ベスト4進出!ブラジル相手にパスサッカーの真髄を見せたヤングなでしこ(1)
多彩な崩しを見せる日本のサッカーに、10000人近い観客で埋まったスタンドは沸き立った。
サッカー王国ブラジルのお株を奪うテクニックを見せつけ、危なげないゲーム運びで得た、会心の勝利だ。
パプアニューギニアで行われているFIFA U-20女子ワールドカップ準々決勝で、ヤングなでしこがU-20ブラジル代表に3−1と快勝。
U-20日本女子代表は、アウェイの大会で過去最高となるベスト4に進出した。
「ブラジルの強い攻撃、個の強さに、選手たちがよく対応してくれました。いい時間帯に点が入ったのが勝因だと思います。」(高倉監督)
【徹底されたリスクマネージメント】
日本のスターティングメンバーは、GK平尾知佳、DFラインは左から北川ひかる、市瀬菜々、乗松瑠華、宮川麻都。MFは左から長谷川唯、杉田妃和、隅田凜、守屋都弥。籾木結花と上野真実が2トップを組んだ。
ブラジルは4−4−2で、攻撃時には両サイドアタッカーのテクニックとスピードを活かしたサイド攻撃を試みた。それに対し、日本は前線の籾木と上野がしっかりとコースを限定してサイドに追い込み、相手がスピードに乗る前に複数で囲んでボールを奪い切ることを徹底。両サイドバックが押し上げて奪うと、そのままスムーズに攻撃に移行した。
攻撃面では、リスクマネジメントが光った。
攻め急がず、引いたブラジルを誘い出すようにじっくりとパスをつなぎ、攻撃のスイッチを入れるタイミングを慎重に見極めていく。
トップの籾木は前線で相手の厳しいマークにさらされたが、ポジションを下げ、ゲームメーカーとしての存在感を見せた。また、ここぞという場面では両サイドバックの北川と宮川が積極的なオーバーラップを見せ、攻撃にバリエーションを加えた。日本のフォーメーションは万華鏡のように形を変え、中央とサイドを巧みに使い分ける駆け引きで、ブラジルの守備を翻弄した。
試合が動いたのは、前半終了間際。長谷川のスルーパスを受けた籾木がマイナスに折り返すと、ゴール前で上野が相手DF2人を引き連れ、ファーサイドに飛び込んだ守屋が左足で合わせて待望の先制ゴールを決めた。
ハーフタイムには上野に代わって松原が投入されると、その松原がすぐに結果を出す。
後半開始6分。籾木のパスを右サイドのスペースで受けた守屋がゴール前にグラウンダーのクロスを入れ、ファーサイドから松原が飛び込み、2−0とリードを広げた。
テクニックはあるが、直線的な動きが多いブラジルにとって、緩急のある日本のパスワークはストレスになっていた。また、日本はパスをつなぎながらも、受けた選手が必ず前を向いて仕掛けるため、守るコースを限定しきれない。ブラジルの守備は後手に回り、ファウルを重ね、徐々に集中を切らしていった。
68分には、籾木が右サイドのスペースに展開。オーバーラップした宮川のクロスをファーサイドで松原が受けた直後、プレッシャーをかける相手ディフェンダーのタイミングを外し、冷静に狙い澄ましたシュートで3−0と試合を決定づけた。
試合終了間際にはペナルティエリア内でファウルを取られてPKを決められたが、危なげない試合運びで日本が3−1で快勝した。
【輝いた2人のサイドアタッカー】
この試合ではコンディションの良い選手を見極め、大一番に抜擢した指揮官の采配が光った。
3試合ぶりに先発を飾り、先制ゴールを含む2ゴールに絡んだ守屋と、後半から出場して2ゴールを決めた松原の活躍は、あらためて日本の選手層の厚みを感じさせた。
守屋はグループリーグ1試合目のナイジェリア戦ではサイドバックで出場したが、この試合はサイドハーフで出場した。縦への推進力を活かした思い切りの良い攻撃参加で、右サイドを活性化させた。
「サイドバックの一つ前のポジションで、ゴールに絡めることが多くなると感じていました。どんどん相手の裏を狙って、ゴールも貪欲に狙いに行きました。」(守屋)
2ゴールの活躍でこの試合のプレイヤー・オブ・ザ・マッチに輝いた松原志歩は、絶妙なポジショニングと冷静な判断で、日本の攻撃を締めくくった。終盤にはハットトリックの絶好のチャンスもあったが、この場面は狙いすぎてシュートが弱くなり、GKに止められてしまった。
「1試合を通してチームに貢献することが一番の目標ですけれど、途中から出てもやることは変わりません。チームのために必死に走って、結果を残せたら一番いいと思っています。だれが試合に出ても力が落ちないと言われているチームですが、そのことを証明できたんじゃないかと思います。」(松原)
ゴールを決めた選手がベンチにいる控えメンバーの元に走る光景は、ピッチでプレーするイレブンとリザーブメンバーたちの強い絆と一体感を如実に表していた。
まさに、チーム一丸となった勝利である。
準決勝は29日。対戦相手は、本日(25日)、日本時間18:30から行われるドイツ対フランスの勝者になる。
「両チーム(ドイツとフランス)とも、非常にサッカーが洗練されていますし、簡単に勝てる相手ではありませんが、対策を練って臨みたいと思います。」(高倉監督)
相手をリスペクトしながらも、そう話す指揮官の目にはこのチームへの確かな信頼と自信がうかがえた。
昨日、日本対ブラジル戦前に行われた準々決勝のもう一試合は、北朝鮮が延長戦の末にスペインを3−2で下し、ベスト4に進出。白熱した好ゲームで、どちらもチーム力の高さを感じさせた。
ここから先のステージは、技術や戦術面の競い合いと共に、勝利に対する強い気持ちを持ったチームが結果を残すことになる。
頂点まで、あと2つ。ヤングなでしこの戦いは続く。