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タイトルを逃すも、永里優季が見せた晴れやかな表情。「こんな感情になったのは多分初めてかな」

森田泰史スポーツライター
果敢にチャレンジした永里(写真/シカゴ)

新たなタイトルを、アメリカでの初タイトルを掲げることは叶わなかった。それでも、永里優季の表情は晴れやかだった。

8日、NWSL (ナショナル・ウーマンズ・サッカーリーグ)のプレーオフ準決勝、ノースカロライナ対シカゴ・レッドスターが行われた。NWSLでは、リーグ戦上位4チームがプレーオフに進んで一発勝負のトーナメント戦を実施。そのトーナメントの勝者に、優勝のトロフィーが与えられる。

現地時間午後3時キックオフ。ゴール裏には日本、アメリカ、ブラジル、アイルランド、カナダの国旗が飾られていた。シカゴは4-2-3-1で前線からのプレスを嵌める。開始早々の2分には、CKからジュリー・エリツがヘディングを叩き、最初の決定機を得た。

だがノースカロライナも徐々に息を吹き返す。中盤を省略してシカゴのプレッシングを無効化する戦い方に切り替えると、スピードのあるアタッッカー陣が躍動する。アシュリー・ハッチを中心に、右から、左から、シカゴ守備陣に揺さぶりをかけた。前半終了間際にはセットプレーからゴールを破りかけたが、ケイティ・ノーソンがゴールラインすれすれでクリアし、シカゴを救う。

前半はスコアレスで終えた。シカゴは後半11分にジェン・ホイに代え、永里を投入する。そこで流れが変わった。永里が入ったことで前線に起点ができ、シカゴは徐々に攻撃のリズムをつかむ。後半32分には、永里のスルーパスに反応したクリステン・プレスが相手GKと1対1になりかける。ペナルティーエリア外まで出たノースカロライナ守護神が、懸命にボールを蹴り出した。

ノースカロライナは前半からの攻勢が祟り、攻め疲れの色が出始めていた。延長に入れば、シカゴに勝機がある。俄かな期待はしかし、終了間際に打ち砕かれる。後半44分、デニス・オサリバンのミドルシュートがエリツの足に当たり、コースが変わって枠内に収まる。ノースカロライナが待望の先制点を奪取した。

ノースカロライナはそのまま逃げ切り、同じくプレーオフ準決勝を制したポートランドとの決勝に進んでいる。

円陣を組むシカゴ
円陣を組むシカゴ

試合後、永里に話を聞いた。

後半11分に最初の交代選手として出場。どのような意図、イメージで試合に入ったのか?

永里:前線でコネクト役を担うイメージで試合に入りました。前のノースカロライナ戦で相手のイメージは掴めていましたし、前半見ていても相手がやっていることは1ヶ月前の試合と大して代わり映えしていなかったので、相手のウィークポイントであるサイドバック・センターバック・センターハーフ(三角形)の間でボールを受けることを意識しました。この試合の週は良い状態で毎日トレーニングに臨めていたから、今シーズンで一番感覚が研ぎすまされていたという確信があり、自信を持って臨むことができました。

交代時の監督からの指示は?

永里:"Have a fun"(楽しんで来い)と。

永里選手が投入され、シカゴの攻撃に深みができた。その辺りは意識していたか?

永里: 攻撃時に深みを与え、人数をかけることは意識していました。そのためには時間をクリエイトする必要があったし、ボールを簡単に失いすぎていたので、ボールを大切に扱うことは意識しました。

右サイドに流れて起点になったり、タメを作っていた。その辺りはどう考えていたのか?

永里:(クリステン)プレスが左サイドにいることが多いのと、それがチームの戦術でもあったから、左サイドは彼女に任せて右で仕事をすることをメインにしようと考えていました。左に流れすぎると彼女のスペースも消すことになってしまうので、なるべく右サイドに留まろうとはしていました。

永里選手が入って、プレスが生き生きとプレーしているように見えた。どの選手からどうボールを引き出して、どうゴールするイメージだったのか?

永里:前を向いたらなるべく早いタイミングでプレスにスルーパスを出そうと考えていたけど、結果的に1本しか出せませんでした。出せるチャンスはこれの他に2回あって、一つは左サイドで半身で受けて中にコントロールしてそのまま背後に出そうと試みたけど相手の寄せを剥がしきれずに結局右サイドハーフに出さざるを得なくなってしまったプレーです。これは私のミスでした。もう一つは、右サイドバックからクサビの縦パスを受けて前を向いて中にドリブルして行って結局出すとこなくてそのまま左に流れて行って相手に取られたやつですね。あの場面でプレスが動き出していたら、簡単に一本のスルーパスで打開できたと思います。

永里選手が入り、流れが変わったと感じた。勝機は見えていたか?

永里:相手はチャンスらしいチャンスはなかったし、やられそうな感じがまったくしなかったのと、こちらは意図的な攻撃の形が作れていたし、時間の経過と共に流れが傾いてきているのは感じていたから、延長に入れば勝てると思っていました。

試合全体を見て、結果を振り返ると、ノースカロライナが地力で優ったかなという印象でしたが、いかがでしょう?

永里:前半から相手の勢いとスピードある攻撃に圧倒されて、ファウルもかさんで相手優位に試合が展開されていたし、攻撃陣のインテンシティが最後まで落ちていなかった印象を受けました。レギュラーシーズンを制していただけに、さすが最後まで戦いきる力があるなと感じました。

シカゴはこういう戦いに慣れている選手が少ないのか、緊張もあったのか、ガス欠するのがいつもより早いと感じました。後半私が入った時点でみんなの疲れが手に取るようにわかったから、いつも以上に丁寧にプレーしないとという意識にもなりました。

個人的には、シカゴにもう1〜2選手、エリツや永里選手のようなプレーヤーがいれば、と思いました。次のシーズンに向け、シカゴのチームとしての課題はどこにあるでしょうか?

永里:イージーなパスミスで運動量を無駄に使うことになっているので、パスの精度と種類をもっと増やす必要があると思います。あとは、ボールを奪う場所→奪った後の攻撃→奪われたあとの守備を繋げて考えて戦術として落とし込む必要があると思います。その辺の規律を設ければ、もっとそれぞれの自由度が上がる気がします。

来季に向けて、永里選手自身が考える個人としての課題はありますか?

永里:ドリブルに入った時に思考の流れを止めずにプレーできるようにすることです。以前に比べればだいぶ長くなったけど、予想外の状況(味方が上がってこないとか動き出してくれないなど)になった時に思考が止まってしまって最善の選択をしきれないことがあったから、その辺りが次の課題だと思います。シンプルにプレーするのが今までの自分の特徴だったけど、ドリブルを武器にすることができれば、味方の良さももっと引き出せると思います。

シーズンが終わりました。振り返ってみて、いかがでしたか?

永里: 楽しかったですね。シーズンが終わってとても寂しくなりました。こんな感情になったのは多分初めてかな。もっとサッカーをしていたい、シーズンのある生活をしていたいって率直に思いました。怪我とかいろいろな問題もあったけど、最高に充実したシーズンでした。最後の試合で自分の成長を感じることができたし、課題も見つかった。タイトルは獲れなかったけど、それ以上に大切なことを沢山気付かせてもらった気がします。私に関わってくれた全てのみんなに感謝ですね。

戦況を見守るシカゴのスタッフ
戦況を見守るシカゴのスタッフ
スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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