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飯テロドラマをお会計で比較すると…。チェーン店グルメが財布にやさしい『お耳に合いましたら。』

斉藤貴志芸能ライター/編集者
(C)「お耳に合いましたら。」製作委員会

テレビ東京系の深夜のお家芸として定着した飯テロドラマ。現在は元祖の『孤独のグルメ』のSeason9と共に、『お耳に合いましたら。』が放送されている。『孤独のグルメ』で料理の値段が気にされることはないが、『お耳に合いましたら。』はチェーン店のグルメにスポットを当て、財布にやさしい飯テロとなっている。

メニューの値段は見ない?『孤独のグルメ』

 『孤独のグルメ』は松重豊が演じる輸入雑貨商の井之頭五郎が、営業先で見つけた食事処に立ち寄っては食べたいものを自由に食べる。公式HPで“グルメドキュメンタリードラマ”と謳っているのは、劇中に登場するのが実在の店ということからだろう。

 1作目は2012年にスタート。五郎の食べっぷりが人気を呼んで、シリーズ化された。2017年からは『大晦日スペシャル』が『NHK紅白歌合戦』の裏で放送されている。放送中のSeason9は2年ぶりのシリーズ本編だ。

 商談を終えて、「腹が減った」と店を探して飛び込み、メニューや他の客の食べているものを見ながら、気になる料理を注文するのが毎回の定番。健啖家の五郎の食事は1品に留まらないことが多いが、メニューの値段を気にするのは見たことがない。こういうドラマなので、当たり前だが。

 五郎が入るのは街なかの店で、高級レストランではない。それでも地元の名店といったところが多く、裕福でない身としては、ふと現実に戻って「毎回こんなに奮発はできないな」と思うこともある。

井之頭五郎の焼肉店での食事は8000円越え

 実際、五郎の食事の会計はいくらになるのか? 今回の1話で訪れたのは神奈川県川崎市の『とんかつ しお田』。ひれかつ御膳、魚介のクリームコロッケ、エビフライを食していた。食べログの情報によると、それぞれ1900円、450円、1300円。ただ、エビフライは本来3本で、五郎は特別に1本だけで出してもらっていたので、いくらかわからないが、単純計算で450円とすると、総計は2800円だ。

 2話は神奈川県中郡二宮の『魚処にしけん』で、金目鯛の煮付定食と追加で刺身5点の盛合せ定食を注文。これを「恋人セット」と呼ぶそうで、2100円+1800円=3900円となる。金目鯛と刺身が揃った「孤独のグルメセット」(3500円)というのもできたそうだ。

 そして、豪快だったのが5話。静岡県伊東市の『焼肉ふじ』で、牛焼きしゃぶ(1800円)、豚焼きしゃぶ(800円)、上ハラミ(1880円)、ライス(350円)、野菜スープ小(600円)、キムチ(450円)、ウーロン茶(250円)に、追加で石焼ビビンバ(1100円)、赤身カルビ(1400円)も。五郎は「焼肉ふじロックフェスティバル2021だ!」と盛り上がっていたが、会計は8630円に至る。

『お耳』で伊藤万理華がお持ち帰りをおいしそうに

 一連の飯テロドラマの中でも、リーズナブルを軸にした作品もあった。2019年放送で、この11月に劇場版が公開される『きのう何食べた?』。一緒に暮らす男性カップルが、月の食費を2万5千円以内に抑えることを目標にしていた。ただ、そのために自炊をする話で、店に食べに行く作品とは趣旨が違う。

 また、2020年に放送された『女子グルメバーガー部』は、タイトル通りグルメバーガーに特化。登場する12人の女子には高校生もいて、お手軽感はあるが、それでも普通のハンバーガーよりランクが上で、1品で1000円以上していた。

 そして、現在放送中の『お耳に合いましたら。』では、チェーン店グルメ=チェンメシにスポットを当てている。主人公の高村美園(伊藤万理華)は漬物会社に勤める会社員。氷川きよしのポッドキャストを聴くことと、会社帰りにチェンメシを買って自宅で食べることを生活の楽しみにしている。

 人前で話すのは苦手で、会議でも発言できないでいたが、チェンメシのことは「どこの街にもあって、決して特別ではない。でも、欲さずにはいられない」などと溢れ出すように喋る。その姿を見た同僚に勧められ、ポッドキャストの配信を始めた。毎回自宅で、日々の出来事や思い出と絡めたチェンメシ愛を、実際に食べながら語っていく。

 元乃木坂46の伊藤万理華は、公開中の主演映画『サマーフィルムにのって』が好評で、同じ松本壮史監督が携わるこのドラマでも、コロコロ表情が変わるのが楽しい。今回の演技では「ヘタなしゃべりで何を言ってるか全然わからなくても、何だかおいしそうに思える。そんなテンポが大事だと思っています」と話していた。

『お耳に合いましたら。』に主演している伊藤万理華(撮影/松下茜)
『お耳に合いましたら。』に主演している伊藤万理華(撮影/松下茜)

元乃木坂46の伊藤万理華が主演映画で見つけた自分の強み

松屋、餃子の王将、富士そば…1コインで済むことも

 彼女が劇中で食べたのは、1話が松屋のカレギュウで560円。2話では餃子の王将から餃子(259円)、天津飯・甘酢たれ(518円)、ごま団子(356円)と買って総額1133円となったが、3話の富士そばのコロッケそばは430円。4話のてんやのオールスター天丼は690円だ(いずれもお持ち帰り)。チェーン店価格で当然ながら、『孤独のグルメ』に比べるとだいぶ安上がりになる。

 それでも、伊藤が「う~ん、おいしい!」と食べるのは至福な感じで、食欲をそそられるのは変わりない。同僚役の井桁弘恵も「松屋のカレギュウは美園が食べてから、ずっと気になっていて。ロケ現場の横にたまたま松屋があったので、買ってロケバスで食べたら、おいしかったです」と話していた。

 食べたくなったら手を出せる庶民的な値段のうえに、松屋でも富士そばでも、生活圏内で立ち寄れるところに店があることが多い。コロナ禍でテイクアウト需要が増えている中、持ち帰って自宅で食べるのも時流に合っている。

(C)「お耳に合いましたら。」製作委員会
(C)「お耳に合いましたら。」製作委員会

いつでもどこでも同じおいしさが味わえる奇跡

 グルメものとはいえドラマは情報番組ではないので、値段を気にして観るのは無粋かもしれない。だが、観ておいしそうと思ったら本当に食べられるのは、『お耳に合いましたら。』の良さでもある。食の好みは人それぞれ。名店の2000円する手打ちそばより、松屋の430円のコロッケそばが舌に馴染むこともある。

 劇中のポッドキャストで美園は、牛めしとカレーが合わさった松屋のカレギュウを子どもの頃に初めて食べたときを振り返り、「口がキラキラキラってした記憶で、運命の出会いを果たした感覚が込み上げてきて、神様が祝福してくれている気持ちになったんです!」とまで語っていた。

 そして、「チェンメシってすごいですよね? どこの街に行ってもだいたいあって、24時間やってるところも多くて。ということは、どこで何時に行っても毎回同じおいしさが味わえる。これもう、奇跡じゃないですか!?」とも。

 学生時代に友だちと語りながら食べたジョナサンのフレンチフライ トリュフ塩立てや、うまくいかなかった営業のあとで食べるドムドムバーガーのお好み焼きバーガーといったストーリーもあった。自分の日常の記憶とも重なりがちで、何気なく立ち寄って食べた味と共に思い出したりもする。

 財布にやさしいチェンメシの味わい深さを、『お耳に合いましたら。』は感じさせてくれる。

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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