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「マスクに慣れよう」デンマーク感染者増加で着用義務化へ

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
クラスターが発生している都市オーフスでは交通機関でマスク義務化へ(写真:ロイター/アフロ)

夏の休暇が終わり始め、感染者が増加傾向

北欧の中でデンマークの感染者数の増加が目立ち始めている。欧州の中でも早い段階に感染拡大抑制策の緩和を始めた国だったが、感染者数を示すグラフの矢印が上向きに増加し始めたのは7月27日から。

デンマーク全体では6・7日の2日連続で新規感染者数が100名を越えた。現在はグラフの矢印は下向きだが油断がならない状態だ。

推移はデンマーク国立血清研究所SSIの公式HPにてグラフなどが掲載されている。

8日には一部集会の参加者の上限を100人から200人に緩和する予定だったが、感染者増加のために見送りとなった。

夏の休暇は終わるが、他国からの旅行者は来続け、8月は仕事や教育機関の再開で人の移動も活発化する。そのため北欧各国では感染者がより増加するという見方で緊張が走っている。

7日、フレデリクセン首相は現状を「心配しており」、予定されていたナイトライフの再開も難しいだろうという見解を示している。

政府と議会は12日に今後の経済再開対策について協議をする予定。

各地でクラスター発生、一部地域でマスク着用を推奨から義務へ

7月31日、デンマーク保健庁は混雑している公共交通機関でのマスク着用を推奨すると発表(義務ではない)。

着用が推奨されているのは、感染者、感染率が高い「赤色」指定の国から帰国して空港から自宅に帰る道のり、距離をとることが難しい混雑した公共交通機関など(保健局)。

デンマーク保健庁・公式HP「混雑している公共交通機関でのマスクは名案だ」(デンマーク語)

首都コペンハーゲンに続いて2番目に規模の大きい都市オーフスではクラスターが発生しており、連日のニュースを騒がせている。

8月5日、デンマーク患者安全庁はオーフスで人口10万人あたりの感染者数が20人を超えたと発表した。介護施設の訪問制限などの対策をとっている。

8月7日、保健庁はオーフスではマスク義務化とした。一部の条件を満たす子どもや、やむをえない事情で着用が難しい人などは対象ではない。着用していない場合は、職員は乗客の乗車拒否が可能となる。

エンゲルブレヒト運輸大臣は「ラッシュアワーを避けて移動し、可能ならば自転車を。できるだけ多くの人が時間帯をずらして移動することが重要。可能な場所ではソーシャルディスタンスをとり、手洗いを」と呼び掛けている(公共局DR

政府や自治体は、正しいマスクのつけ方の情報周知を進めている(下は保健局の動画)。

8月10日、ホイ二ケ保健・高齢者大臣は記者会見で、オーフスに加え、5か所の自治体で公共交通機関でのマスク着用を義務付けると発表。対象地域はSilkeborg、Odder、Horsens、Skanderborg、Favrskov。

オーフスではマスクが完売となる薬局も出ている。デンマーク政府は国の貯蔵庫に9000万枚のマスクを保管しており、そのうち500万枚がオーフスへと送られる。コロナ対策で医療現場を支えるために、貯蔵庫のマスクや医療機器の補充が始まったのは今年3月だとデンマーク公共局DRは伝える。

8月11日、一部の高等教育機関は授業中のマスク着用を義務化すると発表。学生の経済的負担にならないように、マスク購入の料金は学校側が負担する意向だ(公共局DR)。

北欧他国の市民の考え方にも影響を及ぼす

今デンマーク現地のニュースメディアを見ると、マスクを着用する市民の写真を見かける。マスクが浸透していなかった数週間前の北欧メディアでは考えられなかった光景だ。

デンマークの様子は、ご近所の北欧他国の人々の考え方にも影響を与えている。

ノルウェーでも全国各地でクラスターが発生しているが、政府はマスク着用は「要請を検討」している段階で「義務化」まではされていない。

北欧各国の政府や保健局は共通して繰り返していることがある。「マスクはソーシャルディスタンスや手洗いのような対策の代替品となるものではなく、全ての問題の解決とはならない。しかし、おまけの対策として混雑した場所では一定の効果がある」というものだ。

北欧のマスクの科学的根拠の薄さに対する懐疑心は、今も消えてはいない。

コロナとダンス?

デンマークのフレデリクセン首相は7日にFacebookで市民にこう語りかけた。

※平等な関係性を重んじるが故に、政治家から市民への親しい「話し方」も北欧各国のコロナ対策の特徴といえる。

公共交通機関でのマスク着用は、多くの私たちにとって新しいものでしょう。スカンジナヴィア(ノルウェー・デンマーク・スウェーデン)に住む私たちはマスクには慣れていないので、これから学んでいきましょう。

今後も多くの地域で義務となる可能性を政府は否定できません。

社会として、私たちはコロナと「ダンスをする」ことを学ばなければいけません。

ダンスというのは変な表現かもしれませんね。通常はポジティブなものですから。でもワクチンや効果的な治療法ができるまで、私たちはコロナに向き合わなければいけません。

これからより長期的なフェーズへと入ります。ひとりひとりに忍耐力が必要とされます。

互いに身体的な距離はとりながら、心は一緒でありましょう。

出典:Facebook @Mette Frederiksen 一部要約

「感動した!」という声が多かった……というわけでもない。1万900回以上シェアされているが、コメント欄には政府への不満も多く書きこまれている。

Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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