阪神・淡路大震災から26年 実は謎のままのブロック塀倒壊による死者数 問題を先延ばししない政策を
1995年1月17日5時46分に起こった阪神・淡路大震災から26年になりました。
その時間、私は、兵庫県尼崎市にいましたが、家屋の倒壊がない地域でも、角地にあったブロック塀がまるで巨大な板チョコが転がっているかのように、そのままの形で横転していたのを覚えています。
阪神・淡路大震災の教訓は多数あるのですが、今回はブロック塀についてのお話しです。
ブロック塀の倒壊は2468箇所。では死者数は?
阪神・淡路大震災でのブロック塀の倒壊は、わかっているもので2468箇所です。
そして、ブロック塀倒壊による死者数は、14名と書かれている報道もあるのですが、正確にはわかっていません。
内閣府 阪神・淡路大震災教訓情報資料集【03】建築物の被害 によると、
とあります。この情報資料集には、全体の死者数6434人中に比して少なかったということなのか、「少ない」の人数が記載されていないので、わかりません。
そして、以下の報告が印象的です。
「そのほとんどが即死であったことから」とあり、ブロック塀を含め人的被害の可能性については書かれているものの、「可能性」としてであって、個別の状況まで書かれていません。
これは、都市型の直下型地震がもたらす重たい事実です。阪神淡路大震災の強い揺れは概ね15秒でした。思ったより短いと感じる方も多いのではないでしょうか?。たった15秒の間に、多くの耐震基準を満たさない木造家屋が倒壊し、ブロック塀は崩れました。
そして、窒息や圧死により亡くなった方のうち9割が15分以内に命を落としています。
神奈川県茅ヶ崎市の資料には、このように記載されています。
15分以内に命を落とした方が3960名です。都市部であるがゆえにわずかな時間でなすすべもないまま多くの方が亡くなっています。そして、家屋やブロック塀の瓦礫が散乱している状況になると、生存者の救出やその後の対応に追われ、個別の原因まで調べきれない、そんな状況が阪神・淡路大震災にはありました。
また、内閣府 阪神・淡路大震災教訓情報資料集【03】建築物の被害にあるこちらの指摘も重要です。
すでに、阪神・淡路大震災でブロック塀の被害発生状況は、「過去の地震を上回る」ものがあり、「法令や学会の基準に適合していないものに集中していた。」と教訓があったのです。
足が早くてもブロック塀の倒壊から逃げられない 宮城沖地震の教訓
不適切なブロック塀によって死者がでるという教訓は、阪神・淡路大震災以前からも言われていました。
1978年宮城沖地震で通学途中の小学生も含め14名の方がブロック塀の倒壊で命を落としています。そのため、宮城県では、1978年からブロック塀の撤去に向けて動いていました。
首都圏の学校で講演した際、宮城沖地震で亡くなった小学生と同じ学校の方が参加されており当時の状況と思いを語ってくれました。
「地震の時にブロック塀は危ないから逃げましょう」と言われることもありますが、亡くなった生徒は足の早い子だったそうです。大地震の経験や模擬体験のある方はわかると思いますが、強く揺れている最中は、体は自由に動かせません。崩れてくるブロック塀から逃げられると思うなんて幻想です。その方は、「なぜこの地域のブロック塀は放置されたままなのか」と撤去を呼びかけてくれました。
映像でわかるブロック塀の倒壊の怖さ
長野県伊那市では、ブロック塀を人為的に倒壊させた場合の映像を公開しています。地震の倒壊映像ではないですが、力を受けると瞬時に倒れています。そして、ブロック1個は概ね10キロありますから、面になると、クルマが鉄塊になって降ってくるのと同等かそれ以上の破壊力があります。時々イラストにあるような、ブロックがバラバラ1個づつ落ちてくるわけではありません。(注 大谷石は1個づつ崩れているのと対照的です)面で迫ってくるので、逃げる間がありません。「逃げましょう」というだけでは、対策にならないことがわかります。
1978年の宮城沖地震で教訓を得た際に、宮城県だけでなく、全国で真摯に不適切なブロック塀撤去に取り組めていたら、阪神・淡路大震災で2648箇所のブロック塀の倒壊は防げたはずです。「もし」や「たられば」ばかり言っていてもきりがないことは承知しつつも、それだけの数のブロック塀が倒壊したことがもっと教訓化されていたらと思わずにはいられません。
残念ながら、阪神・淡路大震災では、ブロック塀による正確な死者数がわからず、さらに、ブロック塀の倒壊がなければ、火事から逃げることができた人がいたかもしれないなど、推測しかできない状態でした。そんな事もあり、ブロック塀対策は、その後の教訓として引き継がれませんでした。
トップの写真は、2016年11月に神戸市の公共施設の横のブロック塀を撮影したものですが、阪神・淡路大震災を体験した神戸の公共施設なのに、ブロック塀のズレを放置していることに衝撃と教訓の風化を感じました。
教訓が生かされないまま悲劇を連鎖させた福岡県西方沖地震・熊本地震・大阪北部地震
そして教訓は生かされないまま悲劇は続きます。2005年福岡県西方沖地震の唯一の被害者は、ブロック塀の倒壊によるものでした。
2009年に改定された気象庁の震度階級関連解説表では、はっきり震度5強で「補強されていないブロック塀が崩れることがある」ことは指摘されています。
どんなに遅くとも2009年以降の地震では、周知の事実になっているのですから、その後の死者は出さずにすんだはずなのです。
それなのに、2016年熊本地震は20代の方がブロック塀の下敷きになり命を落とされました。
それでもまだ全国で不適切なブロック塀は放置されてきました。
そして、2018年大阪北部地震を迎えます。2名の方がブロック塀倒壊により命を落とし、うち1名は通学途中の小学生だったことは多くの方の記憶に新しいことと思います。
こどもの安全が守られるべき小学校施設であるはずなのに、そこでのブロック塀により小学生の命が失われたことは悔やんでも悔みきれません。
震度5強は全国どこでも起こりうる地震なのに、なぜ私たちは、こんなにも教訓を生かさなかったのでしょうか。
学校関連施設でのブロック塀は撤去されつつあるけれど
大阪北部地震の後に、やっと不適切なブロック塀撤去の動きが起こります。
通学路や学校や園の周辺の点検が実施され、学校や園でのブロック塀撤去は、まだ100%ではないものの進められてきました。
通学路のブロック塀撤去はなかなか進まない
とはいえ、通学路については変化はあったのでしょうか?大阪北部地震を受け、すぐ自宅のブロック塀の改修に取り組んだ方がいる一方で、個人の所有物であるがゆえに撤去は進んでいません。
「危ないから近寄らない」というのもよく言われる対策ですが、まだまだ通学路の両側ブロック塀という箇所もあります。
ブロック塀通りを避ければ交通量の多い道を通ることになり、交通事故の危険が増えてしまったケースもあります。こどもたちの安全は脅かされたままです。
自助だけでは撤去できないし、公助も限定的な現状
ブロック塀撤去について補助金を出す自治体も増えてきました。
それでも個人のブロック塀が撤去されない理由は明白です。多くの自治体のブロック塀撤去の補助には上限があります。そして、上限が30万円だけれども、総額の2分の1の補助というように全額補助とならないようにする制度が多いのです。自己負担0円で実施できる自治体は稀です。
自己負担実質0円でのブロック塀撤去を目指した高知県安芸郡田野町
四国一小さな町の高知県安芸郡田野町では、もともと高知県の事業20万円にプラスして町の20万の合計40万円の補助金を出していました。それに加え、2019年に田野町が決めた避難ルート沿いのブロック塀にはさらに20万円上乗せして、合計60万円の補助をうちだしました。これにより、実質的に負担金0円で撤去&新規の塀の設置が可能しました。
和歌山 串本町方式は全国に広げるべき
とはいえ、人口少ない地域で補助金を増額することができても人口が多い地域では予算の問題が残ります。しかし、それに対する先駆的事例ともいえる政策が、和歌山県東牟婁郡串本町にありました。
串本町ではブロック塀撤去の9割の金額を補助しています。9割補助は、金銭的に他の自治体で真似できない部分かもしれません。
真似をしてほしい部分は残りの1割の部分です。
通常、補助されない残りの割合はブロック塀所有者の自己負担です。でも、串本町のようにその割合がたとえたった1割だったとしても、不適切なブロック塀を放置している家屋は、家屋自体も耐震基準も満たしていないものが多く、ブロック塀に投資する余裕がないのが現状です。
串本町の先駆的な取り組みの秘密は2014年4月に施行された串本町地震・津波避難路確保のための補助金交付要綱にあります。
この(2)が秘密の鍵です。補助金の交付を受けることができる者に、(1)の所有者、管理者だけでなく、(2)町長が認める自治会又は自主防災組織も入っています。
この(2)を入れることにより、自治会や自主防災組織が危ないと判断した他人のブロック塀について、自治会や自主防災組織が1割分を所有者に代わって負担することにより、補助金を申請できることになるのです。
具体的には、自治会や自主防災組織は、所有者の承諾をもらい、行政に申請します。そうすると、9割が補助金、1割は、自治会や自主防災組織の負担で地域の危ないブロック塀を撤去できるようになります。所有者の負担は0円です。
所有者の許可を得るので、他人の財産の侵害にはなりません。2019年に串本町に取材した際お聞きしたのは、危険だと思うブロック塀について「自治会や自主防で申請できたらいいのに」という声があったから要綱を変更されたとことでした。財政的支出は増やさずに、申請権者を変える条文1個追加するだけで、ブロック塀問題を解決するなんて、スーパー公務員がいたのでしょうか?知的でスマートな政策だと思います。
自治会の中にはPTAも含まれます。たとえ負担が5割であったとしても、PTAでお金を集めたり、クラウドファンディングで地域のブロック塀を撤去できます。地域の人が「あのブロック塀は危ないな」と思っても何も言いだせずにいるという状況はよく耳にします。所有者も「空き家のまま放置しているからブロック塀の撤去には取り組む気がない」なんて事もあります。そんな状況でも自助まかせでも公助だけでもなく、共助によってブロック塀が撤去できるよう地域住民を後押しする制度ですよね。他の自治体も申請権者を追加して、すぐに実践できるのではないでしょうか。
金属探知機アプリやコンパスをもってブロック塀をチェック 不適切なブロック塀は地域の力で撤去を
阪神・淡路大震災から26年です。言ってみれば、26年間も毎年、振り返っていたはずです。それにもかかわらず、ブロック塀対策ひとつとってみても、あいかわらず通学路に不適切なブロック塀は鎮座し続けています。さらに、コロナ禍の昨今では、「阪神・淡路大震災26年だから、ブロック塀くらい撤去しておこう」という思いには、なかなかならないのではないでしょうか。
こんな時だから、串本町のような実効性のある政策を取り入れて、本気で地域ぐるみで撤去に取り組む自治体が増えることを願っています。
また、個人でも、再度危険なブロック塀を確認してみいただければと思います。
ブロック塀の鉄筋の有無は、簡単にチェックする方法があります。ブロック塀にコンパスをあてるか、金属探知機アプリを入れたスマホをかざしてみてください。アプリはスマホ内にある磁石を使い、金属の有無を探知します。鉄筋すら入っていない身近なブロック塀の危険がわかります。
26年前の6434名のご冥福とご遺族の悲しみを心から悼むのであれば、同じ過ちを繰り返さない事が何よりも重要であると思っています。