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「太陽光発電、10年で投資回収は大ウソ」記事への、すごい違和感(9/27午後 追記あり)

江守正多東京大学 未来ビジョン研究センター 教授
(ペイレスイメージズ/アフロ)

追記(9/27 16時)

本稿で問題にしていたダイヤモンド・オンラインの記事には、以下の訂正および取り下げ予告が発表されました。

【お詫びと訂正】

 2018年9月25日公開の本記事『住宅用太陽光発電の誤算、「10年で投資回収」は大ウソだった』におきまして、太陽光発電の投資回収シミュレーション(試算)に事実誤認がありました。同じ前提による正しい試算では、10年で投資はほぼ回収され、記事の見出しにある「大ウソだった」は覆ることになります。編集過程での確認・検証作業が不十分であったことに起因するミスで、誤解を与えてしまった読者のみなさま、およびご迷惑をおかけした関係者のみなさまに、心よりお詫び申し上げます。

 本記事に関しましては、周知のため本日より10月26日までの1ヵ月間は公開を続け、その後は取り下げさせていただきます。

2018年9月27日

週刊ダイヤモンド編集部

ダイヤモンド・オンライン編集部

週刊ダイヤモンド編集部、ダイヤモンド・オンライン編集部の誠実な対応に感謝申し上げます。

(以下、27日7時公開版の本文)

久しぶりに(このとき以来かも)、ネット上の記事にすごい違和感を覚えたので、専門外であることを顧みずに、本稿を書くことにした。

「住宅用太陽光発電の誤算、『10年で投資回収』は大ウソだった」と題した、9月24日にダイヤモンド・オンラインに掲載された記事についてである。著者は週刊ダイヤモンド編集部だ。

この記事は、Yahoo!ニュースをはじめ、様々なニュースサイトに転載され、広く拡散されている。このサイトの紹介などは、党派性を持った味付けがなされており、SNSでの拡散の勢いがすごい。

筆者は、25日の朝に記事を見て興味を持ち、一読して、なるほどそんなもんかと思いつつ、太陽光発電に詳しい知人に感想を求めたところ、計算が間違っているという返答を得た。26日にネットを検索すると、同様の指摘が出始めていた。ほどなくして、元記事の最後に「補足」が追記されているのに気付いた。本稿を書いているのはこの時点だ。

試算方法への疑問

筆者が本稿で問題にしたいのは、その記事のすべてではなく、さしあたって記事中にある住宅用太陽光発電の採算性の試算、およびそれに直接かかわる記述についてである。

「Aさん」のケースとして、太陽光発電を設置して10年間の収支を表す、次のような試算が紹介されている(Bさんのもあるがここでは省略)。

収入:売電収入(約426万円)-設置後の光熱費(約111万円)+設置前の光熱費(約281万円)

支出:初期費用(約600万円)+設置後の光熱費(約111万円)

これを差し引きした

収入-支出=売電収入-初期費用-2×(設置後の光熱費)+設置前の光熱費

は、10年後には115万円の赤字であり、まったく採算が取れないという主張がなされている。(記事中では、オール電化を想定しているため「設置後の光熱費」は「電気料金」と表記されているが、設置前と設置後を比べやすいように、ここでは表記を変えた)

ここで、複数の人が疑問を呈しているのは、「収入-支出」を計算した時、なぜ「設置後の光熱費」が二度引かれることになるのかということである。

素朴に考えると、太陽光発電を設置して10年間経った場合の収支である「売電収入-初期費用-設置後の光熱費」と、太陽光発電を設置せずに10年間経った場合の収支である「-設置前の光熱費」を比較して、設置した場合の方が設置しない場合よりも得していればよいとするならば、

売電収入-初期費用-設置後の光熱費+設置前の光熱費

がプラスになればよいことになる。数字を入れると、-4万円となり、10年ではわずかに赤字だが、11年目で元がとれる。なぜ、これではダメなのだろうか。

ファイナンシャルプランナーの説明は

この疑問に応えて、試算を担当されたファイナンシャルプランナー(FP)の方は、追記された「補足」において、

今回は「家計目線」で投資回収ができているのか、「収入」と「費用」のバランスを見て試算を行なっています。つまり、導入した場合としなかった場合の比較ではなく、実際に太陽光を導入した後の収入と支出でどれくらい儲けが出て、回収できているのかの試算です。

と説明されている。

筆者は「え、『今回は』ってなに?」と思いつつも、引き続く説明を何度か繰り返し読んでみた。しかし、現時点で、その論理が筆者には理解できずにいる。筆者にはFPの知識は無いし、素養もおそらく無いため、この説明の妥当性の判断についてはここでは保留にしておきたい。(このFPの方の方式が間違いだと断言する声も複数聞く。だが、記事中で「素朴な」方式をわざわざ否定した上で出してきているので、このFPの方にとっては、よほど自信のある方式のはずなのである…。なんなのだろうか。筆者はもやもやしている。)

一方で、筆者がこの説明で明確に理解できたことは、「導入した場合としなかった場合の比較」で見た場合には、太陽光発電が10年程度で採算が取れることを、このFPの方は、少しも否定していらっしゃらないということだ(しかし、「今回は」違う方式で試算したのだ)。

つまり、筆者が上で述べた「素朴な」収支で元が取れればいいと思っていらっしゃる方にとっては、太陽光発電が10年程度で投資回収できることを、この記事は否定していない。太陽光発電を設置している方は少しご安心頂きたい。設置を検討されている方は、ぜひご自身の納得する方式での試算を用いて検討を続けて頂きたい。

このように理解したうえで改めて問いたいが、「導入した場合としなかった場合の比較で見れば投資回収できる」という状態を指して「投資回収は『大ウソ』」とよぶのだろうか。筆者なら普通、よばない。

筆者の現時点の判断では、この記事のタイトルおよび内容の一部は、控えめに言っても誤解を招くものであり、社会に対して太陽光発電の導入を不当に抑制する効果を持つおそれがあると思う。

太陽光発電のフェアな議論へ

断っておきたいが、筆者は社会の脱炭素化のために太陽光発電の導入促進を期待する意見を持っているものの、本稿で太陽光発電の導入を不当に促進するバイアスをかけて、今回問題にしている記事に対抗したいとは思っていない。

太陽光発電には、費用の問題以外にも、メガソーラーの設置場所の適切性、廃棄方法の適切性などといった、社会に大量に受け入れられるためには検討されるべき課題がいろいろとあると思っている。それらはオープンに議論されるべきである。

同時に、それらが誤解なく、フェアに議論されるように注意を払っていく必要があることを、今回の記事への違和感を機に、強く感じた次第である。

※本稿執筆にあたり、こちらの記事(ソーラーパートナーズ様)を参考にさせて頂きました。お礼申し上げます。

東京大学 未来ビジョン研究センター 教授

1970年神奈川県生まれ。1997年に東京大学大学院 総合文化研究科 博士課程にて博士号(学術)を取得後、国立環境研究所に勤務。同研究所 気候変動リスク評価研究室長、地球システム領域 副領域長等を経て、2022年より現職。東京大学大学院 総合文化研究科で学生指導も行う。専門は気候科学。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次および第6次評価報告書 主執筆者。著書に「異常気象と人類の選択」「地球温暖化の予測は『正しい』か?」、共著書に「地球温暖化はどれくらい『怖い』か?」、監修に「最近、地球が暑くてクマってます。」等。記事やコメントは個人の見解であり、所属組織を代表するものではありません。

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