Yahoo!ニュース

嘘(フェイク)から出たまこと。存在しないはずだった作品が、次々に映画化!?

渡辺晴陽作家・脚本家/エンタメアドバイザー

ことわざでは「嘘つきは泥棒の始まり」と言いますが、実際には嘘をつくと、泥棒ではなく映画が始まるのかもしれません。

なんと、2007年の映画『グラインドハウス』の一部として公開されたフェイク予告編の1作「感謝祭(サンクスギビング)」が、長編作品『サンクスギビング』として映画化されたそうです。すでにアメリカでは公開されていて、日本でも12月29日からの公開が決定しています。

嘘予告とは言え、めちゃくちゃ面白そうだったので、とても楽しみなニュースです。

今回はそんな映画『グラインドハウス』や、嘘予告(フェイク予告編)についてです。
なお、フェイク予告編については、現在ではなかなか見られないものもありますが、『グラインドハウス』の本編にあたる『デス・プルーフ in グラインドハウス』、『プラネット・テラー in グラインドハウス』は配信などでもご覧になれるので、記事を読んで興味が出たら、お手軽にチェックできますよ。

そもそも「グラインドハウス」って?

グラインドハウスは、60~70年代のアメリカにあった映画館で、B級作品などを2~3本立てで上映していたそうです。

映画『グラインドハウス』は、そんな映画館へのオマージュを込めて作られたホラー映画作品です。タランティーノ監督による「デス・プルーフ」、ロバート・ロドリゲス監督による「プラネット・テラー」の2本で一つの映画『グラインドハウス』として製作・(北米では)公開されました。

日本ではそれぞれに追加シーンを加えた『プラネット・テラー in グラインドハウス』、『デス・プルーフ in グラインドハウス』と、それぞれ独立した作品として公開されています。

簡単に紹介すると、「プラネット・テラー」はゾンビ映画。片足をゾンビに食われてしまったダンサーの女性が、失った足の代わりに銃を埋め込みゾンビと戦います。
「デス・プルーフ」は、耐死仕様(デス・プループ)=どんなことがあっても運転手が死なない設計をしたスタント用の車に乗ったスタントマンが殺戮を行うストーリーです。

『グラインドハウス』は、かなりの予算をかけて製作された作品でしたが、興行成績的にはあまり成功とは言えない結果になりました。

この作品は製作へのこだわりが強く、古い映画に見せるためにフィルムの傷を再現したり、あえてB級映画っぽい演出をしたりしていて、背景を知らずに見ると汚い映像と安っぽい演出が目立ちます。そのため観客ウケが悪かったようです。

しかし、「プラネット・テラー」のスタイリッシュで斬新なアクションや、「デス・プループ」のスリリングでスカッとするストーリーなど、背景が分かったうえで見れば魅力がたっぷり詰まっていました。(現在は廃盤となっていますが、ディスク6枚組のコンプリートボックスを買ったほど、個人的に大好きな作品です)

こだわりが詰め込まれた「フェイク予告編」

『グラインドハウス』には、映画の冒頭と「プラネット・テラー」と「デス・プルーフ」のつなぎ目とに、4本(一部地域では5本)の予告編がはさまれていました。

この予告編は、いずれも存在しない映画の嘘予告、つまりフェイク予告編でした。B級映画を上映する小規模映画館の雰囲気を作るために偽物の予告編まで作り上げたわけです。

このフェイク予告編のこだわりが強すぎます。

主に公開されていた予告編は「マチェーテ」、「ナチ親衛隊の狼女」、「Don't/ドント」、「感謝祭(サンクスギビング)」の4本です。

予告編「マチェーテ」はロバート・ロドリゲス監督自身が製作しましたが、他の3本はそれぞれ別の有名監督が担当しています。

  • 「ナチ親衛隊の狼女」:『マーダー・ライド・ショー』シリーズの監督やミュージシャンとしても知られるロブ・ゾンビ監督。ニコラス・ケイジが出演。
  • 「Don't/ドント」:『ショーン・オブ・ザ・デッド』の監督や、『アントマン』の脚本で知られるエドガー・ライト監督。
  • 「感謝祭(サンクスギビング)」:『ホステル』シリーズのイーライ・ロス監督。

いずれもB級ホラー作品を思わせるちょっとシュールな作りですが、本編を見てみたくなる面白そうな予告編で、フェイクなのがもったいなく感じる出来栄えでした。

フェイク予告編という言葉がフェイク(嘘)になっていく

『グラインドハウス』に挿入された実在しない映画予告編。
ところが、その後、2010年には『マチェーテ』が映画化されました。

映画『マチェーテ』には、主演のダニー・トレホの他に、スティーヴン・セガール、ロバート・デ・ニーロ、ジェシカ・アルバなど主役級の俳優がたくさん出演していました。
ディストピアな感じの荒廃した世界観、マッチョでバイオレンスな戦闘シーンなど、世紀末クライム・アクション映画として完成度が高く、『グラインドハウス』を超えるヒットを記録しました。
さらに多数の有名人が出演する『マチェーテ・キルズ』という続編まで製作されています。

また、『グラインドハウス』のプロモーションとして行われたフェイク予告編コンテストで優勝した「ホーボー・ウィズ・ショットガン」(フェイク予告編の5本目)も、2011年に同名の長編映画化されています。

そして、『グラインドハウス』公開から16年となった今年、フェイク予告編「感謝祭(サンクスギビング)」をもとにした作品が、映画『サンクスギビング』として公開されます。
ということは、全部で5本あったフェイク予告編のうち、過半数の3本が映画化されてフェイクでなくなったことになります。

フェイク予告編の中には現在では見るのが困難なものもありますので、『サンクスギビング』の公開に合わせて、映画『グラインドハウス』の上映イベントとか、フェイク予告編の配信があればいいですね。

個人的には「Don't/ドント」の長編映画も見てみたいところですが、きっと『サンクスギビング』は素晴らしい出来栄えになっているはずなので、今から楽しみです。

思い返せば、映画『マチェーテ』も、いい意味で粗野なところや下品なところが最高でした。

どうせ本編は存在しないからと、フェイク予告編には監督が自分の趣味や発想をぎゅうぎゅうに詰め込んでいるのでしょうか。だからこそ、実際に作品化すると、名シーンだらけ山場だらけの刺激的な1本になるのかもしれませんね。

さてさて、いつか「Don't/ドント」と「ナチ親衛隊の狼女」も映画化されて、全てのフェイク予告編がフェイクでなくなる日がくるのでしょうか?

作家・脚本家/エンタメアドバイザー

国立理系大学院卒、元塾経営者、作家・脚本家・ライターとして活動中。エンタメ系ライターとしては、気に入ったエンタメ作品について気ままに発信している。理系の知識を生かしたストーリー分析や、考察コラムなども書いている。映画・アニメは新旧を問わず年間100本以上視聴し、漫画・小説も数多く読んでいる。好みはややニッチなものが多い。作家・脚本家としては、雑誌や書籍のミニストーリー、テレビのショートアニメや舞台脚本などを担当。2021年耳で読む本をつくろう「第1回 児童文学アワード」にて、審査員長特別賞受賞。

渡辺晴陽の最近の記事