シリア:軍・ムハーバラートで異例の大規模人事異動、ロシアが介入か?
RT(7月8日付)、ドゥラル・シャーミーヤ(7月8日付)、ノールス研究センター(7月8日付)などは、シリアのバッシャール・アサド大統領が軍とムハーバラート(諜報機関、治安維持警察、武装治安組織の総称)内で異例の大規模人事異動を行ったと一斉に伝えた。
主な異動
主な異動は以下の通り:
- アリー・マムルーク国民安全保障会議議長(少将)が副大統領に内定(安全保障担当に任命される模様)。
- マムルーク国民安全保障会議議長の副大統領就任内定を受けて、総合情報部長を務めてきたディーブ・ザイトゥーン少将が後任の国民安全保障会議議長に任命。
- ジャミール・ハサン空軍情報部長(少将)が解任され、ガッサーン・ジャウダト・イスマーイール少将が後任の空軍情報部長に任命。
- ディーブ・ザイトゥーン総合情報部長(少将)が解任され、政治治安部長を務めてきたフサーム・ルーカー少将が後任の総合情報部長に任命。
- ルーカー少将の異動を受けて、ナースィル・アリー少将が後任の政治治安部長に任命。
- サフワーン・イーサー刑事治安局長(少将)が解任され、ナースィル・ディーブ少将が後任の刑事治安局長に任命。
なお、これに先だって3月には、ムハンマド・マハッラー軍事情報局長の退役を受けて、キファーフ・ムルヒム少将が後任の軍事情報局長に任命されていた(シリア・アラブの春顛末記)。
これにより、シリアのムハーバラートを構成する主要な機関のうち、共和国護衛隊を除くすべてのトップが交代した。
新任されたトップの略歴
新任されたトップの略歴は以下の通り。
国民安全保障会議議長に任命されたザイトゥーン少将は、2012年7月から総合情報部長を務め、ヒムス市ワアル地区(2017年4月にシリア政府支配下に復帰)の包囲戦などを主導してきた。
空軍情報部長に任命されたイスマーイール少将は、タルトゥース県ジュナイナト・ラスラーン村出身で、2018年初めに空軍情報部長補に就任、合わせて少将に昇進していた。
総合情報部長に任命されたルーカー少将は、アレッポ県ハナースィル市近郊の村出身で、2018年11月26日にムハンマド・ハーリド・ラフムーンが内務大臣(ムハンマド・ディーブ・ハミース改造内閣)に就任したのを受けて、政治治安部長に任命されていた。
政治治安部長に任命されたアリー少将は、アレッポ県マンビジュ市近郊の村出身で、政治治安部アレッポ支部長、ダルアー支部長を歴任してきた。
刑事治安局長に任命されたイーサー少将は、ラタキア県カルターハ市に近いアイン・アルース村出身で、政治治安部ハマー支部長、同部長補などを歴任してきた。
ハサン少将にロシアが突きつけた選択肢
レバノンのオンライン新聞『ムドン』(7月8日付)は、この大規模な人事改編に関して、ロシアが大きく介入していたと伝えた。
同サイトによると、ジャミール・ハサン少将は、6月30日にゴラン高原のウンム・ルーカス村で行われたとされる第5軍団司令官、イスラエル軍諜報機関代表らとの秘密会合に先立って、ロシア側から、イスラエルの提案に応じて空軍情報部長の職を1年延長するか、この提案を拒否して辞任するかのいずれかを選択するように求められていた。
イスラエルの提案とは、シリア政府と和解した反体制武装集団を中心に編成されている第5軍団のシリア軍への完全統合、ゴラン高原の兵力引き離し地帯から55キロ以内の地域からの「イランの民兵」(ヒズブッラーなど)の撤退、撤退に反対する「イランの民兵」に対するイスラエル軍の軍事作戦の黙認を骨子としていた。
ハサン少将はこうしたイスラエルの提案を拒否し、そのことが今回の解任につながったという。
ザイトゥーン少将への論功行賞
また、『ムドン』によると、ザイトゥーン少将、ルーカー少将の異動もロシア側の思惑に沿うところが大きいという。
とりわけ、ザイトゥーン少将がシリアの諜報機関のトップである国民安全保障会議議長に就任したことは、過去2年にわたり総合情報部長とロシア側の関係強化に務めたことへの論功行賞としての意味合いが強いという。
しかし、ルーカー少将、アリー少将、イスマーイール少将の3人は、シリア国内でのイランのプレゼンス維持を支持する姿勢をとり、イラン・イスラーム革命防衛隊、ヒズブッラーなどと高度な連携を行っており、またいずれもアラウィー派宗徒だという。
ロシアは、シリアの軍・諜報機関を主導する能力を有する人材を確保する必要から、より抜本的な人事改変を踏みとどまり、3名の昇進を認めたが、ロシアの同意なしにはこうした昇進が不可能で、状況によっては彼らの解任・粛清、あるいはイランとの連携解消を求めることができるということを認識させようとしたという。