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『ボボボーボ・ボーボボ』の鼻毛真拳! 自在に鼻毛を動かして戦う…なんてできるのか?

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。

さて、今回の研究レポートは……。

皆さん、『ボボボーボ・ボーボボ』を覚えていますか?

2001年から6年くらい「少年ジャンプ」に連載された「不条理ギャグバトルマンガ」で、テレビアニメ化もされ、その予告編では「鼻毛バトルアニメ」と呼ばれていた。どちらも核心を突いた見事なコピーであります。

舞台は西暦300X年。

地球を支配するマルハーゲ帝国が、全人類を丸坊主にすべく「毛刈り隊」を暗躍させていた。

これに敢然と立ち向かうのが、アフロヘアーのボボボーボ・ボーボボ。鼻毛を瞬時に数mも伸ばして、ムチのように振り回し、悪を討つ!

そのアフロ頭はパカッと開いて、なかに誰かが住んでいる。相棒の首領(ドン)パッチは、太陽に手足が生えたような姿で、身長は2mmから17mまで自由自在……などなど不思議すぎる要素が山盛りだったが、ヒジョ~に楽しいマンガだった。

そこで、この伝説的な作品の「鼻毛真拳」について考えてみたい。

◆鼻毛真拳の科学

一瞬で伸びた鼻毛をピュンピュン振り回し、敵を叩きのめす。

見たいような見たくないような神技だが、鼻毛でそんなコトができるのだろうか?

鼻毛は、鼻の奥に異物が侵入するのを防ぐ役割を果たしている。

「専守防衛」の構えであって、これを攻撃に転用しようというボーボボの発想は、実に斬新といわねばならない。

だが、このコペルニクス的転回も、ボーボボの鼻毛だから可能なのだ。

作中の描写を見ると、彼の鼻毛は直径1cm、長さ2mほどもある。これほど重厚長大であれば、鼻毛といえども、相当な強度になるであろう。

それを確認するために、筆者はまず自分の鼻毛を抜き、ノギスとマイクロメーターで測定したところ、直径0.08mm、長さ1.1cmであった。

これが何gの力に耐えられるか測定するため、U字型に曲げて両端をペンチで挟んで、バネばかりのフックを差し込む。……という実験をしたいのだが、うむむむ。対象物が小さすぎて全然できません。

仕方ないので、同じ直径の毛髪で代用すると、100gで切れた。

鼻毛も髪も基本構造は同じなので、強度は断面積に比例するはずである。

前述のように、ボーボボの鼻毛の直径は1cmほどと見られるので、すると筆者の鼻毛の125倍。

ということは、面積と強度は1万5625倍! すなわち1.5tに耐える!

このヒト、鼻毛で乗用車を吊り上げられるのだ。オソロシや~。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

◆わが身を削るキケンな拳法!

どうすればこんなすごい鼻毛が、人間の鼻から生えるのだろう?

松崎貴『毛髪を科学する』(岩波書店)によれば、体毛の太さは、毛根の中心部にある毛乳頭の大きさで決まるという。筆者の125倍も太い鼻毛が生えるボーボボは、毛乳頭も筆者の125倍ということである。

そして、毛の長さを決めるのは「成長のスピード」と「成長期の長さ」だ。

人間の体毛は、一定の成長期を終えると休止期に入り、もはや伸びなくなる。髪が5mも10mもある人がいないのは、そのためだ。

髪の毛の成長速度は1ヵ月で1cmほどというが、鼻毛も同じだとしたら、筆者の鼻毛は33日で現状の1.1cmまで成長し、そのまま休止期に入ってしまったのだろう。

では、ボーボボの鼻毛の場合は?

一瞬にして2mにも伸長し、その長さを維持しながら戦うところから、①成長スピードが常軌を逸して大きく、②成長期が異様に短い、と考えられよう。

ボーボボの鼻毛が1秒で2mに伸びるとしたら、成長速度は筆者の5億倍ということだ!

健やかな成長で慶賀の至り……などと喜んではいられませんぞ。

髪の成長には、大量の血液が必要なのだ。

こんなに急成長したら、体内の血液が全部鼻毛周辺に集まってしまい、ボーボボは鼻毛真拳を使うたびに貧血で倒れる危険がある。おお、なんたる諸刃の剣なのか、鼻毛真拳……。

◆どうやって動かすのか?

それにしても、どうやって鼻毛をムチのように振るうのか? 自力で動く毛、などというものが自然界にあるのだろうか?

ある!

ミドリムシや精子から伸びた鞭毛(べんもう)だ。鞭毛は、中心部に2本、周囲に9本並んだ細い管から成っており、外側の隣り合う2本がお互いにずれることによって、ムチのように運動する。

ボーボボの鼻毛も、同じような仕組みで動くのではないだろうか。

ミドリムシなどの鞭毛は、直径が1万分の2~3mmでしかないが、ボーボボの鼻毛の太さはその数万倍。これほど巨大で同じ構造をしているか、多数の鞭毛が寄り集まっているなら、鼻毛は自由自在に動き、鼻毛真拳も可能になろう。

ただし、そのような鼻毛は、もはや鼻毛ではなく、鼻鞭毛と呼ばれるべきである。皆さんも、これからはぜひ「必殺、鼻鞭毛真拳!」と呼びましょう。

――などと、もうだいぶ前に終了した作品について、おかしな提案をしてしまったが、それほど面白く、ココロに残るマンガであった。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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