水難事故で命を失わないために 親子で楽しみながら、または大人がじっくり対策を学べるサイト10選
子どもの水難事故の約半数が7〜8月に集中しており8月は最多です。
また、大人と一緒でも事故が起こり、救助による二次災害も起こっています(1)。
子どもも大人も水難事故で命を落とすことのないように、親子が一緒に楽しみながら学べるサイトや親として知っておくべきことをまとめたサイトを10個ご紹介します。
水難事故対策の3つの考え方
サイト紹介の前に「水難事故対策」には、3つの考え方があるので、親としてどうすればよいのか、まず検討してみてください(2)(3)。
1)ゼロリスク
ゼロリスクを目指す方法として、海や川には近づかない、行かないことを徹底するという方法が考えられます。
この場合は、常に親の監視下にあれば、水難事故を減らすことができます。
欠点としては、カリギュラ効果(4)と呼ばれる、ダメと言われると余計にやりたくなる心理現象に抗いにくくなることがあります。子どもが成長して、反抗期や友達同士のノリで気が大きくなる時期や大人になった場合に危険になる可能性があります。警視庁統計でも水難者数のうち、未就学児童は、3.0%ですが、小学生は、10.9%、中高生相当の場合、9.4%と、中高生の事故率が小学生とほぼ変わらないことがわかります。大人の事故数も4割を占めています(5)。
また水辺での経験が少ないことでかえって危険な行動をとってしまう懸念もあります。例えば、川の深いところは流れが速いのですが、水面はさざなみが立たず、流れが緩やかに見えて安易に近づいてしまう、水中でお互いをロープで繋ぐ行為や飛び込んで助ける行為は危険な救助法(後述)ですが、善意で実施してしまい、二次災害となる懸念もあります。「海や川に行ってはダメ」というだけでなく、どうすればいいのかを伝えることも必要になります。
2)事前予防(リスクのマネジメント 水難事故に遭わない教育)
リスクがあることを前提に、危険が発生する前に、被害を免れたり、軽減する予防策をとることが事前予防(リスクのマネジメント 水難事故に遭わない教育)です。水難事故対策でいえば、事故が特に多い海や川を知り、その場所を回避すること、天候による危険を知り回避すること、事前の予防策として浮力を確実に確保するライフジャケットを着用することがこれにあたります。車を利用しつつシートベルトを着用することも同じ考え方です。もし水辺に行く、自然の恵みも楽しみたいと思うのであれば、この方法の理解が不可欠です。
3)事後対処(クライシスが起こってからのマネジメント アクシデント後の対応である教育)
事故やアクシデントが起こった後の対処法です。水難事故でいうと、溺れた後に対処する方法や、救助法がこちらになります。
事故が起こってしまった後の対処法になるので、被害軽減効果は、事前の予防策よりも劣ります。水難事故により、一瞬で意識を失う、パニックになり正常な呼吸が妨げられる(6)、波や風や水底の状況で沈み込むなど行動不能になる場合(後述のサイトで紹介)など、溺れた人が自力で対応するのは困難になることがあるからです。また、救助者のスキルや器具を向上させても、それでは対応できない危険な場所もあるので限界もあり、救助者の二次災害のリスクはつきまといます。
水難事故対策の事前予防を学べるサイト
水難事故対策として上記3つが混同され議論される事も少なくないですが、今回は主に2の事前予防に関するサイトを紹介しています。
1)公益財団法人 日本ライフセービング協会 e-Lifesaving
公益財団法人 日本ライフセービング協会 e-Lifesavingでは、プール・海・川のリスクと対策について、すべてをしっかり学べるサイトです。離岸流の見分け方、ライフジャケットの装着の方法など総まとめとなる内容が書かれています。大人にとっても重要な情報(飲酒して海に入らないことなど)もわかります。
親子はもちろん、学校の先生も授業で利用できるように作成されています。動画だけでなく、資料のプリントもできます。利用方法については、以下の動画で詳しく解説されています。
2)国土交通省 小学生向け動画 「リバーアドベンチャー ~川に魅せられし者たち~」
水難事故の原因となる川の魔物に挑む勇者たちですが、脱げやすいゾウリを履いていたり、昔の装備だったため、溺れてしまいゲームオーバーになってしまいます。宿屋のシーンでマスターリバーに、川に行く際の最も重要な装備「ライフジャケット」を伝授してもらった3人は、川の魔物を退治する?それとも・・・という8分強の冒険物語です。事前対応について、子どもが「食い入るように見てくれる」「国がこんなわかりやすく楽しい動画を作ってくれるなんて」と好評です。
3)テレビ番組「しまじろうのわお!」命を守るうた「ライジャケ・オン!」
海外アニメでは、ライフジャケット装着を何度も連呼して、繰り返し伝える場面が以前からよくありましたが、国内でもとてもわかりやすく記憶に残りやすい番組が放送されるようになりました。たった2分44秒の中で、ライフジャケットの連呼、正しい装着の仕方とそのコツ、ライフジャケットを着けるべき場所(泳ぐ時だけでなく水辺に近づいたり、足首くらいの深さでも装着)にまで解説されているだけでなく、未就学児でも理解しやすい内容になっています。
4)(公財)河川財団 川底の形状の、わずかな変化でも流れが複雑に【ライフジャケット無し/有りの場合】
川で溺れた場合、川底の形状のわずかなアップダウンで、流れが複雑になります。この時、ライフジャケットがなく意識がない場合、下に引きずり込まれてしまうことがわかるシミュレーション動画です。ライフジャケットありの場合は意識がなくても呼吸を確保できることと比較されており、衝撃的な実験動画になっています。
大人向けで、子ども向けではないように思われますが、動画慣れしている小学生は、大学の研究室が作成した実験動画も十分に理解できる可能性があります。流体力学について興味関心を持つきっかけにもなる動画ですので、一緒にご覧になっていただくことをお勧めします。
5)文響社 うんこドリル「国土交通省・河川財団 川の安全」WEBゲーム
子どもたちが好きな「うんこドリル」のゲーム編として、「川の安全」や海上保安庁とコラボした「海の安全」があります。ゲームの内容が思わず吹き出してしまうほど楽しいものになっています。小学生だけでなく、大学生向けに私が防災の授業をする際にも、このゲームを使っています。
6)海上保安庁 Water Safety Guide
海の安全として、遊泳だけでなく、シュノーケリングやボート、釣りでの対策が詳しくわかりやすく記載されています。さらに、川の安全についても国土交通省と協働してまとめられていて、大人が読んでおくべきサイトになっています。情報も令和6年に更新されていて、新しいです。
溺水を防止するためということと同時に、救助の際、手を振る「助けてコール」(世界共通)を実施できるようにするためにもライフジャケットの予めの着用が呼びかけられています。
海では、波や風の影響があると、浮いているだけの姿勢の保持が難しいため、ライフジャケット着用に加えてエレメンタリーバックストローク(イカ泳ぎ)をする方法についても、動画で説明されています。動画は短く端的で、子どもと一緒に見てもわかりやすいです。
7)(公財)河川財団 水辺の安全ハンドブック
川では、流れがあり動水圧があるため、ライフジャケットが必須であることが説明されています。
堰堤や橋梁、テトラポッドの水流が危険になる理由も分かりやすく書かれています。川に行く前の大人の総合学習的な内容になっています。上記のハンドブックの内容を指導者向けに説明している動画が以下になります。
また、川では、足がつく程度の深さおよび流れが速い場所で立とうとすると、川底の石などの障害物に足を取られ、水圧で沈んでしまうフットエントラップメントという現象が起こるため、上図のような姿勢をとります。しかし、そのまま浮いているだけでは、流されていくばかりで、もっと危険な流れに巻き込まれるリスクもあります。そのため脱出するべく泳ぐことが必要になるケースもあります。
「浮いている」だけでは流され続け、危険になってしまうので、動画で、詳しい脱出方法が説明されています。
リスクのマネジメントであるため、ライフジャケットを着けていたら100%大丈夫という話をしているわけではありません。ライフジャケットの浮力を上回る動水圧が発生しやすい場所やリスクについても詳しく説明され、それに対応する技術がなければ、危険な場所を避けるという判断をすることになります。
河川の水難事故データについては同財団の「NO MORE 水難事故 2024」で詳しく説明されています。
ちなみに川での正しい救助法についてもここで記載されています。
飛び込んで助けるのは最も危険度が高い救助法です。ロープを使う際も水の流れを利用する方法を使います。水の中でお互いをロープで繋ぐ行為は、流されやすくなる行為なので、原則禁止であることも分かります。
(8月6日以下の図を追記)
また、よく言われている浮きを投げ入れて助けるという方法やその場で浮こうと対処する方法は、上の図でGの場合のみ可能な方法ですA~Fの場合は、十分な浮力なしには、対応で着ないことも明記されています。
8)日本財団 海のそなえプロジェクト 「海のそなえ 水難事故に関する調査サマリー」
水難事故、とりわけ海の事故に関する最新のデータと対策がまとめられています。しっかり問題を把握したい大人向けの資料です。海辺に到着するのは午前中で、事故が起こりやすいのが14時であることや、ライフジャケット着用の有無で生存率に2倍以上の差(元のデータ 国土交通省・海上保安庁・水産庁・警察庁 「ライフジャケットが命を守ります」海中転落時の生存率)があることの知識の有無など幅広く調査されています。
さらに、同じような水難事故が起こることについて「コピペ事故」と名付け、それを防ぐため、問題点や提言がまとめられています。
例えば、統計データでは、学校で学ぶ安全教育として、「水難事故に遭わない教育」よりも事後対応としての「アクシデント後の対応」の方が多く実施されていることが指摘されています。
問題点の指摘や提言としては、「各所で共有されている安全教育や教育プログラムが正しいかを疑う必要がある」「間違った認識が広がることで、却って事故を誘発する可能性がある」「既存の安全情報や教育プログラムの見直し」についても書かれています。詳しく深く現状の問題を知りたい方に必見のサイトで、報道関係の方に読んでいただきたいです。
9)(公財)河川財団 全国水難事故マップ(川・湖沼地等)
川で事故が起こりやすい場所はわかっています。川や湖に行く際は必ず確認しておくべきサイトになります。大人が子どもに教えてあげてください。日本の川とその特徴を学ぶ教材になり、学校の学習ともリンクして伝えることもできます。
10)日本小児科学会 おぼれる
日本小児科学会は保護者向けに「おぼれる」という資料を作成しています。子どもは声を出さず静かに沈むことや、屋外では予防として、「ライフジャケットを着用しましょう」とあります。応急処置のポイントもわかりやすく書かれています。反応がある場合には、「水を吐かせる目的で背中を叩きましょう」とあります。「反応がない」場合すぐに救急車を呼び胸骨圧迫を行うなど、予防と応急処置を分けてまとめています。
医療者向けには、より詳しく「溺水」として、「静かに溺れる」ことや、「2.5cm以上の深さで起こりうる」こと、「水中での時間が5分を超えると神経学的後遺症を残しやすい」ことなど病態についても書かれています。応急処置も、ハイムリック法は、禁忌となっていることがわかります。予防についても端的に文献に基づき啓発されていて、自然水域では、「ライフジャケットの着用を徹底する」と書かれています。
同じような水難事故を繰り返さないために
以上、楽しくわかりやすく子どもにも親しみやすいサイトから、現状の問題を指摘するものまで、幅広く「事前予防(リスクのマネジメント 水難事故に遭わない教育)」を中心に集めてみました。
その他、「ライフジャケットレンタルステーション」と検索すると、無料で貸し出ししている場所がわかることも付記しておきます。
何度も同じ事故が起こる現状は、大人の行動で変えることができます。大人が事前予防を伝えきれていないせいで子どもが亡くなることはあってはなりません。もうこれ以上、水難事故が起こらないよう願っております。
参考文献
(1)「no more 水難事故2024」(公益財団法人 河川財団)
(2)リスクマネジメント、クライシスマネジメントは定義が多様であるので、ここでは、事前対応と事後対応として、説明しました。参考として井上邦夫「リスクマネジメントと危機管理: コミュニケーションの視点から」(2015)によると平時はリスクマネジメントの領域で、発生時と事後対応が危機(クライシス)管理の領域とするものもあります。
(3)日本財団 海のそなえプロジェクト「海のそなえ 水難事故に関する調査サマリー」では、「学校の安全教育では、水難事故に遭わない教育(的確な状況判断、危険個所把握)よりも、アクシデント後の対応である教育(着衣泳等)の方が、多く実施されている。」と水難事故に遭わない教育とアクシデント後の対応である教育を分けて分析しているためその用語を用いました。
(4)グロービス経営大学院「カリギュラ効果とは、行動心理学における法則である。「絶対に〇〇してはならない」など行動が禁止される、一部分の情報・文字を隠されるなど制限かかかることで、むしろ逆に駄目だと言われたことをしてみたくなる、隠されているものが気になり見てしまうといった心理現象のことを指す。」https://mba.globis.ac.jp/about_mba/glossary/detail-20807.html
(5)警察庁生活安全局生活安全企画課「令和5年夏期における水難の概況」https://www.npa.go.jp/publications/statistics/safetylife/r5_kaki_suinan.pdf をもとに著者算出
(6)坂本昌彦 「子どもの水難事故 中高生でも相次ぐのはなぜ? 溺れても周囲の人は気づかない理由…事故を防ぐのに必要な準備」(2024)https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20240724-OYTET50005/