【元・美容ナースが見た】一生元に戻らない失敗…美容外科での手術ミス「神経障害」2選
過去私が勤めていた美容外科で起こった出来事…。
忘れられない症例が2例ほどあります。
そのいずれもが「神経遮断」による麻痺。
神経を切断してしまったので、おそらく今も元に戻っていることはないでしょう。
長い美容外科での診療経験で、何よりも心を痛めた症例でした。
美容整形は近年になり、その低価格化もあいまって広く普及するようになりました。
しかし、美容整形と言えど「医療行為」です。
中には元に戻らないほどの失敗が起こることも可能性としては「0」ではないのです。
今回は、「神経を切断してしまった」ことにより起こった、元に戻らない失敗症例について紹介します。
1.リフトアップ施術で顔面神経切断
その患者さんは70代の女性でした。顔全体のたるみを気にされていて全体的なリフトアップをご希望で受診。
年齢も年齢ですし、たるみの具合も強かったので、切開法によるリフトアップをすることになりました。
その対応をした医師は、当時入職後1年未満のA医師。入職して経歴は浅いものの、もともと形成外科出身。
少なくとも顔の解剖学は熟知しているはずなので、誰も心配することはなかったのです。
しかし、手術介助を担当した看護師が「なんかA先生…、手震えていたんだけど…。」と言って戻ってきたのが印象的でした。
手術当時は腫れもあり、ハッキリとした症状はわからなかったのですが、1週間後の抜糸の日に来院すると「顔の右側が動かせない…」と、患者さんが訴えられたのです。
見てみると、既に明らかに「顔面神経麻痺」の症状があらわれていました。右側の顔半分の筋肉が落ち込み、右半分の表情が動かなくなってしまったようです。
顔全てに落ち込みが見られたので、耳の前にある神経の根もとを切ってしまったのでは?という見解でした。
後になって分かったことですが、この時担当したリフトアップ手術は、A医師にとって人生初の手術だったのです。
しかもリフトアップ手術をした日は、先輩医師や院長がおやすみしていて、手術内容について確認も、チェックもしてもらえない状況でした。
教科書でしか学んでいない状況で、手術を施していたのがわかりました。
その後、すぐに「メチコバール」という、神経の回復を促す薬の投薬を続けましたが開腹は見られず…。
患者さんは大変に悲しみ、訴訟を起こすと訴えられたのです。(そりゃ、そうでしょう…)
結果的に「渉外課」あずかりになり、金銭交渉の上での示談となりました。
ちなみにそのA医師ですが…、今でも元気に美容外科クリニックで診療を続けています…。
2.ふくらはぎを細くしたかっただけなのに…足の神経切断で一生歩行障害
その患者さんは20代の若い患者さん。学生時代にバスケット部で、大人になって引退した後、ふくらはぎの太さにお悩みで、「細くしたい」とご希望され来院しました。
ふくらはぎを細くする方法には
・ボトックスで筋肉を痩せさせ細くする(長くても半年程度で効果は切れる)
・脂肪吸引で脂肪を取り除き細くする(脂肪がないと効果はない)
・ふくらはぎの筋肉を痩せさせるために神経処理を行い筋肉を細くする
のおおむね3つに分かれます。
今回の患者さんは、永続的に効果を感じられる神経処理の方法を選択されました。
当時、日本ではまだ珍しい、膝裏よりふくらはぎの筋肉にアプローチする神経をレーザー処理する方法だったのですが…
どうやら焼き過ぎてしまったようです。術後は痛みが生じることもあるので、内服薬を紋でご帰宅頂きましたが、その後数日たって「痛みとしびれがすごくてまともに歩けない…」と連絡がありました。
症状を診察したところ、足を引きずりながら歩く「跛行(はこう)」症状が出ていたのです。
つ明らかな神経障害が出ている状態でしたので、すぐに「メチコバール」の内服を開始しました。
血行を良くするための「インディバ」処置を無料で提供したり、リハビリの案内などをしましたが半年たっても症状が改善せず…。当たり前ですが日常生活や仕事にも支障が出ているご様子。
見るたびに落ち込んでいって、どんどん痩せていっているのも感じました。
結局「渉外課」あずかりとなり、その後来院された経歴はありません。
何らかの形で決着がついたのだと思われます。
3.多くの美容外科では「渉外」と呼ばれる、診療では対応しきれない患者さんを担当する部署がある
一般企業でも「渉外課」や「渉外係」の担当者はいると思います。
つまり、お客様とのやり取りをする担当者ということになりますね。一般企業では営業の意味合いも強いようですが、美容外科では少し意味合いは異なります。
美容外科における渉外課は「クレームが発生し、診療現場では対処できなくなった患者さんと交渉・示談を進める担当部署」とされています。
美容外科で発生するクレームの多くは「満足のいく結果にならなかった」場合です。
実際に細かく見るとクレームの種類もさまざま。
・元々の医師と患者さんの仕上がりの認識に違いがあり、患者さんが納得できなかった
(カウンセリング不足・患者さんの認識不足)
・施術自体の仕上がりが不出来で、納得のいく結果にならなかった
(医師の技術不足)
・予想だにしない事態が生じ、クレームにつながった
(副作用やダウンタイムの延長)
多くはいずれかの場合にクレームになります。
患者さんが精神的に問題があり、クレームになることもありますが、やはり医師の技術不足やカウンセリング不足により生じる事例の方が多いという印象です。
クリニックレベルで対処できるクレームであれば
・納得のいく仕上がりになるまで再処置
・返金対応
・追加施術のサービス
などで対処すれば一応OK。
これらの対応でもむずかしいようであれば、渉外課のあずかりとなり、クリニックと患者さん双方が納得する落としどころを見つけていくのです。
それでも結着が付かない場合には、裁判などの方法に移行することになります。
(まとめ)不可逆的な処置ほど慎重に!
実績がない医師・実績がない処置は、予想以上の良くない結果につながることだってあります。
世の中には、美容整形の成功事例ばかりが流通していて、失敗事例に対してはなかなかフォーカスされにくいのが実情です。
多くの美容外科で、少なからずクレームやエラーは起こっているのだと思いますが、渉外課の賢明な活動によりほとんどが闇へと葬られているのでしょう。
もちろん、失敗した医師は反省して「次」への教訓とするのでしょうが、患者さんからしてみたら「次」はないのです。
1度の施術で最高の結果へつなげないといけないですよね。
医学の力で「魅力的」な自分を、金銭的対価でゲットできる良い時代になりました。しかし、運悪く「ありえない」事態が生じてしまう可能性も「0」ではないのです。
「もしかしたら自分の身にも起こるかも…」と考えたうえで、後悔のない選択をしてください。