巨大ブラックホールが星を破壊する瞬間か?太陽の1000兆倍明るい光線を検出
どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。
今回は「太陽光より1000兆倍明るい突発現象を観測」というテーマで動画をお送りしていきます。
●類を見ないほど明るい光を観測
今年2022年の2月、太陽が放つ光の実に1000兆倍を超えるという、異次元な明るさの突発現象由来の光である「AT 2022cmc」が地球に届きました。
その現象の研究成果が、11月30日に公表されています。
通常このような突発現象は、大質量の恒星が一生の最期に大爆発とともに大量のγ線などの高エネルギー電磁波を放つ「γ線バースト」であると考えられます。
ですがAT 2022cmcは、最強のγ線バーストの残光より100倍強力な光を放ちました。
さらに世界中の21台もの望遠鏡が様々な波長の電磁波で、AT 2022cmcの発生源を数週間にわたって観測し続けた結果、X線の放射が極端に強すぎることが判明したそうです。
このような観測結果から研究者たちは、AT 2022cmcを放った突発現象の正体は、超巨大なブラックホールに接近しすぎてしまった恒星が破壊される「潮汐破壊現象(TDE)」であったと考えています。
ブラックホールがものを飲み込む際、スパゲッティのような非常に細長い形状に変形させてしまうので、その見た目通りスパゲッティ化現象とも呼ばれています。
TDEが起こると、ブラックホールの周囲に極めて明るい降着円盤やジェットが形成され、そこから放たれた光が地球で観測されます。
TDEが天の川銀河で起こるのは1万~10万年に1度程度なんだそうです。
超新星爆発が天の川銀河で起こるのが100年に1度なので、TDEは非常に珍しい現象といえます。
●異常に明るい理由とは?
AT 2022cmcの発生源天体は、地球から実に約85億光年も彼方にあると判明しました。
より具体的にはその距離にある未発見の銀河中心のブラックホールが発生源とみられますが、残光が明るすぎて銀河の観測がまだできていません。
そして約85億光年彼方での発生は、過去のどのTDEよりも遠い場所での発生であるにも関わらず、地球からでも十分に明るい閃光が観測できました。
ではなぜこれほど明るい光が観測できたのでしょうか?
研究チームによるとその理由は、ブラックホールが恒星を飲み込んでいる際に放ったジェットが地球に向けて放たれたためであるそうです。
亜光速のジェットを正面から観測すると、「ドップラーバースト」という効果により、本来の明るさよりも極めて明るく見えます。
研究チームはこれほどの明るい光が届いた理由がドップラーバーストによるものであると仮定した場合、ブラックホールのジェットとして放たれる水素のガスがどれくらいの速度で放たれる必要があるのかを計算しました。
その結果、なんと光速の99.99%という速度が必要であると判明したそうです。
そしてこのような速度のジェットを放つには、太陽の約5億倍もの質量を持つブラックホールが、たった1年で太陽質量の半分に相当する膨大なガスを飲み込んでいる必要があるとも判明しました。
過去の観測データから、亜光速のジェットを伴うTDEは、TDE全体のうちたったの1%程度に過ぎないと考えられます。
その中でもジェットが地球に向いたTDEは、今回のAT 2022cmcを含めて過去に4例しかありません。
AT 2022cmc以前にこのようなTDEを発見したのは10年以上も前のことです。そしてその中で可視光線での観測で発見されたのは、AT 2022cmcが唯一とのことです。
●今後新たにわかること
TDEがジェットを放つためには、TDEを起こすブラックホールが非常に高速で自転している必要があると考えられているものの、その明確な原因は未だ謎のままです。
今回のように強力なジェットを伴うTDEを観測することで、今後TDEがジェットを伴う条件についてより明確に理解されることに繋がるかもしれません。
さらに現在では、宇宙にある膨大な数の銀河それぞれの中心部に、巨大なブラックホールが存在していると考えられています。
そしてそのようなブラックホールは初期の宇宙でも発見されています。
このことから、ブラックホールは宇宙の非常に初期の段階で、非常に速いペースで成長したと考えられています。
今回のようなTDEを調べることは、宇宙初期のブラックホール急成長プロセスの謎の解明へと繋がる可能性もあります。