熊本地震から5年 もう「ミルクvs母乳」で対立させたり呪いをかけないで!誤情報も多いので情報更新を
4月14日は熊本地震の前震が、16日は本震があった日で今年で5年を迎えます。
地震対策で最も重要なのは、家の耐震化と家具の固定です。熊本地震では、2000年以降の新耐震基準の木造住宅でも被害があったことが問題になりました。また、ブロック塀による死者もでており、転倒防止を実施していない家具の転倒やマンションでの被害も多くありました。
ブロック塀については、「阪神・淡路大震災から26年 実は謎のままのブロック塀倒壊による死者数 問題を先延ばししない政策を」という記事で、転倒防止については、「熊本地震の時、マンションで転倒等があった防災グッズは?賃借人でも家具固定OKにするための国の動きあり」の記事で最新情報をお伝えしたので、そちらを参考にしていただければと思います。
ミルクと母乳の話はとてもセンシティブ 最新の内閣府男女共同参画局防災・復興ガイドラインの言葉が寄り添ってくれる内容
今回は、熊本地震の際に話題になった液体ミルクに関わる話と、2020年5月に公開された内閣府男女共同参画局の災害時の乳幼児栄支援についての最新のガイドラインの内容、そして、いまだに間違った情報が多い現実についてお伝えしたいと思います。
まず、乳幼児栄養の話には、「ミルク」「母乳」という言葉が出てきます。実は、これらは、とてもセンシティブな言葉なのです。「ミルク」や「母乳」という言葉を聞くだけで、現在子育て中の人が傷つく場合があるだけでなく、すでに子育てが終わった方であっても、過去の傷がうずくこともあります。その理由はなぜなのか、詳しくは後述しますが、内閣府 男女共同参画局 災害対応力を強化する女性の視点~男女共同参画の視点からの防災・復興ガイドライン(以降、本文では、内閣府男女共同参画局ガイドラインと表記)に下記の文章があるのはご存知でしょうか?
育児中の女性は平常時から、「子供のため」として我慢したり、周囲からそうした価値観を押しつけられることも少なくありませんが、災害時は、そうした状況がより強まる傾向にあります。(出典 内閣府 男女共同参画局 災害対応力を強化する女性の視点~男女共同参画の視点からの防災・復興ガイドライン)
育児中の女性が日常から様々な価値観を押しつけられている状況に想いを寄せ、災害時に、さらにそれが強まる傾向があることについて指摘しています。そして、この後に、続く文章がこちらです。
災害時には、より一層、母親の意思を尊重し、不安や悩みをはき出しやすい環境を作っていくことで、 母親の回復に繋がり、最も脆弱である乳児の支援に繋げていくことが重要です。(出典 内閣府 男女共同参画局 災害対応力を強化する女性の視点~男女共同参画の視点からの防災・復興ガイドライン)
災害時には、より一層、「母親の意思を尊重し」とあります。
国のガイドラインにこのような子育て中の母親に寄り添う言葉が入ったことは、言葉自体が心強いものであるばかりか、災害時の乳幼児栄養支援にとっても重要なキーワードとなっています。具体的には、支援者が「母親の意思を尊重」できるよう、内閣府男女共同参画局ガイドラインには、下図の「授乳アセスメントシート」が入っています。
まずは、しっかり母親の意思や想い、災害前の授乳方法を聞くことを重視しています。
そして、フローチャートを使い、親の気持ちに寄り添って支援していきます。
災害時に支援する人は、授乳方法に限らず、自分がいいと思う方法を、自身の経験を交えておすすめしたくなるものです。それ自体は善意であり、多くの場合はよい結果を伴うので否定するべきことでは全くないのですが、こと、授乳に関する問題は、細心の注意が必要です。言葉ひとつとっても、母親を傷つける可能性があるだけでなく、乳幼児栄養に関しては、国際的な取り決め(後述する国際規準 WHOコードとも言われる)や災害時のガイドライン(後述するOG-IFE)があり、日本も賛同国として、遵守が求められているからです。
2016年の熊本地震の後、災害時の乳幼児栄養支援については、様々な混乱と議論があり、最新の内閣府男女共同参画局ガイドラインでは、国際的な取り決めやガイドラインに沿って、母親の意思を尊重し、個別の状況をアセスメントした上で支援するという方針になっています。この最新方針を前提に熊本地震の前と後の経緯を振りかえってみたいと思います。
熊本地震で注目された液体ミルクとその後の進展と混乱
2016年熊本地震では、フィンランド製の液体ミルクが、日本フィンランド友好議員連盟のイニシアチブによって支援物資として提供された事が話題になりました。液体ミルクの支援はこの時が初めてではなく、2011年東日本大震災の際も、海外から届いていましたが、当時は、すべての物資支援に混乱があったため、熊本地震ほどは注目されませんでした。
液体ミルクについては、東日本大震災の3年後、熊本地震の2年前の2014年に、一般社団法人「乳児用液体ミルク研究会」の代表理事の末永恵理さんが始めたオンライン署名が注目を集め、国内での普及に尽力されました。子育て中の親の声を受け、国も、2018年8月に厚労省が省令を改正し製品の規格基準などを定めたことにより液体ミルクの製造が可能になりました。
そして、日本製の液体ミルクが製造販売されるようになったのは、2019年3月です。過渡期ともいうべき2018年6月〜7月の西日本豪雨や2018年9月北海道胆振東部地震では、フィンランド製液体ミルクが東京都から支援物資として送付されたものの、倉庫等に留め置かれて配布されないケースもあったことが問題視されました。
特に、後者では、使用説明書に、誤った記載や誤解を招きやすい表現があったため、報道も相次ぎました。
ただ、この時点では、報道されることが少なかったのですが、今まで大きな災害に直面したことがない自治体が被災した場合、マンパワーもノウハウも不足してしまうため、液体ミルクに限らず、およそ物資支援はいつでも混乱に陥っていたという問題が前提としてありました。ミルクだけでなく、アレルギー対応物資(この問題はこちらで記事にしました)や介護食など、必要な人に必要な物資をピンポイントで届けるという物流技術は、自治体の通常業務にはないため得意ではなく、被災前に物流体制を整えておかないと、現場で混乱が起きることは予想されていた事態でもありました。胆振東部地震の時の北海道庁の胆振東部地震災害対応に関する主な報告レポート(抜粋要約)では、
とあり、物資支援そのもので混乱が生じていた状況が報告されています。
また、液体ミルクが送られた時期には、すでに現地で水道も復旧しており、避難所自体が縮小閉鎖されていたこともわかっていますので、ニーズがないと考えられ対応に手がまわらなかったであろう状況がありました。
災害時の乳幼児栄養情報は間違い情報も多い 防災ゾンビ情報に注意
災害時の乳幼児栄養支援については物資支援の混乱があるだけでなく、情報の混乱もあります。東日本大震災から熊本地震、そして現在に至るまで、間違っている情報が出回りやすいということです。すでに否定された防災情報であっても、災害時、古いネット情報が引用され、あっという間に広がってしまうことがあり、私は仲間と「防災ゾンビ情報」と呼んでいます。乳幼児栄養についての間違い情報については、NHK「災害時の赤ちゃんへの授乳にまつわるウソ?ホント?調べました」に詳しくまとめられています。
「災害時、ミルクを使い捨てカイロで温められる」は間違いです。正確な情報は「教えてドクター」や日本栄養士会資料で
ゾンビ情報の一例をあげると東日本大震災の後から、粉ミルクは、使い捨てカイロで温められるというノウハウが出回るようになり、防災講演で地道に否定しても、災害時に復活し、今なお残っている状態です。粉ミルクは、サカザキ菌対策として、70度以上のお湯で消毒して菌を不活化する必要があります(厚生労働省HP 2004年2月のFAO/WHO専門家会合)。使い捨てカイロでは70度以上になりません。この情報は、自治体の防災情報でも改定されないままになっている場合があるので、注意が必要です。液体ミルクの場合は、殺菌済ですので、70度以上での殺菌は不要です。
ミルクをあげている方、母乳をあげている方それぞれの災害時の正確な情報は、私もプロジェクトチームとして関わっている、佐久医師会教えてドクター 災害に備える 災害時の赤ちゃん栄養をご覧ください。公的機関の情報や海外も含めた医学論文をチェックしたエビデンスのある情報を発信しています。
また、支援者向けの公益社団法人日本栄養士会「災害時における乳幼児の栄養支援の手引きは、詳細な記述があり、同会の災害時に乳幼児を守るための栄養ハンドブックは、わかりやすいリーフレットになっています。
災害時の乳幼児栄養マンガ
「災害時に母乳が止まるので母乳育児の人もミルクを必ず準備しておく」、「母乳をあげていても災害時に備えてミルクに慣らしておく」というのも誤解で、国際的ガイドラインの理解がまだ広がっていなかったので、災害時の乳幼児栄養マンガを作りました。
一緒に作成したのは、現在日本人唯一のIFEコアグループメンバーでもある母と子の育児支援ネットワークの本郷寛子さんです。
IFE コアグループ(Infant Feeding in Emergencies Core Group)とは、WHO(世界保健機関)UNICEF(国連児童基金)WFP(国連世界食糧計画)UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)IBFAN (乳児用食品国際行動ネットワーク)ENN(緊急時栄養ネットワーク)SAVE THE CHILDRENなどの人道支援団体から成るネットワークで、「災害時の乳幼児の栄養」という国際的ガイドライン(OGーI F E)を作成しています。
この内容に沿って誤解の多い部分をマンガで解説しました。
母乳中の免疫物質は、災害時、医療体制が脆弱になってすぐに病院に行けない可能性も高くなる場合や、避難所等で密になることで心配になる感染症から赤ちゃんを守ってくれるものとなるため、災害時の乳幼児栄養の国際的なガイドラインであるOG-IFEでは、母乳をあげたいと思っている人が母乳育児を続けられるよう支援することが重視されています。
母乳育児支援というのは権利の話で義務の話ではない
でも、最初に書いたように「母乳」という言葉で傷つく方もいるので勘違いされがちなのですが、ここで書かれているのは、母乳をあげたいと思う人があげ続けられるようにする「権利」の話であって、母乳をあげなければいけないという「義務」の話では全くないということです。
国際的なガイドラインでは、ミルクを飲んでいる赤ちゃんには必要としている期間はずっと継続的にミルクを供給し安全に飲めるよう援助することも書かれていて、ミルクで育てている人への支援も当然考慮されています。
熊本地震では、授乳スペースがなかった
ところで、避難所や避難場所に授乳室が標準的に設置されるようになったのは、2016年4月の内閣府の避難所運営ガイドラインで明記されてからです。
東日本大震災の時の避難所は、劣悪な状況でした。この避難所運営ガイドラインには、以下の記載があります。
しかし、熊本地震の時までに改善されていなかった問題は多く、授乳室はまだ周知されていませんでした。熊本地震を経験した「育児中の女性」へのアンケート報告集では、以下の悲痛な声が寄せられています。
内閣府男女共同参画局ガイドラインでは、以下の声も書かれています。
公の場での授乳による性的被害の不安を抱えている母親もいました。(出典 内閣府 男女共同参画局 災害対応力を強化する女性の視点~男女共同参画の視点からの防災・復興ガイドライン)
この時、「ミルクをあげればいいのでは?」と思ったりそのような支援をする方もいます。でも、それは本人の意思に寄り添ったものなのでしょうか?災害時にできることは、いつもやっていることであることは、過去の災害でも指摘されています。授乳も同じです。いままでの子育てが続けられるよう、母乳をあげたいと思っている人には、安心して授乳できる場の確保が重要です。性的被害の心配のある場所で授乳ができるわけがありません。
また、ミルクをあげる量が増えたり、授乳回数が減ると、そのことによって母乳の分泌が減る関係にあります。ここでミルクを一律に配布することは、災害時という緊急事態に、かえってミルクが必要になる人を増やしてしまうことになりかねません。そうすると、物資支援が脆弱になる大規模災害では、ミルクの数が足りなくなる可能性も高まります。母乳をあげたい人にはあげやすいように、ミルクも継続して必要な人に届くように、母親にしっかり寄り添う個別の支援が重要なのです。
そのため内閣府男女共同参画局ガイドラインでは、下記のように
なお、授乳支援にあたっては、粉ミルク・液体ミルク等の母乳代替食品の一律の配布を避ける必要があり、 個別の母子の授乳状況をアセスメントした上での適切な配布が求められます。液体ミルクは母乳の代替食品として販売されており、災害時にも有用とされています。賞味期間の短さや価格から、常時備蓄ではなく、企業から必要な際に供給を受ける協定を締結することも有用です。常時備蓄の場合には、期限の近づいた製品は、保育所の給食の食材や乳児院における活用、防災訓練の炊き出し訓練における食材としての活用などが考えられます。いずれの場合も、提供先における母乳育児の取組を阻害しないように考えることが重要です。試飲や子育て家庭への配布はしないようにしてください。(出典 内閣府 男女共同参画局 災害対応力を強化する女性の視点~男女共同参画の視点からの防災・復興ガイドライン)
- 粉ミルク・液体ミルク等の母乳代替食品の一律の配布を避ける必要
- 個別の母子の授乳状況をアセスメントした上での適切な配布
- 試飲や子育て家庭への配布はしない
と記載しています。
熊本地震ではミルクで育てている人への支援で不適切なケースがあった
母親の意思を確認してアセスメントするという寄り添う支援は、ミルクをあげている人にも当然、大切なことです。被災前の親の子育て方法を否定しないということは、国際的なガイドラインでも前提になっていますし、内閣府男女共同参画局ガイドラインでも、下記のように記載されています。
乳児に対しては、母乳育児の場合、感染症のリスクを減らす観点から、母乳をあげている場合、それを継続するための支援が重要です。母親がリラックスして母乳が継続して与えられる環境を整え、必要な水分・食料や休息を取るための支援が必要です。粉ミルクや液体ミルクを使用する際は、平常時の状況や本人の希望について聞き取り(アセスメント)を行い、必要な乳児に衛生的な環境で提供することができるよう、必要な機材や情報をセットで提供する必要があります。(出典 内閣府 男女共同参画局 災害対応力を強化する女性の視点~男女共同参画の視点からの防災・復興ガイドライン)
残念ながら、熊本地震の際には、このことが意識されておらず、熊本地震を経験した「育児中の女性」へのアンケート報告集では、以下の声があるなど不適切な支援もありました。
災害時だからといってそれまでの子育てを否定してはならないことがよくわかるご意見ではないでしょうか。国際的なガイドラインにある、ミルクを飲んでいる赤ちゃんには必要としている期間はずっと継続的にミルクを供給し安全に飲めるよう援助という内容とも異なります。
母乳育児の人が不安にならないよう食事の増量も検討
また、ミルクが個別に配布されると、何ももらえない母乳育児中の人が不安になることもあります。不安からミルクが欲しいと思う人がいるかもしれません。支援者は、その気持ちを頭ごなしに否定したり、逆に、いいものがあるからミルクにしなさいとすすめることは、どちらも不適切な支援になります。内閣府男女共同参画局ガイドラインでは、授乳中の母親に対する優先的な食事支援が必要であることを指摘しています。
安心して母乳を続け育児をするためにも、母親がたんぱく質やビタミンをとれるように優先した支援が必要です。(出典 内閣府 男女共同参画局 災害対応力を強化する女性の視点~男女共同参画の視点からの防災・復興ガイドライン)
公益社団法人日本栄養士会「災害時における乳幼児の栄養支援の手引き」にも同様のことが書かれています。
みなさんの地域では、被災した時、授乳中の方に優先して食事を増やす対応は検討されているでしょうか?
ミルクで育てている人に継続して安全にミルクが届き、母乳をあげたいと思う人には、授乳室の確保だけでなく、食事の優先支援をするというこの内閣府男女共同参画局ガイドラインは、残念ながら、まだほとんど周知されていません。
マンガが各国語に翻訳され、内閣府男女共同参画局ガイドラインでも紹介
さて、マンガを作成すると、これが好評で、IFEコアグループがOG-IFEのHPでも紹介したいという話になり、日本で広がるより先に、各国語に翻訳され、世界で広がりました。
日本のマンガのレベルの高さと訴求力を感じました。
そしてこのマンガは、内閣府 男女共同参画局の防災・復興ガイドラインの便利帳でも、国際的な方針・ガイドラインの引用という形で紹介されています。
国際規準って何?母親を追い詰めるもの?
ところで、国際的なガイドラインも内閣府男女共同参画局ガイドラインも母乳代用品のマーケティングに関する国際規準(WHOコード)を準用や引用をします。
国際規準については、液体ミルクの国内販売が開始された時にも話題になりました。消費者庁が、母乳が赤ちゃんにとっての最良の栄養である旨を母乳代替品に記載することを義務づけていて、その文字が液体ミルクに入っていたため母親を追い詰めるということが話題になりました。
これについて、液体ミルクに下記の記載があったらみなさんはどう思いますか?
日本の記載は上の1行程度ですが、ここには、かなり細かく母乳のことが書かれていて、「乳児用ミルクを使う前に、保健医療専門家に個別に助言を仰ぐべきです。」とか「子どもが母乳で育てられていない場合や母乳だけでは十分でないときに使うことができます。」と、国内で書かれていたら母乳推しが強すぎる感じがして、今まで以上に物議を醸すかもしれません。
これは何かというと、熊本地震の時に配布されたフィンランド製の液体ミルクに書かれていた表示です。日本は国際規準の賛同国ではありますが、法制化していない、世界でも少数派の国ですが、フィンランドは国内法として法制化している国なので、このような言葉が書かれています。
フィンランド大使館の堀内都喜子さんとは、災害時の乳幼児栄養支援イベントで同時に講演したことがあり、その時、「この文言で追い詰められるという声はないのですか?」という質問をしました。堀内さんのお返事は、「一般的に、フィンランドでは、これは、母乳をあげたい人の権利の文言ととらえるので、ミルクの人が追い詰められるという話にはなりにくい。ただ、中には母乳のみで育てられないことで多少落ち込む人はいる。だからこそ専門家と気持ちをオープンに話すことが推奨されている。」とのことでした。
フィンランドはジェンダーギャップ指数2021年世界ランキングで2位の国です(日本は120位)。子育て支援にはネウボラという制度があり、母親の妊娠期から子供の小学校入学まで、担当保健師が健診を通じて子育てに関するあらゆる相談に応じてくれる仕組みがあります。中学校の生物の教科書に、妊娠、出産とあわせ授乳のことや、父親が授乳中の母親を支援する方法が書かれていたり、園に通わず自宅でこどもを育てる場合には、保育園代相当分の金額が自治体から支給される制度があります。これを利用して、大学は無料なので、出産してから大学に行く親も少なくなく、大学内には、ベビーカーが多く、授乳も公園などあちこちで行われているとのことでした。治安がいいので、赤ちゃんをベビーカーで日光浴させ親が離れている光景もよくあるそうです。
さらに、国会議員に女性が立候補した際、妊娠していても誰も何も問題にすることもなく、大臣になって出産と育児休業をとる時も、新聞で、同じ党の人が代理となることが知らされたくらいで、これも誰も何も問題にしなかったとのことです。現在では、父親の育児休業や父親の産後うつ問題などにも積極的に取り組んでいるとのことで、男女共同参画が進む国は男性にも優しいことをお聞きしました。
ミルクをあげていると母乳ではないことを責められ、母乳をあげてもいても、災害時止まるとか、日常でも出ていないのではないかと呪いをかけられるのは何故なのか?
フィンランドのお話を聞いて、つまりはこういうことではないのかと思いました。
出産、妊娠、そして授乳に関わることは、その人の基本的な権利であるリプロダクティブヘルツライツの問題です。授乳方法について何を選択するかの自由と何を選んでも支援されるという権利が保障されている国で、「母乳育児支援」や「母乳が最良」と言う言葉が出てきたとしても、ミルクをあげている人の権利が侵害される関係にはなりにくいです。むしろ、太陽の光が全体に行き渡るとどの植物も成長していくように、ミルクをあげている人も母乳の人も、ともに心地よさが増える可能性があります。
対して、母乳でなければならないというような義務の文脈で語られた歴史がある日本では、母乳という言葉に抵抗があったり心の傷を負っています。さらに日常でも家事負担が多く長時間労働やこどもを預けられない問題、協力的ではない周囲からのダメ出しなど、地獄の中にいるかの様な過酷な状況で子育てをしているのかもしれません。
とすると、この状況で母乳育児支援などという言葉がでてこようものなら、まるで、地獄で蜘蛛の糸が奪いあいになるように、母乳育児を支援すればその代償としてミルクで子育てしている人の地位は脅かされ、液体ミルクの表示の言葉が同じであっても追い詰められると感じてしまいます。
もっとも、追い詰められているのはミルクをあげている人だけではなく、母乳で育てていても、常に「足りていない」とか「災害時に母乳が止まる」などの呪いの言葉をシャワーのようにあびせられている事もあります。一方から他方は見えにくいですが、どちらを選択しても実は呪いから逃れられていません。
結局のところ、災害時のみならず日常から足りてないものは、世界の中でも低すぎる女性の地位であったり、子育て支援の手薄さという基本的な権利の保障かもしれません。例えばネウボラのようないつも親に寄り添ってくれる制度があれば、呪いをはねのけやすいようにも思います。
本来は全く対立する必要のないものであったのに、「ミルク対母乳」の話にされてしまうと、双方で消耗し、どちらの権利も保障されず、今以上に輪をかけて基本的な権利の保障が薄くなってしまう悪循環になりそうです。せめて、災害時、母親の意思を尊重するということは、この不毛な対立を避けるためも重要です。呪いは、もういりません。
今後は内閣府男女共同参画局ガイドラインでミルク・母乳どちらで子育てしている人にも寄り添う支援を
以上、熊本地震前後の災害時の乳幼児栄養支援についての変遷と現状をお伝えしました。国際スタンダードな災害時における乳幼児の栄養支援についてより詳しく知りたい方は、内閣府、防災推進協議会、防災推進国民会議主催 ぼうさいこくたい2020 NPO法人 日本ラクテーション・コンサルタント協会のセッション内容が動画で公開されているのでご確認ください。
災害支援に関わる方には、今後は、紹介した内閣府男女共同参画局ガイドラインを基に、母親の意思に寄り添う支援をお願いいたしたいです。
最後に、一般社団法人「乳児用液体ミルク研究会」の代表理事の末永恵理さんに、このガイドラインの感想をお聞きしました。
避難所・避難場所に内閣府男女共同参画局ガイドラインを貼っておくのはいいアイデアですよね。マンガもシェアやダウンロード可能ですのでご活用ください。