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米国VSイラン 日本がホルムズ海峡に自衛隊を送るべきでない4つの理由

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
反米・反イスラエルの抗議デモがイラン主導で中東各地で行われている(写真:ロイター/アフロ)

 米国とイランの関係悪化に伴うホルムズ海峡周辺の海域での不穏な情勢に対し、トランプ政権は米国主導の有志連合を結成、この海域を航行する民間船舶を有志連合に参加する国々の海軍艦船により保護しようと提案している。これに対し、昨日28日、イランのムハンマド・ジャヴァド・ザリフ外相が来日し、安倍晋三首相と会談。ペルシャ湾の緊張緩和のため日本側に協力を求めたとされる。

 有志連合艦隊に日本が自衛隊を派遣することは、以下のような法的問題やリスクがある。

1)米国の国連安保理決議違反

2)海上自衛隊を派遣する法的根拠の欠如

3)地政学的リスク

4)イラク戦争の教訓から

以下、順に解説する。

1)米国の国連安保理決議違反

核合意の関係図 筆者とTOKYO MXが作成
核合意の関係図 筆者とTOKYO MXが作成

 そもそも、昨今の米国とイランの関係悪化、それに伴う、ホルムズ海峡周辺海域での緊張の高まりは、昨年5月に米国が包括的共同作業計画(JCPOA)、いわゆる「核合意」から一方的に離脱したことに端を発する。この核合意はイラン側に対し、「濃縮ウランの貯蔵量・遠心分離機の数の削減」「兵器級プルトニウム製造の禁止」「研究開発への制約」「査察の受け入れ・透明性強化」「約10年間、核兵器1つを作るのに必要な核物質を獲得するのに要する時間を1年以上にする」などを求め、その見返りに、米国、英国、ドイツ、フランス、EU、中国、ロシアは、対イラン経済制裁を解除するというものだ。

内閣府原子力委員会 包括的共同作業計画

http://www.aec.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/siryo2015/siryo29/siryo1.pdf

 この核合意は、国連安全保障理事会決議第 2231 号で全会一致の支持を受けた、国際的な核不拡散構造の主要要素であり、地域の安全保障に不可欠なものである

駐日欧州連合代表部:イラン核合意に関するトランプ米大統領の発表を受けたEUの声明

https://bit.ly/2KiZR9s

 つまり、核合意を尊重することは、国連加盟国に拘束力をもった義務であると解釈できるだろう。すなわち、トランプ政権の核合意からの離脱は、国連安保理決議 2231 号に反するものであり、日本としては、欧州や中国、ロシア等と共に、トランプ政権に対し、核合意の枠組みに米国が戻るよう、促すべきである。

2)海上自衛隊を派遣する法的根拠の欠如

 米国主導の有志連合艦隊が、ホルムズ海峡で活動するにあたり、また日本が海上自衛隊を派遣するにあたり、法的根拠が欠如している。各国海軍による海上警備に関しては、ソマリア沖・アデン湾での海賊対策があるが、こちらは国連安保理決議第 1816 号によるものだ。

外務省:ソマリア沖の海賊・武装強盗行為対策に関する国連安保理決議の採択について

https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/danwa/20/dga_0603.html

 また、日本の国内法においても、上記、国連決議第 1816 号を受けた海賊対処法(海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律)が根拠法となっている。これに対し、今回の米国主導のホルムズ海峡有志連合は、国連安保理で支持を得ることは考えにくい。仮に、安保理で採決するにしても、中国やロシアが拒否権を発動する可能性もある。また、ホルムズ海峡を航行する日本関連の船舶の多くは、いわゆる便宜置籍船(関連情報)であり、つまり法的には、日本籍の船舶ではなく、自衛隊が個別的自衛権を行使して保護する対象とは言い難い

3)地政学的リスク

米国とイラン及び、中東各国の相関図 筆者とTOKYO MXが作成
米国とイラン及び、中東各国の相関図 筆者とTOKYO MXが作成

 イランに面するホルムズ海峡に、米国主導で「有志連合」艦隊を派遣することは、事実上の対イラン包囲網であり軍事的圧力である。今後の展開によっては、中東各国・各勢力を巻き込んだ大戦争に発展する恐れがある。

 トランプ大統領が、イランに圧力をかけている背景には、再選にむけ、強力な集票マシーンである米国のキリスト教右派「福音派」の支持が欲しいという事情がある。福音派は、彼らの聖書の解釈からイスラエルを支持。また、トランプ大統領の側近であり、愛娘イヴァンカの夫であるジャレッド・クシュナー上級顧問は、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相と家族ぐるみで親交があるなど、イスラエル政界の右派と強い結びつきがある。つまり、トランプ大統領の対イラン強硬姿勢はイスラエルに配慮したものだと言えよう。

トランプが核戦争を引き起こす?!中東危機の深刻化、米ロの対立―日本も他人事ではない

https://news.yahoo.co.jp/byline/shivarei/20161115-00064440/

 そのイスラエルは核合意に納得していない。同国の最大の敵であるイランが原発であれ、核開発能力を持つことは絶対に許容できない。むしろ、米国を巻き込んで対イラン攻撃を行いたい、というのがイスラエルの右派政治家達の発想。なお、イスラエルは事実上の核兵器保有国である。米国のシンクタンク・戦略国際問題研究所(CSIS)が、2007年にまとめたイスラエルとイランの全面核戦争を想定した研究報告によると、イラン側の犠牲者数は1600万~2800万人、イスラエル側の犠牲者数を20万~80万人と見積もっている

 イランは中東の大国であり、イラクのシーア派、レバノンのヒズボラ、シリアのアサド政権、パレスチナ自治区のハマスなどと関係が深い。米国&イスラエルが対イラン攻撃を行えば、これらの親イラン勢力が米国及びイスラエル、有志連合参加国に攻撃してくる可能性も高い。上記のような複雑かつ危うい関係性の中で、「有志連合」艦隊に海上自衛隊の艦船を派遣することは極めてリスキーだ。不測の事態が発生した場合、安倍政権の意向や安保法制、憲法といった日本側の都合と関係なく、否応なくこの海域・地域での紛争に巻き込まれる危険性がある。

 日本はイランとの一定の外交関係がある。本件には中立的な立場を取り、不幸にも武力衝突が発生した際も、どの勢力にも加担することはないことを宣言し、そのかわりにホルムズ海峡を行き交う日本関係の船舶に危害を加えないよう、イランに要請することが望ましい。

4)イラク戦争の教訓から

 米国のジョン・ボルトン大統領補佐官が先月、河野太郎外相や岩屋毅防衛相らと相次いで会談。有志連合への日本の参加を求めたと報じられている。このボルトン氏は、ブッシュ政権時に、国務次官だった人物。つまり、米国が、存在しなかった大量破壊兵器情報でイラク戦争を強引に推し進め、安保理決議無し、国連検証違反の先制攻撃を行ったことに関して、大いに責任がある人物である。イラク戦争の主戦派であったボルトン氏は、イランに対しても非常に強硬派で、一部報道によれば、トランプ大統領すら持て余し気味だという。イラク戦争の「戦犯」という経歴、これまでもイランの体制転換をあからさまに唱えてきたという経緯から考えても、ボルトン氏主導の米国の対イラン政策に日本が関わることには、大きなリスクがあると観るべきだ。

あの男が狙う「イラン戦争」──イラク戦争の黒幕ボルトンが再び動く

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/05/post-12128_1.php

 日本においても、イラク戦争での自衛隊派遣において、第一次安倍政権での「国連その他人道支援関係者の輸送」という説明に反し、イラク派遣航空自衛隊の輸送人員実績全体の約 6 割を米軍関係者が占めていた

山本太郎vs安倍晋三ー暴かれたイラク戦争加担、米軍による無差別虐殺、戦争犯罪支える対米追従・安保法制

https://news.yahoo.co.jp/byline/shivarei/20150731-00048032/

 昨年 4 月にその存在が明らかになったイラク派遣陸上自衛隊の日報により、イラク南部サマワに駐留していた陸上自衛隊の「裏の任務」として、米軍その他多国籍軍のイラク占領に反対していたシーア派勢力サドル派への監視活動があったことが裏付けられた。また、これらの監視活動による情報が、米軍等の多国籍軍に共有されていた形跡もある。つまり、直接の戦闘には参加しなかったとは言え、イラク派遣の陸上自衛隊は、米軍を中心とする多国籍軍の武力行使と一体化していたと観るべきであろう。

自衛隊イラク日報では、自衛隊が現地で諜報活動を行っていた形跡が
自衛隊イラク日報では、自衛隊が現地で諜報活動を行っていた形跡が

【陸自日報】報道で語られない真の問題―イラク現地取材から読み解く

https://news.yahoo.co.jp/byline/shivarei/20180606-00086090/

 ホルムズ海峡への有志連合艦隊への海自派遣も、イラク派遣のように、主権者やその代表である野党国会議員に十分な説明のないまま、なし崩し的に米国へ協力していくことが懸念される。米国が有志連合への参加を求めている今だからこそ、イラク戦争での自衛隊派遣の問題点を改めて徹底的に検証することが必要だ。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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