博之さんの地上波復帰は実現するのか、「闇営業問題」から5年経ってもテレビ出演できない背景を考える

田辺ユウキ芸能ライター
元雨上がり決死隊でユーチューバーの宮迫博之さん(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

2019年に起きた、複数のお笑い芸人が所属事務所を通さずに反社会的勢力の会合に出席して出演料を受け取った「闇営業問題」で、その中心人物として同年6月に吉本興業から契約解除されたお笑いコンビ、カラテカの入江慎也さんが4月28日深夜、約5年ぶりに地上波テレビへ出演しました。出演番組となったのは、『深夜のハチミツ!! Bee the top』(フジテレビ系)。「元芸能人を見つけたい」という企画のなかで、現在は清掃会社を経営する入江さんの日常が放送されました。

これまでYouTubeの番組など地上波以外では、入江さん自身が出演したり、その現状が伝えられたりしていました。それでも地上波番組への出演は久しぶりということで、4月27日にその件が報道されると、Yahoo!ニュースのトピックスにも入るほどの反響となりました。あらためて「闇営業問題」がいかに大きな騒動だったかが思い起こされました。

2023年『アメトーーク!』に“AI宮迫”が出演、地上波復帰へ一歩前進?

一方、SNSやニュースサイトのコメント欄では、同じく「闇営業問題」の渦中にあった元雨上がり決死隊の宮迫博之さんがなぜ地上波番組に出演できないのかという疑問も多数投稿されていました。

宮迫さん自身は4月15日、自身のYouTubeチャンネルの番組内で「(地上波番組に携わる)誰かが思い切らないと無理でしょうね。今のご時世で圧力とかはないと思うんですが」「みんな最初に使う人がどうなるのかを見たいっていう。逆の立場だったら、僕もそうすると思います」と持論を口にしていました。

地上波番組からは遠ざかっている宮迫さんですが、2023年12月30日放送『アメトーーク!5時間40分SP』(テレビ朝日系)では、出演者の劇団ひとりさんが生成AIを紹介した際、過去の動画や音声のデータをもとにした“AI宮迫”が登場しました。“AI宮迫”は番組側の依頼で、宮迫さんにも許可を得て開発されたとしています。さらに番組中「本人ではありません」というような注釈のテロップも出たほど。パロディ的なニュアンスながら『アメトーーク!』に“出演”したことで、宮迫さんの地上波復帰は一歩前進したようにも感じられました。

円滑な番組作りを最優先するなら「宮迫さんはブッキングしない」がベター

それにしても、不祥事を起こしたとは言えなぜそんなに宮迫さんの地上波出演のハードルは高いのでしょうか。ここからはあくまで筆者がおこなった取材やリサーチなどをもとにした推察であることを前提に読んでいただきたいのですが、一つは当然ながら、スポンサーや吉本興業など各方面への配慮が挙げられるでしょう。

宮迫さんは長年の経験もあって、芸人としての腕は間違いないものがあります。実力的には、出演者として番組を任せて不足はないでしょう。さらにどこかの地上波番組が現在の宮迫さんを起用したとなれば、その話題性から視聴率は爆上がりし、SNSやネットニュースも当分はそのことで持ちきりになると考えられます。

つまり“引き”はかなりあります。それでも番組側が踏み切れないのは、やはりスポンサーが気になるからでしょう。宮迫さんが、田村亮さん(ロンドンブーツ1号2号)と開いた「闇営業問題」の記者会見はショッキングな印象を与えるものでした。特に宮迫さんは、お笑いだけではなく、映画、ドラマ、音楽などでも活躍するほどの売れっ子でした。そんな宮迫さんだからこそ衝撃は大きく、その分、約5年が経っても宮迫さんを見ると反射的に「闇営業」の字面がパッと浮かぶ方もたくさんいると思います。

番組制作の鍵を握るスポンサーのことを考えれば、番組側がそうまでして宮迫さんを使う“賭け”をする理由は見当たりません。「なにごとも穏便に済ませたほうが良い」というと消極的な姿勢に受け取られますが、テレビ番組の制作者に限らず、社会で働く多くの人はそこまでの“賭け”をしないことが業務の進行上でいかに必要であるか理解できるのではないでしょうか。

あと宮迫さんがYouTubeチャンネルで語っていらっしゃったように、「今の時代で圧力とかはない」のは間違いないと思います。たしかにかつて宮迫さんが所属していた吉本興業は、影響力が非常に強い会社です。メディアもついつい忖度する部分がかなりあるはず。しかしさすがに今は圧力はもちろんのこと、そこまでの忖度もNGです。

ただし、あらゆる地上波番組にお笑い芸人が出ている昨今、「円満退社は存在しない」の象徴でもある宮迫さんがもしそこに出演したら、同席する吉本興業の関係者や所属芸人はどのように接して良いのか分からなくなるのではないでしょうか。そういった戸惑いや混乱からいろいろギクシャクし、番組そのものになんらかの影響が及ぶ可能性もあります。つまり、あくまで円滑な番組作りを最優先するなら「宮迫さんはブッキングしない」と考えるのが、これも仕事をする上では当たり前のように思えます。

2021年に元相方・蛍原徹さんをインタビュー、そこで感じた蛍原さんの素晴らしい人間性

筆者は2021年春、リモート取材で元相方の蛍原徹さんにインタビューをおこないました(※註1)。

『松本家の休日』(ABCテレビ)という、もともと宮迫さんが“お父ちゃん”役で出演していた番組についての取材で、「闇営業問題」を受けて蛍原さんが“お父ちゃん”役を引き継いだものでした。もちろん番組内容に関する話が中心でしたが、蛍原さんの方から「(宮迫さんのことは)触れづらくてすみません」と切り出してくださり、さらに宮迫さんに代わる形で番組に出演した最初の番組収録について「緊張したに決まっているじゃないですか!」と笑わせてくれたばかりか、宮迫さんからYouTubeチャンネルの開設を事前に伝えられていなかったこともあり「YouTubeという言葉に敏感になっていた時期がありました。頭がいっぱいいっぱいだったんです」と素直な気持ちを明かしてくださいました。

リモート取材ですが蛍原さんと接した印象は本当に良く、こちらの気持ちも察していろんなことを自分からちゃんと喋ってくださいました。若手芸人からベテラン芸人まで、蛍原さんが愛される理由がはっきり分かりました。もちろん、テレビ番組などのスタッフも蛍原さんには好印象を持っているのではないでしょうか。

YouTubeチャンネルの開設報告の件も然り、2021年8月17日配信『アメトーーク 特別編 雨上がり決死隊解散報告会』(公式YouTubeチャンネル、ABEMA)ではコンビというものの捉え方について、宮迫さん、蛍原さんの間に大きなズレが感じられました。番組のなかでは、グッといろいろ堪えながら宮迫さんの話を聞く蛍原さんの様子が印象的でした。

そんな蛍原さんの心境を慮り、地上波番組の関係者が心情的な部分で「宮迫さんは出せない」と判断するのもうなずけます。これは決して「忖度」ではなく、「人としての気持ち」だと思います。

※註1:「松本人志は神」、蛍原&たむけんが『松本家の休日』語る(Lmaga.jp)

「圧力」でも「忖度」でもなく、「人の気持ち」

ちなみに筆者がおこなった『松本家の休日』のインタビュー記事では、「宮迫博之」の名前は一度も出てきていません。番組のなかでの役柄である“お父ちゃん”という名前で、宮迫さんのことが表現されています。記事を読まれた方は違和感があったと想像できます。

そしてこういった処置も、見方によっては事務所の「圧力」だとか、メディアや番組の「忖度」とされるかもしれません。ただ、当時は関係者全員が前代未聞の出来事を前に「どうすることがベストなのか」と頭を悩ませていたという事実がありました。そんななか、本音で宮迫さんのことを話してくださった蛍原さんの気持ちも尊重し、なんとか“使える形”を模索したものでした。すべての面で、いろんな方の「人としての気持ち」が動いたインタビューでした。

宮迫さんが今後もし地上波に出演するとなれば、もちろんその番組はチェックします。そしてきっと、ほかのメディアやライター、記者と同様に筆者もいろんな記事を書くでしょう。その日がやって来るのかどうか。良い意味でもなく、悪い意味でもなく、フラットな思いで待ち侘びたいです。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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