子どもに伝えたい「防災の知識」 役立つコンテンツや注意が必要な防災ゾンビ情報とは #災害に備える
今年の9月1日は、関東大震災から100年にあたります。さらに、近年では、毎年のように豪雨や台風による災害が発生しています。もしこの時期に地震が発生した場合、同じ日に台風や豪雨による災害も発生する可能性があるということです。
さらに、筆者は2003年から乳幼児のいる親子防災や子育て防災の発信を続けていますが、近年、ネット上の古い情報が、災害直後に善意で掘り起こされ、シェアされ、まるでゾンビのように何度も復活して話題になる問題(以下、防災ゾンビ情報と記載)に悩まされています。また、乳幼児や子どもにはかえって危険になるライフハックも目立つようになっています。
そこで、この記事では、防災ゾンビ情報ではない最新の情報をお伝えするとともに、子どもと一緒に楽しく学べる防災コンテンツを紹介します。
リスクを知らずに対策は取れない
災害対策というと、どんなグッズを準備すればいいかが気になるところですが、リスクを知らなければ対策も的はずれになります。まずは、親子でリスクを知ることができるコンテンツを利用してみてください。
地震について学べるおすすめコンテンツ
▼東京消防庁 B-VR(ビーバー) (2023)
首都直下型地震や直下型の地震での揺れのリアルを体感できます。
YouTube上で、画面を動かすことも可能です。
自宅編・学校編・通学路編があり、アテンションマーク付きを選ぶと、どこが危険なのかがわかるようになっています。
学校編で机の下に潜っても机が飛んでしまう現象は必見です。
子ども用のワークシートもダウンロードできます。
▼内閣府防災 【子ども版】どうなる?どうする?南海トラフ地震への備え(2020)
南海トラフ地震についての解説や、大人でも理解が難しい「南海トラフ地震臨時情報」について内容を丁寧に説明しています。
▼プリン・羊羹・チョコを使っておうちで地震の揺れ実験
「【親子で楽しく学ぶ夏休み耐震実験1】プリンとチョコ菓子で学ぶ地震の揺れ実験 福和和夫(2020) 」では、お菓子を使って地盤の硬さや耐震・免震の仕組みが紹介されています。シリーズ動画はどれも楽しいです。
▼防災ゾンビ情報「地震雲」への対応策は、「雲を愛でる」こと
「地震雲」については、地震のたびに出てくる防災ゾンビ情報になっています。雲が地震の前兆にならない理由を、親子で考えてみるのはいかがでしょう。気象について知ったり、「雲を愛でる」ことは、親子の災害対策になるだけでなく、人生も豊かにすることがわかる動画です。
▼自宅の耐震化 東京消防庁 地震から命を守る家具転対策!
この動画は、見終わるまで30秒という短い時間の中で、地震が起きた時、テーブルの下に潜ろうとしても、「家具転対策」していないと家具の下敷きになってしまうことと、「家具転対策」の順序について余すところなく伝えています。
家具転対策の順序
1)家具を減らす
2)レイアウトの工夫
3)家具等の転倒防止
怖くなく、クスッと笑えるので、園児や、怖がりの小学生低学年でも気軽に見ていただけます。
あわせて大人の方は、東京消防庁の家具類の転倒・落下・移動防止対策ハンドブック(2023)をご確認ください。ここでは、冷蔵庫が移動するリスクにも触れており、最新の固定方法が記載されています。
津波からの避難
▼自治体 津波避難動画
お住まいの自治体が津波シミュレーション動画を出している場合があります。例えば厚岸町の動画は、千島海溝・日本海溝地震での津波避難についてわかりやすいです。
▼「めざせ!津波避難マスター」ゲーム
「めざせ!津波避難マスター」ゲームは、弁護士の永野海氏ホームページより無償でダウンロードが可能です。
このゲームには、答えがありません。津波の高さも到達時間もサイコロを振って出てくる数字、つまり偶然で決まります。災害では想定外の出来事が起こります。その時には、マルバツで覚えただけの知識では対応できません。たとえ、予期しない事態が起こっても、事前に、自分で考え抜くからこそ、いざという時、臨機応変に対応できます。その力を養うことができるゲームです。低学年には難しいと思えるかもしれませんが、小さな子どもでも自分で筋道を立てて考えようとします。大人はそれを決して邪魔してはいけません。
津波避難のスイッチの入れ方の3つのポイントはこちらでも記事にしています。
▼72時間一斉帰宅抑制と家族の連絡方法
人口の多い都市部では、地震発生から72時間は、一斉帰宅抑制の方針がとられています。ガチャピン・ムックが、ポイントを説明してくれる東京都の動画は子どもにも伝えやすいです。
さらに、72時間一斉帰宅抑制が実施されると、子どもの預け先や学校にお迎えにいけなくなる可能性が高いです。
園や学校、塾などとの連絡方法・安否確認方法・防災体制は事前に確認が必要です。
水害対策コンテンツ
▼国土交通省 きみの街にひそんでいる!気をつけ妖怪図鑑 小学生編(2021)
水害時に気をつけるポイントが、「妖怪」で紹介されている子どもたちに人気の動画です。
例えば、「妖怪ひっぱりだこ」は、用水路のように、速い流れがあると、そちらに引きずり込まれることを教えてくれます。
防災の講演で親子に紹介すると、「家に帰ってからも何度も見ました」「子どもが歌いまくって頭に残りすぎる」という感想もいただいています。
▼ハザードマップの読み込み方
ハザードマップの読み込み方は、7月豪雨が起きる前に。ハザードマップの「深くて長いイクラ」に注意。自宅にとどまれるかの判断基準はこれの記事にも書きました。親子で、イクラの寿司チェックを実施してみてください。地図を読み込むことができると、防災だけではなく、人生を楽しむことにも使えます。
ハザードマップは災害前に入手しておかないと、災害時にアクセスが集中して繋がらないことがあります。
また、ハザードマップは、現在、想定されているリスクが表記されているものです。避難にとても役立つものですが、安全な場所を表記したものではありません。用水路のリスクなどは表記されていません。「白いからと安全」と誤解すると避難が遅れます。
▼避難のタイミング・避難する場所
避難のタイミングなど子育て世代の台風・豪雨対策全般について、「佐久市 佐久医師会 教えて!ドクター 災害に備える 台風・豪雨対策編」がわかりやすいです。
避難先は、指定されている避難場所だけでなく、ホテルや親戚宅も検討します。
▼情報収集
災害時は、デマも増えます。子どもたちの情報リテラシー学習も兼ねて、親子で災害時に使えるアプリを確認してみてください。
▼水害時の避難 膝より下の水位でも流れが速いと流されるバネばかり実験
国土交通省の「小学生向け360度映像 「小学校5年理科 流れる水の働きと土地の変化」」は、授業の教材として作成されていますが、自宅でも実験できます。 川の流れ方の違いが動画になっていて、動画の指示にあわせ、バネばかりで、片足ごとにかかる力を重さで体感します。
流速1.5m/秒で水深30cmの場合、片足にかかる力は、4.1kgとなります。実験すると、「やっぱり浸水する前に避難しないとムリ」「ひざ下の水位でも流れがあると歩けない」との感想が出てきます。「じゃあどうやったら早く避難できるかな」と親子で会話もはずみます。あわせて、国土交通省「水害に関するワンポイント(2022)」を読むと最新情報の理解が深まります。
▼水害時の掃除について
以前は、水害後の小中学生の後片付けは「美談」になっていました。けれども、今は、子どもの健康に配慮しない「美談」は受け入れられません。防災ゾンビ情報として、そのような「美談」はシェアしないようにお願いします。後片付け以外にもお手伝いの方法はあります。報道関係の方は、後片付け以外のお手伝いの話を広めていただければと思います。
子育て世代の防災アイテム
▼備蓄や非常持ち出しアイテムについて
備蓄や持ち出し品についてのチェックリストは、例えば、家族の人数や年齢を入力すると備蓄品が出てくる東京備蓄ナビや女性の災害の備えについて書かれた防災アクションガイド女性(2021)が参考になります。
ただ、人によっていつも使っているものが違っていたり、大切にしていることが違います。災害別や自分なりのアレンジ、最新情報への修正が必要になります。
リストを見て、大事なものをマーカーで色分けしてみたり不要なものを削除したりしてください。
水害時は、特に生活用水が足りないとの声が大きくなります。お風呂に水を貯めたくなりますが、幼児は溺水のリスクがあることも注意が必要です。
▼災害時 初めて使う防災アイテムは、窒息と誤飲に注意
災害時に初めて使うものは、乳児に注意が必要な場合もあります。
「アルミブランケットを含む、ブランケット類」や「柔らかい布」は、窒息のリスクがあります。
電池は、災害時に役立つものですが、日常でも誤飲事故が発生しています。圧縮タオルも食品に似ているものや、サイズ39mm以下という誤飲のリスクがあるものがあります。
もし、誤飲した際、大災害では、病院に行けないこともありえます。乳児や幼児がいる場合、いつも使っているものを中心に防災アイテム揃えるようにしてみてください。教えて!ドクターの誤飲のフライヤーも参考にしてください。
アレルギー対応食品 牛乳パックをまな板がわりにしない
災害時、アレルギー対応食品は手に入りにくくなります。農林水産省も2週間分以上の備蓄を勧めています。災害時のアレルギー対応については、「「牛乳パックをまな板がわりにしないで」 災害時のアレルギー対策は進んだのか?」で詳しく記載しています。
赤ちゃんの栄養 2大防災ゾンビ情報
ミルクや母乳をあげている親子に関する情報にも、古い知識に基づく内容がゾンビのように何度も復活してくることがあります。
1粉ミルクをカイロで温める=防災ゾンビ情報です
2母乳がストレスで止まるのでミルクを配る=防災ゾンビ情報です
▼粉ミルクをカイロで温めるのはNG
粉ミルクは70度以上で殺菌が必要です。カイロで中途半端に温めると赤ちゃんに危険な菌が繁殖しやすくなります。70度以上になるカイロがあったとしても、接触による熱の伝え方では満遍なく殺菌できません。災害のたびに防災ゾンビ情報が復活してきますので、シェアしないでください。
液体ミルクはすでに殺菌済みで常温保存が可能です。殺菌済みなので、温めなくても飲めますし、カイロで温めることも可能です。ただ、近年は災害級の暑さで、常温の定義を超える気温の場合もあります。この場合、菌ではなく、たんぱく質の変性が心配されるので、夏の被災時は、クーラーバッグ等で保冷することも検討します。
大災害では、流通が途絶えることもあります。ミルクで子育てをされている方は、ミルクや調乳アイテム・水の十分な備蓄、および、いつもの荷物にも多めに持っておくことも検討してみてください。
▼ミルクをあげていても母乳をあげていても、子育て中の親を不正確な情報で脅さないで
「母乳がストレスで止まるのでミルクを配る」という情報が、なぜ防災ゾンビ情報かというと下記のマンガをご覧ください。
このマンガは、WHOやユニセフなどから成るネットワークIFEコアグループの「災害時における乳幼児の栄養」のエッセンスをマンガにしました。現在、世界各国語に訳され紹介されています。
内閣府男女共同参画局「災害対応力を強化する女性の視点 男女共同参画からの防災・復興ガイドライン」便利帳(2020)でも紹介され、飛騨市等の自治体の防災ハンドブックなどで紹介されています。
これは、母乳をあげなくてはいけないという義務の話ではありません。母乳をあげたいと思っている人に対して、ミルクを勧めてしまうと、授乳回数が減ることになり、かえって母乳産生量を減らしてしまうことになります。つまり逆効果になってしまうのです(注1)。親切のつもりでも、不正確な防災ゾンビ情報を発信すると、かえって親を追い詰めてしまいます。
現在、内閣府男女共同参画局は、アセスメントシートを支援者向けに作成し、子育て中の親を追い詰めることがないように、いつもの子育てを尊重した寄り添う支援(注2)を求めています。
ミルク・母乳、どちらをあげていても親は子育てを頑張っています。過去の災害時には、授乳中に覗かれる(注3)など、落ち着いて授乳できない場合もありました。備蓄だけでなく安心できる避難所(避難場所)運営も、とても大切です。
災害時は、特別なものを準備しなければと思いがちですが、乳児・幼児は特に、いつもと同じ状況を維持する事が大切になっています。親は、自分の考えに従って、何を備蓄するか選んでいただければいいのですが、支援者の方は、価値観を押しつけることのないよう、どうかお願いいたします。
いつもを意識
紹介したもののほか、例えば、いつもの子育てで、より「軽い」子育てグッズを選ぶと、 いつもも楽になり、避難も楽になります。おしりふきは災害時に大活躍しますが、「それはどんな場面だろう?」と、使いながら災害時のことを少し想像していただくことも「防災」になります。
親子で楽しもう
以上、防災ゾンビ情報は、かえって親子を危険にさらしてしまうものもあるので、記事を参考に、最新の備えを検討していただければと思います。楽しいコンテンツもたくさんあるので、親子で体験してみてください。
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地震や台風、豪雨、火山の噴火などの自然災害は「いつ」「どこで」発生するかわかりません。Yahoo!ニュースでは、オリジナルコンテンツを通して、災害への理解を深め、安全確保のための知識や、備えておくための情報をお届けします。
【この記事は、Yahoo!ニュース エキスパート オーサー編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】
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(注1)American Academy of Pediatrics, American College of Obstetricians and Gynecologists. Breastfeeding Issues During Disasters
(AAP/ACOG) in Breast-feeding Handbook for Physicians 2nd ed. p.239-244, 2014 他参考文献はこちら
内閣府男女共同参画局「災害対応力を強化する女性の視点 男女共同参画からの防災・復興ガイドライン」6物資の備蓄・調達・配布 は、以下のように記載。
(注2)内閣府男女共同参画局「災害対応力を強化する女性の視点 男女共同参画からの防災・復興ガイドライン」25保健衛生・栄養管理