え!「伝え方」「プレゼン力」を気にする人は自己チュー?
■「伝え方」「プレゼン力」を気にする人は自己チュー?
「『伝え方』や『プレゼン力』ばかり気にする人は自己チューだ」
あるトップコンサルタントから、そう言われたことがある。
「え? 自己チュー?」
私はすぐに問い返したが、
「自分のことしか考えてないんだよね。他者視点が欠けている」
と言われ、「うーん」と唸ってしまった。
たしかに人間関係を良好に保つためには、聞き上手になるのが大事だ。しかし話を聞くためには、相手が話してくれないと始まらない。
だからついつい、こちら側から話したくなる。「伝え方」や「プレゼン力」をアップすれば、相手が興味を持って話を聞いてくれると思うからだ。
しかし、それは大きな間違いだと言う。
たしかに、私もさんざん悩まされた。どんなに話す「ネタ」、話す「型」を整え、相手を喜ばそうと努力しても、話に興味をもってもらえなければ会話が弾むことはない。
だからいつも誰かと会う前は、「何を話したらいいんだ?」とばかり考えた。どんな風に伝えたらわかりやすいだろう? どんなプレゼンの型を利用すればいいのだろう? と。
・初めて会うお客様と何を話せばいいのか?
・20歳も年齢の離れた部下と何を話せばいいのか?
・年頃の娘と何を話せばいいのか?
・異業種交流会に参加しても何を話せばいいのか?
テレビを観ていると、お笑い芸人やタレントが、面白いエピソードを披露して笑いをとっている場面を目にする。
巧みなトーク術と誰でも楽しめるネタがあれば、会話は盛り上がるとずっと信じていた。
セミナーやYouTubeライブで一方的に話すケースは、それでいい。しかし一対一ではよくない。
「何を話せばいいか?」
で頭がいっぱいで、相手の話に耳を傾ける余裕がなくなるからだ。この余裕のなさがいけない。
だから話せば話すほど、相手の気持ちは遠のいていく。
企業の幹部や中堅マネジャーも同様な悩みを抱えている。このような相談をよく受けるのだ。
「当社では去年から1on1ミーティングを採用しているのですが、部下が話してくれないんですよね。だから結果的に私ばっかり話すことになる」
「聞き役に徹しろ、と社長からも言われてますが、相手が話してくれなかったらムリでしょ」
まるで会話が成立しないのは、部下のせいだと言わんばかりの口調だ。しかしその部下が、社長や本部長などと楽しそうに話していたらどうか。果たして部下自身の問題だろうか。
結局のところ、
「何を話したらいい?」
「どう伝えたらいい?」
「どうすれば自分のことをわかってくれるの?」
とばかり考えている人は「自己チュー」と思われても仕方がないのかもしれない。自分にしか視点を向けていないからだ。
相手との関係を良好にしたいなら、何を「話すか」ではなく、何を「話してくれるか」が重要だ。そのためには、効果的な質問を、タイミングよく出していく必要がある。
1回や2回、質問をしても、
「最近、どうなの?」
「ああ、ボチボチ忙しいです」
「何がそんなに忙しいの?」
「ええっと……。いろいろと忙しいですね。ハイ」
「そうか……(もっとなんか話せよ)」
このように、普段からあまり話さない相手が、心を開いていろいろなことを話しはじめることなどない。だから、
「部下に関心を寄せていろいろ聞いているのに、まったく話してくれないんだから、どうしろっていうの」
このように愚痴りたくなるのだ。
大事なことは「自分視点」から「他者視点」に切り替えることだ。他者視点で質問をしていこう。具体的には、質問の内容を変え、質問の数をもっともっと増やすことだ。
■「よく話す人」の近くにいると質問力は鍛えられない
質問力を鍛えるためには、環境も大事だ。
日々、同じ人とばかり仕事をしていると、たいてい鍛えられない。特に、周りに「よく話す人」がいると、
「自分は聞き上手だ」
と勘違いしてしまう。ある中小企業の専務が、周りから
「専務は聞き上手ですね」
「どこで専務は傾聴力を鍛えたんですか?」
などと過剰評価されていた。このような環境にいると、よけいに気付きにくい。
「相手に関心を寄せて話を聞き、ちゃんとリアクションすることだ。相槌は大事だぞ」
自分は聞き上手だ、と勘違いしていると、このように部下たちへレクチャーすることもあるだろう。
しかし、そんな専務も課長たちと面談すると、かなり手こずった。
「まだアイツを課長にするのは早かったか。俺が親身になって質問しても、まるで喋らない。『はい』とか『へえ』しか言わないんだよ」
と愚痴をもらす。
結局は、相手次第なのだ。
相手が「よく話す人」なら話が盛り上がるが、そうでない場合は会話が続かないのであれば、本物ではない。「聞き上手モドキ」である。
本物の聞き上手は、相手が社長だろうが、部下だろうが、お客様だろうが変わらない。ちゃんと相手は話してくれるようになる。特殊なケースでない限り、会話は弾むものだ。
結局、周りに「よく話す人」がいることが問題なのだ。
この専務の場合、いつも行動を共にする社長がよく話すのだ。訪問するお客様もだいたい決まっていて、気心が知れている。だから会話に苦労しない。
しかし、専務はもちろんのこと、この会社のことも、取扱商品のことも知らない先に出かけると、とたんに化けの皮が剥がれる。
「御社はいつからこの事業をされているんですか?」
「40年前からです」
「地域密着でやられてるんですね」
「ああ、そうですが」
「できれば当社とも取引をしていただきたいんですが」
「御社と取引して、どんなメリットがあるんですか?」
「ええと……。そうですね。こちらの資料を見ていただけますか」
会社内では「聞き上手の専務」と呼ばれていた。しかし、相手が「よく話す人」でないと聞き役に回ることができないのである。
だから結果的に、ベラベラ話すことになる。
かつてトップセールスと呼ばれた人でもそうだ。
以前、保険営業で結果を出していた営業が、IT企業に転職し、その後、鳴かず飛ばずになったという話を聞いたことがある。
保険営業時代は「よく話す奥さま」をメインのお客様に抱えていた。そのせいか、紹介でドンドン仕事が入ってきたようだ。
「よく話す人」を相手にするなら、気持ちよいリアクションをするだけで、相手は話してくれるようになる。
しかしこの営業が転職したあと接するようになった相手は、情報システム部門の課長や、経営企画の担当者だった。
「よく話す奥さま」と違う。どんなにわかりやすく美しいリアクションをしようが、相手は必要以上の話をしない。だからかなり苦労したと聞く。
いっぽう、本物のトップセールスはどうか。
相手が学生、主婦、鉄工所の社長、大企業の担当者……。よく話す人、あまり話さない人、誰であろうと関係がない。世代や国籍が違っても、うまくやっていけるのだ。
どんな質問できっかけを作ればいいかわかっているし、会話の中から題材を見つけ、次々に質問の「一手」を打つことができる。
それが本物の聞き上手だ。
このように、誰とでも「よく話す人」が周りにいる人は要注意だ。自分を「聞き上手」だと勘違いし、質問力を鍛える機会を失ってしまうからだ。
■「質問して聞く」のと「ただ聞いている」の大きな違い
トップセールスは聞き上手だ。お客様の話をしっかり聞き、大きな信頼を勝ち取っている。
ただ、聞き上手とはいえ、ただ何となく聞いているのではない。主導権を握りながら聞いている。
元柔道家のトップセールスは「主導権」という言葉をよく使っていた。
「相手が押したり、引いたりするタイミング、力を見極め、うまく利用しながら質問するんです。主導権を渡さないために」
相手が右に出れば、その力を利用する。相手が後ろに引けば、その力を利用して次の「手」を打つ。傍から見ていると受け身のように見えて、実は攻めている。
攻めるからこそ、相手は動くのだ。まさに「柔よく剛を制す」である。
いっぽう相手の話を「ただ聞いている」人は、攻めていない。柔道でいえば、突っ立っているだけだ。
「よく話す人」が相手なら、ただ聞いているだけでも会話は盛り上がるかもしれない。
しかし「よく話す人」は誰にでもよく話す。相手は誰だっていい。したがって「よく話す人」の話をただ聞いているだけで、よい関係を築くことはできない。
よい関係を築くためには、
「ついついこの人には、他の人には話さないことまで話してしまう」
と、思われる必要がある。そうすることで特別扱いを受けることになるのだ。
そのためには
「そのとき、なぜそう思ったんですか?」
「それは何歳のときだったんですか?」
「それって、具体的にどういうことですか?」
と、主導権を握りながら質問し続けることだ。
相手から「尋問されている」と思われないよう、さりげない姿勢を貫き、質問を繰り返していると、相手がドンドン前のめりになって「話してくれる」ようになる。
そして、ここぞというタイミングで核心に迫る質問をする。そうすることで、
「よくぞ聞いてくれた」
「君だけだよ、そんなこと聞いてくれるの」
と、相手に感謝されるのだ。
このように「聞く」といっても「ただ聞いている」のと「質問して聞く」では大きな違いがある。「ただ聞いている」だけで、相手から特別扱いされることはない。そして本音やここだけの話を引き出すこともできないのだ。
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