【獣医師が解説】ペットと「キス」で命の危険が。動物からの感染症を防ぐために
帰宅して、留守番をしていたイヌやネコに体を舐められると嬉しくなる飼い主も多いですね。実は、イヌやネコの「キス」などの行為が飼い主の命にかかることがあるのです。
イヌやネコに舐められたり、まれに噛まれたりする獣医師の立場から、イヌやネコと接し方のポイントを紹介します。
ペットの「キス」に潜む危険な感染症 犬や猫がもつ細菌により死亡した人も【科学で明かす身近な謎】に、背筋が寒くなるようなことが載っています。
オーストラリアで病院に運びこまれた当時、ジュリー・マッケナさんは、ろくに口もきけない状態だったそうです。両腕と両脚は冷えて斑点が出ており、顔は紫色がかっていたことから、医師たちは、ジュリーさんの状態を敗血症性ショックと判断しました。
彼女の血液の中にカプノサイトファーガ・カニモルサス(Capnocytophaga canimorsus)という細菌がありました。それはイヌやネコの口の中にある細菌だったのです。
この病気の原因は、ジュリーさんが左足の甲を火傷したときに、愛犬が傷口を舐めたためでした。ジュリーさんは、一命は取り留めましたが、左足の膝下、右足の一部、手足の指をすべて切断せざるを得なかったそうです。
この記事を読んで、これは特別なことで「うちの子は大丈夫」と飼い主は思っているかもしれません。しかし、どこで起きてもおかしくないのです。
イヌやネコの口の細菌叢(さいきんそう)
腸内細菌叢いわゆる腸内フローラという言葉は知っていると思いますが、口の中にも細菌叢があります。それは、ヒト、イヌ、ネコによって異なっています。
つまり、イヌやネコに舐められる、キスをするということは、ヒトは細菌をもらうことになるのです。
厚生労働省によりますと、ジュリーさんを襲ったカプノサイトファーガ・カニモルサスという細菌は日本国内のイヌの74~82%、ネコの57~64%が保菌しているといわれています。
(「全てのイヌやネコが保菌していると考えた方が良い」と厚労省は注意喚起しています。)
動物から人にうつる病気はズーノーシス(Zoonosis)といわれています。他には、人獣共通感染症、動物由来感染症と呼ばれることもあります。
WHOでは「脊髄動物と人の間を自然な条件下で伝播する微生物による病気または感染症(動物等では病気にならない場合もある)」と定義しています。簡単にいうと、動物から人にうつる病気です。
ズーノーシスの原因は、WHOが確認しているだけで、200種類以上あるといわれています。これには、生物テロで使われる炭疽菌やペスト菌なども含まれています。
そのズーノーシスのひとつである「カプノサイトファーガ感染症」は、以下のようなものです。
「カプノサイトファーガ感染症」
(症状)
イヌやネコの口腔内に常在している3種の細菌、C. canimorsus、C. canis、C. cynodegmiが原因です
発熱、倦怠感、腹痛、吐き気、頭痛などで始まり、ひどくなると、敗血症を起こし、死に至ることもあります。日本での報告は少ないです。
感染経路:イヌ、ネコ
上記以外にもペットに咬まれて感染する病気としてはパスツレラ菌、鼠咬症があります。引っ掻き傷から侵入する病原体として、猫ひっかき病の原因菌などがあります。
以前、ペットに噛まれて腫れても放置、命の危険に 動物からの感染症を獣医師が解説という記事を書いていますので、そちらも読んでみてください。
どんなときに舐められると命の危険?
いままでイヌやネコに舐められても何もなかったので、危険を煽っているのでは、と思うかもしれません。イヌやネコには、ヒトとは違う細菌が口の中にいます。以下のときは、特に注意しましょう。
・火傷、噛まれた、アトピー性皮膚炎などで掻いたために、皮膚が傷ついている
・口移しで食べ物をイヌやネコに与える
・免疫力が落ちている
・基礎疾患がある
イヌやネコに噛まれたらどうすればいいの?
筆者は、イヌやネコに噛まれることが一般の人より多くあります。
1、水道水を流しながら、傷口をよく洗う
たとえ、診察の途中でも一旦、中断して洗面所で、洗い流します。丁寧にじっくりと。
2、傷の周りを押し出すように、洗う
傷口の辺りの病原体を押し出すようにしています。
3、決して、貯めた水で洗わない
洗面器に貯めた水で洗うと、そこに病原体が残ることになるので、流水にすることが大切です。
4、もし、近くに水道水がない場合は、ペットボトルのミネラルウォーターでもいいので、かけながら、洗う
5、患部から血が止まらない場合は、洗い流した後に圧迫止血する。
飼い主が、ネコを保定しているときに、手を噛まれて、圧迫止血をしていても止まらず、救急車を呼んだこともあります。救急隊員が、5分以上患部を押してくださり、事なきを得ました。血が止まらないときは、ひたすら押すことが大切です。
イヌやネコの歯磨きはどうする?
イヌやネコの歯磨きをしている飼い主も多くいます。イヌに傷口を舐められただけで、命にかかわることがあると知って、イヌやネコの歯磨きをするのが怖くなった人もいることでしょう。
・使い捨ての手袋をして、イヌやネコの歯磨きをしましょう。
・歯ブラシは、できれば1カ月に1回は買い替えましょう。
・イヌやネコの歯磨きが終わるとしっかり手洗いをしましょう。
上記のようにして、イヌやネコの歯磨きをしてあげましょう。
イヌやネコとのつきあい方
いまやイヌやネコを室内で飼う人が増えています。
イヌやネコと近くにいると、和みますしリラックスします。それで、ついつい距離が近くなりますね。
しかし、イヌやネコから病気が感染するとよくないので、以下のことに注意しましょう。
・イヌやネコとキスはしない
・イヌやネコに口移しでものをあげない
・一緒に寝るのはやめる
・イヌやネコを触った後は、よく手洗いをする
・食事をする前は、手洗いをする
このような基本なことに注意して、飼い主の健康を守りましょう。イヌやネコと距離を保って飼うことは大切ですね。