なぜレアルはアンチェロッティと契約延長を行ったのか?ビッグイヤーの獲得と若手選手のマネジメント。
指揮官の繋ぎ留めに、成功している。
レアル・マドリーは先日、カルロ・アンチェロッティ監督との契約延長を発表した。2024年夏までだった契約が2年延長され、2026年夏まで指揮を託す運びとなった。
アンチェロッティ監督は2013年から2015年までマドリーで監督を務めた。2021年夏に復帰を果たすと、2021−22シーズンにチャンピオンズリーグ優勝を達成。この度の契約延長で、新たな契約を全うすれば、フロレンティーノ・ペレス政権で最長政権を築くことになる。
アンチェロッティ監督に関しては、ブラジル代表が招聘に関心を示していた。だが正式なサインには至らず、契約期間が半年を切る前に、マドリーとの契約延長が決まった。
■アンチェロッティ監督の手腕
思えば、難しい一年だった。
2023年1月に行われたスペイン・スーパーカップで、マドリーは決勝でバルセロナに敗れてタイトルを明け渡した。22−23シーズン、マンチェスター・ユナイテッドに移籍したカゼミロの抜けた穴は大きく、またカリム・ベンゼマのパフォーマンスが最後まで上がらなかった。
リーガエスパニョーラでは、バルセロナに優勝を譲った。チャンピオンズリーグでは、準決勝でマンチェスター・シティに2試合合計スコア1−5と敗れた。コパ・デル・レイで優勝して面目を保ったが、アンチェロッティ監督の将来は不透明だった。
ただ、今季は図らずもアンチェロッティ監督の手腕が試される展開になった。
この夏、ベンゼマが退団して、アンチェロッティ監督はトップクラスのCFの補強を求めていた。ハリー・ケイン(現バイエルン・ミュンヘン)、キリアン・エムバペ(パリ・サンジェルマン)らが候補に挙げられたが、最終的には獲得できなかった。
■補強と負傷者のトラブル
加えて、今季のマドリーは負傷者続出トラブルに見舞われた。GKティボ・クルトワ、エデル・ミリトン、ダビド・アラバが次々に長期離脱。ヴィニシウス・ジュニオール、エドゥアルド・カマヴィンガ、オウレリアン・チュアメニらも負傷離脱を強いられ、まさに“野戦病院状態”でチームビルディングを行わなければいけなかった。
だがアンチェロッティ監督は粘り強かった。トップクラスのストライカー不在。その解決には、ジュード・ベリンガムの起用法を考察した。【4−4−2】中盤ダイヤモンド型のシステムで、トップ下にベリンガムを嵌め、得点力を爆発させた。
守備陣に欠場者が出てきた際には、ダブルボランチを採用。フェデリコ・バルベルデとトニ・クロースを中盤の底に置いて、ハードワークできる選手と配球が巧みな選手でバランスを整えた、
■若手の獲得と世代交代
またマドリーは近年、若い選手を積極的に補強している。世代交代を進めるべく、動いている。
ヴィニシウス(23歳)、ロドリゴ・ゴエス(22歳)、カマヴィンガ(21歳)、ミリトン(25歳)、チュアメニ(23歳)、バルベルデ(25歳)、ベリンガム(20歳)…。マドリーの中枢を担う選手たちは、25歳以下で構成されている。
そういった若い選手がいる中で、アンチェロッティ監督の存在は大きい。時に嗜め、時に叱咤激励し、指揮官がネジを締める。ヤング・プレーヤーのフラストレーションが溜まり爆発、という現象は現在のマドリーでは起こらない。それもまた、アンチェロッティ監督の隠れた功績だ。
「私は契約延長を行った。この数年、チームは成績を残して、今年もうまくやっているからだ。我々の間には、良い雰囲気が流れている。監督と選手の間に、そういった空気があることは重要だ。そうでなければ、クラブに成功はもたらされない。もちろん、契約延長を行い、クラブに感謝している。そして、選手たちに対しても。彼らは素晴らしい姿勢で取り組んでくれている」
「レアル・マドリーは、私にとって、家族のようなものだ。会長をはじめ、このクラブを取り巻く環境というのは、家族的だ。そういう雰囲気で働けているので、それぞれが自身の最大限のパフォーマンスができるのだろう」
これはカルロ・アンチェロッティ監督の言葉だ。
マドリーは現在、リーガエスパニョーラで首位に立っている。チャンピオンズリーグでは、グループステージの6試合で6勝と全勝でグループ首位通過を決めた。無論、コパでもタイトルの可能性を残している。
マドリーで、最長政権を築いたのはミゲル・ムニョス氏だ。1960年から1974年にかけ、605試合で指揮。勝率59%という数字を残している。
アンチェロッティ監督がムニョス氏に並ぶのは難しいだろう。だがアンチェロッティ監督は260試合で指揮を執り、勝率72.3%という驚異的な数字を残している。この人しかいない、という契約延長に、大半のマドリディスタが納得しているはずだ。