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ペットに噛まれて腫れても放置、命の危険に 動物からの感染症を獣医師が解説

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
(写真:アフロ)

猫や犬と一緒に暮らしていると彼らの機嫌を損ねて、噛まれることがあります。「朝、起きたら、猫に噛まれたところが腫れている」「ひっかかれたところが、熱っぽい」という経験を持っている人も多いです。愛犬、愛猫が噛んだ傷なので、大丈夫だと思っていませんか。

放置しておくと命の危険にさらされることもあります。今回は、犬や猫などの動物に噛まれたときの対処の話をします。実際に、噛傷が非常に多い筆者が、ポイントをお伝えします。

「フェレットにかまれ感染症で死亡の警官 公務災害と認定 大分県警」という事件がありました。最悪の事態になり、警察官のご冥福をお祈りします。

この警察官は、フェレットを捕獲しようとした際に手を噛まれて3カ月後に感染症を発症して、16年半の間、入退院を繰り返し死亡しています。動物による噛傷は、侮れないのです。

動物から人にうつる病気のことをズーノーシスといいます。

ズーノーシス(Zoonosis)

ズーノーシスとは、人獣共通感染症、動物由来感染症と呼ばれることもあります。WHOでは「脊髄動物と人の間を自然な条件下で伝播する微生物による病気または感染症(動物等では病気にならない場合もある)」と定義しています。簡単にいうと、動物から人にうつる病気です。

ズーノーシスの原因は、WHOが確認しているだけで、200種類以上あるといわれています。これには、生物テロで使われる炭疽菌やペスト菌なども含まれています。

ズーノーシスの伝播(でんぱ)

伝播とは、広がり伝わることです。その方法は、直接伝播と間接伝播があります。

直接伝播:噛まれる、ひっかかれる、触れる(糞尿、飛沫、その他)などにより動物から直接感染します。

間接伝播:節足動物(ダニ、ノミ、蚊、ハエなど)媒介、動物から出た病気が環境(土、水など)媒介、動物性食品(畜産物が病原体に汚染されている)媒介など、間接的に人にうつることです。

今回はその中でも、日本によくある直接伝播の中の「噛まれる」「ひっかかれる」ことで動物から人にうつる病気を主に紹介します。

猫ひっかき病

(症状)

猫に噛まれたり、ひっかかれたりして発症する病気です。病原体を持っている犬やノミから感染することもあります。バルトネラ菌(Bartonella henselae)が原因です。

受傷した部分が赤く腫れたり、化膿したりします。発熱、痛みがあり、ひどい場合は、腋窩のリンパ節まで腫れます。稀に脳炎になり意識障害を起こします。

感染経路:犬、猫、保有菌を持っている猫を吸血鬼したノミから感染することも。

パスツレラ症

(症状)

犬の約75%、猫のほぼ100%が口腔内常在菌としてパスツレラ菌を持っています。

パスツレラ菌の種類は現在、P.multocida、P.canis、P.dagmatis、P.stomatis の4種類が犬や猫が保菌しています。

主な症状は、皮膚の化膿です。最新の調査では、呼吸器系の疾患、骨髄炎や外耳炎などの局所感染症、敗血症や髄膜炎など全身重症感染症もあり、ひどい場合は、死亡に至った例も確認されています。

感染経路:犬、猫

カプノサイトファーガ感染症

(症状)

犬や猫の口腔内に常在している3種の細菌、C. canimorsus、C. canis、C. cynodegmiが原因です。

発熱、倦怠感、腹痛、吐き気、頭痛などで始まり、ひどくなると、敗血症を起こし、死に至ることもあります。日本での報告は少ないです。

感染経路:犬、猫

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)

(症状)

ブニヤウイルス科フレボウイルス属の重症熱性血小板減少症候群(Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome : SFTS)ウイルスによって感染。

人の症状は、発熱、消化器症状が主なもの。名前の通り血小板が減少する。

感染経路:主にSFTSウイルスを保有するマダニから。いまの時点では、SFTSウイルスに感染した猫や犬に噛まれたり、その血に接触したことで感染することも否定できません(新しい疾患なので、まだ詳細は不明な部分が多い)。

鼠咬症(そこうしょう) ストレプトバチル感染症

(症状)

日本では多くありません。人の症状は、悪寒、発熱、患部の腫れがあり、関節炎を起こして、まれに敗血症になることもあります。

感染経路:ドブネズミ、クマネズミ

噛まれたらどうするか?

私は、仕事柄、猫によく噛まれます。そのときは、以下のことに気をつけています。

1、水道水を流しながら、傷口をよく洗う。

たとえ、診察の途中でも一旦、中断して洗面所で、洗い流します。丁寧にじっくりと。

2、傷の周りを押し出すように、洗う。

傷口の辺りの病原体を押し出すようにしています。

3、決して、貯めた水で洗わない。

洗面器に貯めた水で洗うと、そこに病原体が残ることになるので、流水にすることが大切です。

4、もし、近くに水道水がない場合は、ペットボトルのミネラルウォーターでもいいので、かけながら、洗う。

5、患部から血が止まらない場合は、洗い流した後に圧迫止血する。

飼い主が、猫を保定しているときに、手を噛まれて、圧迫止血をしていても止まらず、救急車を呼んだこともあります。救急隊員が、5分以上患部を押してくださり、事なきを得ました。血が止まらないときは、ひたすら押すことが大切です。

NGな行為

1、痛いからといって、よく洗わない。

2、絆創膏を貼りっぱなしにしておく(不衛生になる)。

体調に不調を感じたら、早めに受診を

患部が「赤く腫れてきた」「熱っぽい」「かたくなっている」などの異変を感じたり、体がだるいなどの不調を感じたら早めに医療機関にかかりましょう。

・噛傷の場合は外科を受診する。

・どんな動物に噛まれたか伝えましょう。

子ども、お年寄り、糖尿病などの慢性疾患を持っている人は、病気が悪化しやすいので、早めに受診しくださいね。

日本にある他のズーノーシス

ブルセラ症

ブルセラを保菌した犬のお産を手伝ったあとに、発熱、悪寒、倦怠感を感じる。

感染経路:死産の犬やその胎盤、精子ともに排泄される。

トキソプラズマ症

トキソプラズマに感染した猫の糞便や生の豚肉から感染します。妊娠の初期感染は胎児にも感染して、流産、先天性トキソプラズマ症なる可能性もあります。

感染経路:トキソプラズマ症を持っている猫の糞便が口に入る、またはトキソプラズマに汚染された豚肉を食べるなど。

サルモネラ症

食中毒菌として有名ですが、犬では約20%、ミドリガメでは約60%が保菌しているといわれています。人では胃腸疾患。

感染経路:汚染食品、後は爬虫類などの接触感染

レプトスピラ症

人は、軽症だと風邪症状、重症になると黄疸や出血、腎障害。

感染経路:レプトスピラを保菌した犬やネズミの尿とともに菌が排泄され、水や土を介して皮膚を通して感染。

オウム病

人は、高熱、咳、頭痛、倦怠感、筋肉・関節痛など、インフルエンザに似た症状。

感染経路:オウム病の原因となるクラミジアに感染した鳥の排泄物を吸引したり、口移しでエサを与えたときに感染。

エキノコックス症

北海道を中心に問題になっています。人は主にキタキツネの便中の虫卵を口にすることで感染します。10年以上かけてゆっくり肝機能障害。

感染経路:キタキツネのウンチが主な感染源。北海道で放し飼いの犬もエキノコックスを持っている場合は、キタキツネと同様。

E型肝炎

急な発熱、倦怠感、嘔吐、数日して黄疸を示して、ひどい場合は劇症肝炎になります。

感染経路:ブタ、イノシシ、シカなどがE型肝炎ウイルスを保有していることがあり、肉やレバーを十分に加熱していないで食べて感染する。近年のジビエブームで感染者は増えています。

ズーノーシスの予防

・濃厚な接触は控えましょう。

動物に舐めさせない、キスをしたり、食べ物を口移しで与えない。一緒の布団で寝ない。一緒に入浴しない。

・石鹸で手洗いをよくしましょう。

動物と触れ合った後、食事をするとき、料理をするときは、石鹸でよく手を洗いましょう。

・環境を衛生的に。

動物の排泄物は、早めに処理しましょう。ノミなどが付かないように、予防薬も忘れずに。

・ワクチンにより防げるズーノーシスもあります。

適切なワクチン接種を行いましょう。

まとめ

動物から人にうつる感染症があることをあなたのためにも、そして動物のためにも知っておくことは大切です。医学は進歩していますが、野生動物のズーノーシスは、まだよくわかっていないこともあります。しかし、だからといって動物が全て悪いわけではないのです。ズーノーシスを正しく理解して適切に対応していけば、防げます。

正しい情報は、何よりの薬になりますから。私たち獣医師は、一般的な人よりも動物に噛まれたり、ひっかかれたりして生傷が絶えませんが、今日も元気にしていられるのは、適切な処置と知識のおかげなのです。

犬や猫は、家族の一員なので、さらに彼らとの関係が密になっていくことでしょう。そんな時代であるので、医学と獣医学が協力して、動物からうつる病気を治す取り組みの強化が必要なのでしょうね。愛する動物たちと健やかな関係を続けたいものです。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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