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母親に抱かれた赤ちゃんがピット・ブルに襲われて死亡(伊) それほど凶暴なのか?

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
イメージ写真(写真:イメージマート)

中央日報は、イタリアで生後15カ月の男の子が猛犬ピット・ブル・テリア2頭にかみつかれて亡くなったと伝えています。

赤ちゃんを抱っこした母親と(赤ちゃんの)叔父が玄関から出た瞬間、2頭のピット・ブル・テリアに襲われたそうです。近くに叔父がいましたが、どうすることもできなかったのです。その犬の飼い主は、母親の友人ということがわかっています。

大人の男性がいてもピット・ブル・テリアを静止できないものなのでしょうか。そのあたりを見ていきましょう。

実際にピット・ブル・テリアを診察した感想

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イメージ写真写真:イメージマート

はじめに断っておきますが、ピット・ブル・テリアを専門に診察しているわけではありません。セント・バーナードも筆者の動物病院に来院しますが、大型犬の1頭としてピット・ブル・テリアを診察した感想を書きます。

雄の3歳のピット・ブル・テリアが来院するときには、必ず他の犬がいないときと決まっていました。飼い主は、事前に電話をかけてきて「犬は1頭もいないですか?」と確認していました。

他の犬がいなくて飼い主が傍らにいると、かむ、襲うなどの雰囲気はまったく出さなかったです。

飼い主が犬を保定しなくても、筆者がひとりで簡単に採血できました。口輪をすることもエリザベスカラーをすることもありませんでした。この犬の場合は、飼い主が顔を持ってかまないようにするというような必要がなかったのです。

こう読むと、ピット・ブル・テリアは凶暴ではないのか、と思われるかもしれません。

これには、わけがあるのです。それを見ていきましょう。

ピット・ブル・テリアは飼い主には従順

ピット・ブル・テリアは、飼い主には従順で愛情深いです。この犬が闘犬になるように改良された犬だとは思えないほどです。

つまり、しつけをされたピット・ブル・テリアの傍らに飼い主がいれば、そんなに凶暴ではないのです。しつけをされた犬ということは重要です。

ピット・ブル・テリアの愛好家は、凛々しい顔をしているのに飼い主には懐き、リビングにいるときなどは、膝に顔を乗せて甘えてくるのがたまらないと言います。

その反面、スイッチが入ると獰猛になり骨が砕けるほどの力強い顎を持っています。ピット・ブル・テリアの顔を見ると、下顎が発達しているのがわかります。えらが張った顔なのです。このような強靭な骨と筋肉を持った犬にかまれると、赤ちゃんなら亡くなる可能性が高いのがわかります。

アメリカン・ピット・ブル・テリアもピット・ブル・テリアも同じ種類の犬で呼び名が多様

写真:アフロ

北海道鷹栖町で逃亡している(4月24日現在)アメリカン・ピット・ブル・テリアもピット・ブル・テリアも同じ種類の犬です。他には、ピット・ブル、アメリカン・ブル、アメリカン・ピット・ブルドッグなどのさまざまのな呼び名があります。この犬は、アメリカ合衆国で闘犬のために改良された犬です。

1870年代にイギリスからアメリカ合衆国に、闘犬用のスタッフォードシャー・ブル・テリアが渡りました。その犬は、ピット・ブル・テリアに比べるとあまりにも小さかったのです。それで、ピット・ブル・テリアは、四肢の長い大型犬に改良された闘犬になりました。

アメリカ合衆国では、1900年に闘犬は禁止されていますが、やはり闘犬は根強い人気があるのです。

イギリスでは1991年に、危険な犬法(Dangerous Dogs Act)を制定して、ピット・ブル・テリアを飼うことを禁止しました。すでに飼われている子は、以下のことをする必要がありました。

・登録する

・去勢または避妊手術をする

・身分証明書のためマイクロチップや入れ墨を入れる

・公共場では、マズルをつけてリードをつけて散歩する

日本では、ピット・ブル・テリアなどの犬を特定犬としている自治体もあります。

特定犬とは、人に危害を与える恐れがある「特定の犬種」や、「一定以上の大きさの犬」を各自治体の条例で定めているものです。日本では、全ての自治体が特定犬制度を導入しているわけではありません。

まとめ

写真:イメージマート

ピット・ブル・テリアは飼い主から見れば、人懐っこく従順な犬です。

しかし、ピット・ブル・テリアは人間が闘犬用に改良した犬なので、飼い主がいないと獰猛になり傷害事件が世界中で起こっています。

日本においては、特定犬の条例がある自治体ではそれに従い、これに該当しない自治体では、普通の犬と同じ扱いです。そのため、今回の北海道鷹栖町で逃亡したりする事件が起こることもあります。

もし、逃走したピット・ブル・テリアを見ても触ったりせずに、警察に届けましょう。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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