トルコ占領下のシリア北部各所でパン値上げに抗議するデモが発生、体制打倒ならぬ地元評議会打倒が叫ばれる
トルコ占領地でデモ
トルコの占領下にあるシリア北部各所で6月22日、パンの値上げに抗議するデモが発生した。
トルコは2016年8月~2017年3月にかけて「ユーフラテスの盾」作戦と称して、アレッポ県ユーフラテス川西岸のジャラーブルス市一帯やバーブ市一帯に侵攻、同地を占領下に置いたのを皮切りに、2018年1~3月には「オリーブの枝」作戦を実施し、アレッポ県北西部のアフリーン市一帯を、2019年10月には「平和の泉」作戦を敢行し、ラッカ県タッル・アブヤド市一帯およびハサカ県ラアス・アイン市一帯に占領地を拡大している。
各作戦で占領された地域は、それぞれ「ユーフラテスの盾」地域、「オリーブの枝」地域、「平和の泉」地域と呼ばれる。
なお、トルコ軍は2020年2月末から3月初めにかけて「春の盾」作戦と銘打って、シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構が主導する反体制派と共闘して、イドリブ県やアレッポ県西部でシリア・ロシア軍と対峙し、同地に多数の拠点を確保した。だが、3月5日の停戦合意では、アレッポ市とラタキア市を結ぶM4高速道路沿線の安全を確保することを求められ、現在に至っている。
きっかけはパンの値上げ
もっとも大規模なデモが発生したのは、「平和の泉」地域の中心都市の一つであるラッカ県のタッル・アブヤド市。
クルド民族主義組織の民主統一党(PYD)に近いハーワール・ニュース(ANHA)や英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、同市では、トルコ占領当局に自治を委託されている地元評議会に抗議するゼネストが行われ、すべての店舗が閉められた。
ゼネストは、地元評議会が6月22日、シリア・ポンドの急落に対応するためとして、支配地域内でのパン(フブズ)の実質的な値上げに踏み切ったことを受けたもの。
トルコ占領下のシリア北部では、これまで、パンは、1袋8枚入りが250シリア・ポンドで販売されていた。だが、ワーイル・ハマド地元評議会議長は6月21日から価格を1トルコ・リラ(約500シリア・ポンド)に改定するとともに、シリア・ポンドでの売買を禁止すると発表、これが住民の怒りを買うかたちとなった。
なお、1米ドル=1,670シリア・ポンドで推移していた為替レートは、この1ヶ月で1米ドル=3,500シリア・ポンドへと一気に下落している(なお、「アラブの春」が波及する以前は、1米ドル=47~50シリア・ポンドで推移していた)。
デモ参加者は地元評議会本部に進入
タッル・アブヤド市ではまた、地元評議会が本部として転用している市庁舎の前で抗議デモが行われ、パンの値上げとトルコ・リラでの販売に異義が唱えられた。
デモには数百人が参加、その一部が市庁舎内に侵入し、抗議の意思を露わにした。
デモは各地に波及
国営のシリア・アラブ通信(SANA)、反体制系サイトのZamanwslなどによると、同様のデモは、「オリーブの枝」地域内のラッカ県スルーク町、ハサカ県ラアス・アイン市、「ユーフラテスの盾」地域内のアレッポ県ハマーム・トゥルクマーン村でも行われた。
Zamanwslによると、デモでは、バッシャール・アサド政権打倒ならぬ、「地元評議会打倒」が訴えられた。
また、SANAによると、デモ参加者は、トルコ軍とその支援を受ける国民軍による農地への放火、略奪、強制退去など、市民への犯罪行為に対する抗議の声を上げた。
(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)