【2022.2/20】新型コロナウイルスワクチンによる不妊・妊娠・授乳への影響は? 最新情報まとめ
新型コロナウイルスのワクチン接種が世界中で進んでいます
世界中でウイルスの変異による感染拡大も増えてきていますが、重要な対処法としてワクチンの接種が世界中で進んでいます。
2022年2月17日時点で、ワクチンの接種回数は、世界233カ国・地域で累計104億回を超え、追加(ブースター)接種した人の割合が50%を超えた国は22カ国となっています。(文献1)
日本だけでも2022年2月17日時点で累計接種回数は2億1700万回を超え、総人口の79%が2回の接種を完了しています。ブースター接種を完了した人も徐々に増加しており、総人口の12.6%(約1600万人)となっています。(文献2)
妊産婦の感染事例が増加しています
国内外で、妊産婦の感染報告が増加しています。
また、その多くはワクチン未接種者であることがわかってきています。
日本でも妊婦の感染者は増加しており、2022年1月の感染者は1141人と過去最多だったことが報道されています。
2022年1月24日に更新された米国CDC(疾病予防管理センター)のウェブサイトでは、妊娠中または妊娠が最近分かった女性に向けて、以下のような情報提供をしています。(文献3)
・全体的なリスクは低いものの、妊娠している人や最近妊娠した人は、妊娠していない人に比べてCOVID-19による重症化のリスクが高くなります。
・妊娠中にCOVID-19を発症した場合、早産(37週未満での出産)や死産のリスクが高くなり、その他の妊娠合併症のリスクも高くなる可能性があります。
・基礎疾患や年齢などのリスク因子の影響により、妊娠中または出産後の時期(出産後42日間以内など)に重篤なCOVID-19を発症するリスクがさらに高まります。
実際に、最新の研究報告(米国の17病院、約14000人の出産 [うち感染者2352人])では以下のようなことがわかっています。(文献4)
・妊婦の死亡や重症化のリスクはコロナ感染で約1.4倍へ増加
・特に重症感染者に限ると死亡や重症化のリスクは約2倍へ増加
・妊産婦死亡となった5人はすべて感染者だった
また、英国から2021年7月末に出された調査報告では、妊娠中のコロナウイルス感染で入院した妊婦(約150名)のうち、
・ワクチンを2回接種済みの妊婦はゼロ
・1回接種後の妊婦が3名のみ(2%)
・98%は未接種者
だったことが示されています。(文献5,6)
コロナウイルス感染で入院した妊婦のうち、ワクチンを2回接種済みの妊婦はゼロだったことから、mRNAワクチンは妊婦に対しても高い発症・重症化予防効果があることがわかります。
ワクチンによる現在・将来の妊娠への影響は?
ワクチンの有効性と安全性を検証したワクチン開発時の臨床試験には、基本的に妊娠している人が含まれていませんでしたので、「妊婦への影響」に関する厳密なデータは得られていません(通常、倫理的配慮からこのようにして臨床試験は実施されることがほとんどです)。
また、「将来の妊娠への影響」に関しても、接種して数年から十数年経過しなければ厳密なデータはわからないと言えるでしょう。
しかし、今現在でも妊娠している人や、すぐに妊娠を希望している人、将来は妊娠したいと思っている人などが世界中に存在します。
このため、現状で得られる情報を総合的に考慮し、なるべく客観的にメリットとデメリットを踏まえて接種するかどうかの判断をすることが必要になります。
(1) 米国CDCや医学論文の最新の見解
2022年1月28日に更新された米国CDCのウェブサイトでは、明確に妊娠中や授乳中の女性へのコロナワクチン接種を強く推奨しており、以下の見解が示されています。(文献7)
最近の更新で、妊婦に対するブースターショットが「受けられます」から「受けるべきです」に変更されました。
・コロナワクチンを接種することで、COVID-19による重症化からあなたを守ることができます。
・コロナワクチンの接種は、妊娠中、授乳中、現在妊娠しようとしている人、または将来妊娠する可能性がある人すべてに推奨されます。
・妊娠中の人は、コロナワクチンのブースターショットを受けるべきです。
・妊娠中のコロナワクチン接種の安全性と有効性に関するエビデンスが蓄積されており、ワクチン接種によるメリットが、ワクチン接種に伴うリスクを上回ることが示されてきています。
・現在のところ、コロナワクチンを含むいかなるワクチンも、男女ともに不妊症を引き起こすという科学的根拠はありません。
なお、米国CDCでは、2022年2月14日時点で、コロナワクチン接種時に妊娠していた20万人以上の女性が登録されており、その副反応や妊娠関連合併症などを分析しています。
出産後までの経過を追うレジストリにも16000人以上の妊婦が含まれています(最近さらに登録者が増加しました)。
その上で、妊婦への接種が推奨されているのです。(文献8)
また、CDCの研究報告から、妊娠中のワクチン接種によって流産、胎児死亡、先天異常などの発生頻度は増えていないことがわかっています。
最近では、The New England Journal of MedicineやJAMA Pediatricsという国際医学雑誌に掲載された研究報告でも、製造メーカーにかかわらず、コロナワクチン接種と妊娠初期の流産、早産、低出生体重児、形態異常、新生児入院、新生児死亡の発生率に関連性は認められなかったことが示されています。(文献9,10)
ニュースやSNS等で「ワクチン接種した後に流産したという報告がたくさんある!」とするコメントが見受けられますが、一般的に自然流産となってしまう頻度は15%程度あり、自然流産の原因のほぼ全てが「女性の生活や行動に原因はなく、染色体レベルの偶然のもの」です。
仮に100万人の妊婦さんが初期に接種すると、その後にワクチンと関係なく10-15万人に流産は起こり得る、ということになります。
また、新生児の形態異常は5%前後に認められますので、こちらも解釈に注意が必要です。
誤情報に惑わされないようご注意ください。
なお、妊婦へのブースターショットに関してはこちらの記事もご参照ください。
【2022.1/16版】妊産婦への新型コロナワクチンのブースター(3回目)接種 国内外の最新情報
(2) 日本の厚生労働省や関連学会からの最新の見解
日本でも、妊産婦さんへの新型コロナウイルスワクチン(mRNAワクチン)について、厚生労働省から「私は妊娠中・授乳中・妊娠を計画中ですが、ワクチンを接種することができますか。」という疑問に対して公式なQ&Aが出されています。
また、三学会(日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会、日本産婦人科感染症学会)から合同で一般の方向けに通知が出されています。(最終更新は2021年7月19日)
「女性のみなさまへ 新型コロナウイルスワクチン(mRNAワクチン) Q & A」
多くの疑問・不安に対してわかりやすい回答を示してくれています。
ぜひご覧になってみてください。
(3) 日本のコロナ感染妊婦の現状
また、「国内でのCOVID-19妊婦の現状 ~妊婦レジストリの解析結果」(2021年10月31日迄の登録症例)が2022年2月16日に公開されました。
この報告では、分析対象となった346人の感染妊婦のうち、31%が「呼吸困難を示す中等症Ⅰ」以上でした。
また、感染した妊婦の5人に1人は早産となっており、特に中等症Ⅱまたは重症の妊婦では早産率が54%と非常に高い結果でした(医学適応による人工早産を含む)。無症状または非常に軽症の方はこのデータベースに含まれていない可能性もあり、実際の早産率はこれより低い可能性もありますが、いずれにせよ特に妊娠後期以降の感染では早産リスクに注意が必要でしょう。
感染してしまうと母子ともに大きな影響を受けてしまう可能性が高まりますので、やはり感染予防が重要だと言えるでしょう。
大事なこととして、妊娠中の接種をするか判断する際には、「妊婦は感染した場合の重症化・死亡リスクや、早産となるリスクが高まる」「使用できる治療薬に制限があり選択肢が少ない」といったことを踏まえ、「接種しないことのリスク」も併せて考えるべきだろうと思います。
ワクチンによる授乳への影響は?
米国CDCや日本の専門学会等は、以下のように述べています。
・コロナワクチンは、母乳育児をしている人の感染予防にも有効です。
・授乳中の赤ちゃんへの悪影響を懸念する心配はありません。
・接種後に授乳を止める必要はありません。
・最近の報告では、ワクチンを接種した授乳中の人は母乳中に抗体が含まれ、赤ちゃんを守るのに役立つ可能性があります。
授乳中でも安心して接種をご検討ください。
小さな赤ちゃんを母乳で守れる可能性があることも、心強いですね。
日本でも妊婦はワクチン接種の「努力義務」対象に
最近では、2022年2月10日に開かれた厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会で、新型コロナワクチン接種の「努力義務」が妊娠中の方にも適用されることになりました。有効性・安全性に関する知見が蓄積された結果となります。
また、妊娠中にコロナワクチン(mRNAワクチン)を接種していた場合、生後6ヶ月未満の赤ちゃんがコロナ感染症で入院するリスクが大幅に減っていたという研究結果がCDCから報告されました。小さな赤ちゃんを感染から守るための非常に有効な手段と言えます。
ただし、赤ちゃんへの免疫付与を優先して妊娠中のワクチン接種を遅らせるよりは、打てる時に早く打つことの方がメリットが大きいと考えられます。
各国で様々な工夫を重ね、妊婦を含む女性への積極的な情報提供がされており、そのどれもが科学的根拠に基づきほぼ共通の内容となってきています。
世界中のデータの蓄積によって、妊婦や授乳婦を含む女性へのコロナワクチン接種の有効性と安全性がわかってきています。
ぜひ、本記事や公的機関の情報を参考に、コロナワクチンの接種(ブースター接種を含めて)をご検討ください。
*本記事の内容は2022年2月20日時点で得られた情報に基づいています。日々更新される可能性があるため、なるべく下記リンク等から最新情報をご参照ください。
参考文献:
1. 日本経済新聞.
2. 日本経済新聞.
3. CDC. Pregnant and Recently Pregnant People. At Increased Risk for Severe Illness from COVID-19.
5. Bloomberg. Pregnant, Unvaccinated and Intubated: Case Surge Alarms Doctors.
6. NHS. Chief midwife urges pregnant women to get NHS COVID jab.
7. CDC. COVID-19 Vaccines While Pregnant or Breastfeeding.
8. CDC. V-safe and Registry Monitoring People Who Report Pregnancy.
9. N Engl J Med 2021; 385:2008-2010
10. JAMA Pediatr. 2022 Feb 10.