NHKアナザーストーリーズ「激写!スクープ戦争」にいろいろなことを考えさせられた
週刊誌市場が活況を呈した1980年代を描いた番組
8月4日夜10時放送のNHKアナザーストーリーズ「激写!スクープ戦争〜写真週刊誌・タブーに挑んだ人々〜」にいろいろなことを考えさせられた。1週間はNHKプラスで配信もしているので観ていない人にはお勧めしたい。私も最後の方に登場してコメントをしている。
実はこの番組は7年前にNHK・BSで放送されたものを今回再編集したものだが、松嶋菜々子さんのナビゲートも新鮮だし、古さを感じさせない作りになっていたのに感心した。
それにも増して懐かしく感じたのは、30年近く前のこの時代の雑誌界の活況ぶりだ。
今は『週刊文春』の孤軍奮闘が目立つ雑誌界だが、当時は『フォーカス』を始め、事件報道でしのぎを削る雑誌がいくつもあった。現在は老人向け実用誌になってしまっている『週刊現代』も、かつてトップ屋と呼ばれた事件記者を抱えて、事件報道に斬り込んでいた。今回の番組には写真週刊誌時代の初期に活躍した名物記者が登場するのだが、その雰囲気がとても懐かしく感じられた。それだけでも観る価値のある番組になっていると思う。
例えば下記の画面にあるように、現在奮闘中の『週刊文春』が平均発行部数46万部なのに対して、80年代の『フォーカス』や『フライデー』は170万部。今となってみれば想像を絶する状況かもしれない。
プライバシーについての社会の受け止め方が転換した
この番組は、1981年の『フォーカス』創刊以来の写真週刊誌戦争を追い、それが1985年頃を境に曲がり角を迎えていった経緯をたどっているのだが、その数年間は、雑誌ジャーナリズム市場が最後の輝きを放った時代だったかもしれない。
私は番組の最後の方に登場し、隆盛を誇った写真週刊誌がなぜ一気に市場を縮小させてしまったかをコメントしている。ただ、今回、番組の尺が短くなったため、私のコメントは半分ほどにカットされた気がする。今回放送された番組では、私は、写真週刊誌を面白がって支持する読者とプライバシー侵害を危惧する読者との関係がちょうど1980年代半ばに逆転したという、市場の概況を語っているのだが、前の番組ではそれに続けてこんなふうに言っていたと思う。
写真週刊誌の勃興期には、カメラマンが突撃してタレントのプライバシーを暴くのを読者は面白がって、もっともっととエールを送っていたのだが、そのうちにプライバシー侵害される側に身を置いて、自分がそんなふうにされたらどうしようかと不安を感じるようになった。80年代にプライバシーや人権に関するいろいろな議論が起き、市民のそれに対する感覚が変わっていったことが写真週刊誌市場を大きく転換させた、といったことだ。
転機となった事件が「ロス疑惑」と「フライデー襲撃」
その契機になったのは1984~5年の三浦和義さんのいわゆる「ロス疑惑」騒動と、1986年のビートたけしさんの『フライデー』襲撃事件だった。たけしさんの事件の時には月刊『創』(つくる)は大きな特集を組んだし、三浦さんについて言えば、1年半もの長きにわたって『創』に獄中手記を連載してもらい、彼が亡くなる前深いつきあいを続けた。世間からバッシングされている側からメディアのあり方を逆照射するという、『創』の当事者手記の基本をつくったのは三浦さんの連載だった。
そんなふうにプライバシー報道についての社会の受け止め方の大きな転換が起きたのが1980年代半ばで、写真週刊誌ブームというのはその象徴だった。1985年をピークに写真週刊誌市場は、たけしさんの事件を機に、翌年には一気に縮小し、5誌のうち2誌が廃刊に至ったのだった。
今回のアナザーストーリーズはちょうどその雑誌界の激変の時期にスポットをあてており、写真週刊誌ブームの中で現場が活況を呈していたその雰囲気が活写されているという意味でもとても興味深いものだった。7年前のBSでの放送の時にも私はもちろん番組を観ていたのだが、その後、この何年かの雑誌界の厳しい状況、『週刊朝日』の廃刊といった出来事を経て改めて観たゆえに、いろいろなことを考えさせられた。
NHKアナザーストーリーズのホームページは下記。そこから配信画面に入れる。