マイクロソフト、メタバース人材が大量流出 多くがフェイスブックに
過去1年間に米マイクロソフトからAR(拡張現実)関連の人材約100人が流出したと、米ウォール・ストリート・ジャーナルが報じた。
マイクロソフトはAR端末「ホロレンズ」を手がけている。米テクノロジー大手の多くがARやVR(仮想現実)技術に注目し関連ハードウエアやソフトウエアの開発を急ぐ中、この市場にいち早く参入したマイクロソフトの技術者がヘッドハンティングの対象になっている。
ベテラン技術者引き抜き、2倍の給与提示も
マイクロソフトの元社員によると、引き抜きの対象となった人にはホロレンズの開発に携わったベテラン技術者も含まれる。一部の人は移籍企業から以前の2倍の給与を提示されたという。
ビジネス向けSNS(交流サイト)、リンクトインに掲載されたプロフィールによると、過去1年でマイクロソフトを去った元ホロレンズチームのメンバーは70人以上に上る。そのうち約40人が米メタ(旧フェイスブック)に移籍したという。
マイクロソフトで長年、顧客フィードバックチームを率いてきたある人物は昨年夏にメタに移籍した。ホロレンズのディスプレイ技術に携わっていたもう1人の人物は数カ月前にメタのディスプレイ関連部門ディレクターに抜てきされた。
マイクロソフトはホロレンズチームの詳細を明らかにしていないが、「社員の自然減は多くのチームが常に直面する課題であり、当社は社員維持のためにできる限りのことを行い、必要に応じて新規採用も行っている」と述べたという。
ウォール・ストリート・ジャーナルによると米テック大手が競合大手や中小企業から人材を引き抜くことは珍しくない。だが、メタのような大手が急成長しようとする際、その規模とスピードが際立つという。これにより報酬水準が上昇し、中小企業は太刀打ちできなくなる。また、米アップルもメタに人員を奪われている企業の1社だという。
メタCEO「メタバースが次のフロンティア」
メタは次世代SNSを見据え、「メタバース」と呼ばれるVR空間の開発に力を入れている。2021年7月にはこの分野に取り組む事業部門を設置した。
21年8月にはVR端末を利用する新サービス「Horizon Workrooms(ホライゾン・ワークルーム)」を約20の国・地域で開始。アバター(CGで作る分身)を通じて、異なる場所にいる利用者同士が同じ仮想空間内で会議などを開催できるようにした。
また、21年10月には、欧州で今後5年間に1万人を新規採用する計画だと報じられた。そして同月、社名をフェイスブックから「Meta Platforms(メタ・プラットフォームズ)」に変更。マーク・ザッカーバーグCEO(最高経営責任者)は「メタバースが次のフロンティアだ」とし、「現在と将来の事業をより反映する社名に変更した」と説明した。
これに伴い、メタは2月2日に発表した21年10〜12月期決算で、VR用ゴーグル型端末を含むメタバース関連事業「リアリティー・ラボ」の業績を初めて開示した。
リアリティー・ラボの同四半期における売上高は8億7700万ドル(約1000億円)で前年同期から22%増えた。だが、同事業の営業赤字は33億400万ドル(約3800億円)だった。また、21年通期の営業赤字は101億9300万ドル(約1兆1800億円)で、前年の66億2300万ドル(約7600億円)から拡大した。
VR・AR市場とは
VRはメタバースに活用される技術の1つだ。そしてハードウエア製品には、ビデオゲームなどに使われるVRヘッドマウントディスプレー(HMD)がある。この市場ではメタ傘下である米オキュラスVRの製品が75%のシェアを持つ。米調査会社のIDCによると21年におけるVRヘッドマウントディスプレーの世界販売台数は940万台だった。この台数は22年に1360万台に増えると同社はみている。
メタバースに活用される技術にはARもある。こちらは目の前の現実場面にデジタル情報を重ね合わせて表示する技術。IDCによると、21年におけるARヘッドマウントディスプレーの販売台数は32万5000台だった。22年の販売台数は135万台になると予測している。
市場規模は現在のところVRがARを大きく上回る。だがテック業界は近い将来、ARに大きな市場機会がもたらされるとみている。
そしてAR市場では現在、マイクロソフトが他社を大きくリードしている。こうした背景から、マイクロソフトの技術者がヘッドハンティングの格好のターゲットになっていると指摘されている。
- (このコラムは「JBpress Digital Innovation Review」2022年1月12日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)