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木は食べられる? 木材の新しい利用法はこれだ!

田中淳夫森林ジャーナリスト
木材を微細なパウダーにしたら新活用法が?

木材と言えば、建築材。あるいは家具などが大半を占める用途……そんなイメージを持っている人は多いだろう。

実際はパルプ・チップ用材、つまり紙の原料になる分も多いし、世界的には薪など燃料利用も馬鹿にならない。

だが、最近は木材加工の技術の進歩も相まって、さまざまな新たな木材の利用法が提案されている。

そのなかで、もっとも単純で、しかし斬新な利用法を紹介しよう。

それは、食べることだ。木材を食べ物にしようというのである。

樹木の中でも若芽やゴボウのような根っこ部分を食すことは、日本人には珍しいことではない。根の中にはデンプンを溜め込む性質のものもあり、十分食べ物になってきた。

しかし、ここでいう「食べる木材」というのは、あくまで木材、つまり木繊維である。

木繊維の成分は主にセルロースとリグニンだが、これは人間には消化できない物質だ。消化酵素を持っていないからである。草食動物やシロアリのように体内でセルロースを分解できる仕組みがないのだ。もちろん木繊維は、人間にとってよい味もしない。

木材を食べ物にするアイデア自体はこれまでもあったが、その場合はセルロースを分解してブドウ糖にすることが前提だった。しかし、今注目を集めているのは、セルロースのまま食べることだ。そして、人体が分解できないことを利用しようというのだ。

なぜなら、消化できないことは、イコール栄養にならない、それはダイエット食品につながるのではないか、という発想が生まれたからである。一方で食物繊維として知られるように、栄養はなくても身体によい食品成分はある。また木の香りも、喜ばれるはずだ。

すでに商品化も始まっている。大阪の織物会社オーミケンシ株式会社は、織物の技術を活かして木材からセルイートと呼ぶ食品を生み出した。木繊維とコンニャクのグルコマンナンを掛け合わせたものだそうである。そして麺類に仕立てた。するとコンニャク特有の苦みが消えて食感もよくなったそうだ。また非常にカロリーが低く、脂肪や炭水化物もほとんど含まない。

セルイートは、現在製造工場を建設中だそうだから、近く商品として店頭に並びだすだろう。

一方、すでに「木を食べる」(牧野出版)という著作もある静岡理工科大学の志村史夫教授は、スギやヒノキをパウダー化して、食品に混ぜることを提案している。だいたい直径0,3ミリくらいの粉(スーパーウッドパウダー)にして、それを小麦粉などと混ぜてパンやケーキ、ビスケット、ハンバーグ、ソーセージなどにする試みに挑戦しているのだ。

また食べるのではないが、静岡県川根本町の樽脇園とコラボして、スギのパウダーを茶葉と混ぜた「おがっティー」を発売し始めた。茶に木の香りがして味に深みを増すという。また花粉症にも効く、という声も上がっているそうだ。

そのほか、木材を薄く剥いだかんなくずからカツオ節のように出汁を取る試みをした料理人もいる。

いずれも面白い挑戦だ。木材利用にまったく新しい境地が広がるかもしれない。

ただ、木そのものは人体に無害とはいうものの、配合割合などは十分に研究しないといけないだろう。

木材の新用途だからと林業振興につなげる声もあるが、それはまた別の話。どんなに木材を食べるようになっても、それで消費される木材量はしれている。またセルロースは、木材だけでなく草本類や食品残さからも取り出せる。

それでもステロタイプな木材のイメージを変えて、森林に親しみを持てるようになれは幸いだ。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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