Yahoo!ニュース

なぜスペインは“欧州制覇”を成し遂げられたのか?ヤマル、ニコ…若手の台頭とベテランを含めた総合力。

森田泰史スポーツライター
新たに欧州王者となったスペイン(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

4度目の欧州制覇を、成し遂げた。

スペイン代表はEURO2024決勝でイングランド代表と対戦した。ニコ・ウィリアムスとミケル・オジャルサバルの得点で競り勝ち、EURO2012以来となる主要大会のタイトルを獲得している。

■ポゼッションとプレス

過去、スペインはEURO2008を制して、以降、2010年の南アフリカ・ワールドカップ、EURO2012と立て続けにタイトルを獲得した。主要大会3連覇で、黄金時代の到来を印象付けた。

だが今大会のスペインは、あの頃のような「チキ・タカ」を見せなかった。前線からのプレッシング、ショートカウンター、クロス・アタック…。攻守においてバリエーションに富んだ戦術で、相手チームを上回ろうとしていた。

ボールを追うモラタ
ボールを追うモラタ写真:Maurizio Borsari/アフロ

アルバロ・モラタは、7試合に出場して1得点を記録した。

モラタの1試合平均得点数は「0.15」で、それはハリー・ケイン(7試合3得点/イングランド代表)、コディー・ガクポ(6試合3得点/オランダ代表)、ゲオルゲス・ミカウターゼ(4試合3得点/ジョージア代表)、イヴァン・シュランツ(4試合3得点/スロバキア代表)と各国のストライカーと比較して最も低い数字だった。

しかし、モラタは守備面で大きく貢献していた。プレスに向かうランニングは1試合平均28.5回、ボール奪取数は1試合平均4.2回。また、チームがボールをロストしてから5秒以内にプレスを行うアクションは1試合平均5.4回だった(データは決勝前のもの)。

「モラタ以上にコミットメントを示している選手はいない」と語るのはチームメートのダニ・ビビアンである。「僕たちは、多くの時間、相手陣内でプレーする。だけど、このチームで約束事が問われるのは、ボールを失った後のプレッシングだ。どのようにディフェンスに回るか、というところだ」

■新たなスペインの象徴

無論、スペインのタイトル獲得を語る時、ニコ・ウィリアムスとラミン・ヤマルの存在を忘れてはならない。

6試合で2得点をマークしたニコだが、決勝のイングランド戦での先制点は値千金のものだった。ヤマルは7試合に出場して4アシストを記録して、シャビ・シモンズ(3アシスト/オランダ代表)を凌いでアシスト王に輝いている。

ゴールを喜ぶヤマルとニコ
ゴールを喜ぶヤマルとニコ写真:ロイター/アフロ

何より、ニコとヤマルは、ドリブルと突破力でチームに推進力をもたらしていた。ニコ(ドリブル数31回)、ヤマル(ドリブル数32回)と2人で果敢に仕掛け続けた。両サイドのアタッカーで、トータルで60回以上のドリブルを仕掛けた選手は、EURO2024において、いなかった。

ニコ(22歳)とヤマル(17歳)の2人のヤング・アタッカーは、新たなスペイン代表を象徴する存在だった。彼らがいたから、スペインはチキ・タカから脱却して縦に速いフットボールを展開できたのである。

■若手とベテランのミックス

EURO2024開幕時、16歳だったヤマルは、準決勝のフランス戦で得点を挙げ、新記録を樹立した。

ヤマルは16歳362日で、主要大会の準決勝でゴールを記録。ペレ(1958年のスウェーデンW杯/当時17歳244日)の保持していたレコードを破った。

一方で、ヘスス・ナバスは、準決勝のフランス戦で、38歳231日で出場した。フリッツ・ウォーターとガナー・グレン(37歳236日)の記録を塗り替え、フィールドプレーヤーとして、主要大会の準決勝で最年長出場記録を更新した。

ナバスだけではない。モラタ、ダニ・カルバハル、ナチョ・フェルナンデス、ホセル・マト、アイメリック・ラポルトと経験豊富な選手たちがヤング・プレーヤーを支えた。若手とベテランの融合が、スペイン代表の大きな力になった。

試合中に話し合うロドリとナバス
試合中に話し合うロドリとナバス写真:Maurizio Borsari/アフロ

「家族やサポーターを含めて、すべての人たちが、このタイトルに値すると思う。僕たちはヨーロッパのチャンピオンになった。次は、ワールドカップだ」

「(決勝の相手のイングランドには)素晴らしい選手が揃っていた。彼らは違いをつくれる選手だ。でも、僕たちは対抗する術を知っていた。自分のゴールが決まった瞬間、これまで支えてきてくれた人たちの顔が浮かんだ。非常に苦しい試合だったけれど、僕たちは歴史に名を刻んだんだ」

これはニコの言葉だ。

決勝でイングランドに勝利したスペイン
決勝でイングランドに勝利したスペイン写真:ロイター/アフロ

ラ・ロハが見据えるのは、2026年に行われるアメリカ・カナダ・メキシコ共同開催のW杯だ。

だが、いまは、しばしの間、喜びの余韻に浸ってもらいたい。カンペオーネス、カンペオーネスーー。スペイン中が、“王者”の誕生に歓喜しているのだから。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

誰かに話したくなるサッカー戦術分析

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

リーガエスパニョーラは「戦術の宝庫」。ここだけ押さえておけば、大丈夫だと言えるほどに。戦術はサッカーにおいて一要素に過ぎないかもしれませんが、選手交代をきっかけに試合が大きく動くことや、監督の采配で劣勢だったチームが逆転することもあります。なぜそうなったのか。そのファクターを分析し、解説するというのが基本コンセプト。これを知れば、日本代表や応援しているチームのサッカー観戦が、100倍楽しくなります。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

森田泰史の最近の記事