ロシア軍のUMPK滑空誘導爆弾によるスタンドオフ攻撃と対抗策
ロシア軍が今年4月頃から多用し始めた戦法として、戦闘機からの滑空誘導爆弾の使用があります。ロシア軍が新たに開発した滑空誘導爆弾「UMPK(УМПК)」を戦闘機に搭載し、ウクライナ軍の主要な長距離地対空ミサイルの射程外から攻撃するというスタンドオフ攻撃です。
ロシア軍のUMPKは通常の航空爆弾に後付けで装着する滑空誘導爆弾キットです。アメリカ軍のJDAM-ERと全く同じ発想の兵器になります。詳細は判明していませんが、おそらくGNSS(GPS、グロナス、北斗など)のグロナスによる誘導方式です。
UMPK滑空誘導爆弾の射程は類似品のJDAM-ERやJSOWなどからの推定になりますが、高空(高度7500m)から投下した場合は射程80~100km、低空(高度150m)から投下した場合は射程20km前後になるでしょう。80~100kmならば限定的な条件ですが敵側にこれより長い射程の迎撃ミサイルが無ければ、発射母機が安全圏から攻撃できるスタンドオフ攻撃が実施可能です。また低空投下であっても、レーダーに見付からないように低空突撃から一時的な上昇中に投下するトス爆撃という方法で、敵防空網を掻い潜ることが可能になります。
巡航ミサイルが2000km以上の射程を持つのに比べると滑空誘導爆弾の射程は80~100kmと短いのですが、高価なターボファンジェットエンジンを積んでいないので製造コストが大幅に安くなります。製造コストが安いのはプロペラ推進のプログラム飛行型自爆ドローン(シャヘド136/131)もそうですが、こちらは機体が小さく射程が巡航ミサイル並みに長くても弾頭重量が数十kg程度と少ないので威力に劣ります。
滑空誘導爆弾はGNSS(GPSやグロナス、北斗など)系の誘導兵器の中でも「威力が高く製造コストが安いが射程はさほど長くない」という立ち位置の兵器です。なおUMPKの前身であるMPKは安価なパルスジェットエンジンを搭載して射程100km以上を狙う計画もありましたが。UMPKではまだ確認されていません。
UMPK滑空誘導爆弾はロシア-ウクライナ戦争で500kg航空爆弾FAB-500M62(ФАБ-500М62)に装着されたものが確認されており、ロシア側から使用前の搭載写真の他にウクライナ側から使用後の残骸や不発弾なども発見されていましたが、ごく最近になって実戦使用での滑空飛行する様子の動画もロシア側から公開されています。また他にFAB-250航空爆弾に装着された滑空誘導キットらしき残骸も発見報告されています。
UMPK FAB-500M62 @RobLee
UMPK FAB-500M62 投下の様子 @RobLee
UMPK搭載戦闘機とパトリオットPAC-2の対決
UMPK滑空誘導爆弾の射程80~100kmは、ウクライナ軍の旧ソ連製の長距離地対空ミサイル「S-300P(5V55迎撃ミサイル)」や「S-300V(9M83迎撃ミサイル)」の最大有効射程70~80kmより長いので、射程の差によりUMPK発射母機の撃墜は難しくなります。また投下された滑空誘導爆弾は小さいのでレーダーに捉え難く迎撃は難しい目標です。
そこでウクライナ軍が対抗策として実行したのが「アメリカから供与された射程160km以上のパトリオットPAC-2地対空ミサイルでUMPKの発射母機を撃墜する」という方法です。ロシア軍の戦闘機はロシア領内の上空でUMPKを投下して、ウクライナ領内の目標をスタンドオフ攻撃するという戦法を繰り返していました。これをUMPKより射程の長いパトリオットPAC-2地対空ミサイルで越境長距離射撃を行い、実際に5月13日の戦闘でロシア戦闘機2機の撃墜に成功しています。(同時に撃墜されたヘリコプター数機は戦果としてはオマケに近い)
しかしウクライナ軍のパトリオット防空システムは現在2個高射隊しかなく、1個は首都キーウの防空に張り付けているので片方の1個しか前線付近に投入できません。そこでウクライナ側はF-16戦闘機と射程の長い空対空ミサイル(AMRAAMやミーティアなど)の供与を望んでいます。移動に時間が掛かる地上の防空システムではなく何処にでも短時間で出現できる戦闘機ならば、UMPKで爆撃を行おうとするロシア戦闘機の行動を牽制し抑制しやすいというわけです。ただしロシア側の護衛の戦闘機に空中戦を挑むことになるので、F-16であっても厳しい戦いになるでしょう。
ウクライナ軍のJDAM-ER滑空誘導爆弾 ウクライナ空軍公式Twitter
ウクライナは旧ソ連製の戦闘機を改造してアメリカから供与されたJDAM-ER滑空誘導爆弾を運用、実戦投入が行われています。ただしロシア軍のS-400防空システムの最大有効射程はJDAM-ERの射程を大きく上回っているため、運用には注意が必要となっています。詳細な運用方法は判明していませんが、低空突撃からのトス爆撃を行っているのかもしれません。