Yahoo!ニュース

川崎宗則さん、ムネリンの愛とエネルギーで、立派なメジャーリーガーになりました。

谷口輝世子スポーツライター
タイガースのキャンデラリオ(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 4月20日にデトロイトで開催されたタイガースーロイヤルズのダブルヘッダー第1試合。日本のファンはもちろん、米国内でも注目されていなかった。観客1万5406人。空席が目立った。

 それでも両チームのスタメンを見たときに、胸が熱くなるような感覚があった。

 タイガースの2番・三塁にジェイマー・キャンデラリオ。ロイヤルズ7番・二塁にライアン・ゴーインズの名前があった。聞いたことのない名前だと思われる人が多いだろう。2人は川崎宗則さんのマイナーリーグ時代のチームメート。その2人がメジャーで、スタメンとして出場していたからだ。

 キャンデラリオは2016年にカブス傘下3Aアイオワで川崎さんとともにプレーした。16年7月にメジャー昇格を果たしたが、カブスの三塁には若きスターのブライアントがいた。キャンデラリオはメジャーに定着できず、シーズンのほとんどをマイナーで過ごしていた。

 17年7月31日のトレード締切日にカブスからタイガースへ移籍。24歳になった今シーズンは正三塁手の座を獲得して開幕を迎えた。すでに3本塁打を打っている。カブスでメジャー昇格したときは、まだ、おどおどしていたが、今では立派なメジャーリーガーだ。

 キャンデラリオは川崎さんとマイナーで過ごし、多くのことを教わりながら、内野を守った日々をこんなふうに振り返った。

 「彼は、試合中にいつも“キャンディ!キャンディ!ボールは僕たちのところに来るぞ!”と声をかけてくれ、僕はその声に助けられて準備をした。練習中も、“まず、ボールを捕って、それから送球する”と何度も声を出して教えてくれた」

 

 マイナーからメジャーリーガーになる道のりは厳しい。キャンデラリオは川崎さんの野球を楽しむ姿勢が自分を後押ししてくれたという。

 「彼はいい時でも、悪い時でも、いつも同じように明るい。僕もいつも同じように明るい気分でいて、試合の準備に集中していくことを心がけている。彼からは試合を楽しむことも教わった。そういったことがとても助けになった」。

 もう一人、ロイヤルズのゴーインズは30歳。今年1月にロイヤルズとマイナー契約を結び、招待選手としてスプリングトレーニングに参加。生存競争をくぐり抜け、開幕ロースター入りを勝ち取った。ゴーインズはブルージェイズのマイナーとメジャーで川崎さんとともにプレーした。

 「彼は、僕が今までに野球を通じて出会った人のなかで、大好きな人のひとり。毎日、エネルギーにあふれ、そばにいたくなる。彼といっしょにプレーするのはとても楽しかった」。その口調から、リップサービスでなく、本心から川崎さんを慕っていたことが伝わってきた。

 ゴーインズは、川崎さんが英語を学ぼうとするのを助け、自身も川崎さんから日本語を習ったという。

 「僕は日本語を習うのが得意だった。彼は僕のことを“通訳!”と呼んでくれていたよ」と得意げだ。

 川崎さんは、体調を崩し、ソフトバンクを退団した。今年は野球をしていない。しかし、川崎さんが惜しみなく与えた明るさとエネルギーを、キャンデラリオやゴーインズはしっかりと受け取っていた。それがマイナー時代だけではなく、メジャーのグラウンドでも活かされているようだった。

 

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

谷口輝世子の最近の記事