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~私達のふるさとが消える~

穂坂邦夫NPO法人地方自立政策研究所・財団法人日本自治創造学会理事長

自治体(市町村)は市民がつくったことを忘れてはいけない-1「消えるかも知れない北海道夕張市」

地方創生が大きな課題となっているが、あたかも国が主役で地方が追随しているように見える。本末転倒の見本で、国という指導者が考えれば全て解決するという自惚れは危険な錯覚である。

地方の再生・創生策は大きく2つに分かれる。人口の減少が加速する過疎的な市町村(基礎的自治体)と人口減少は少ないが2025年に向って後期高齢者が激増する都市部における市町村である。今回は最悪の事例である「北海道夕張市」を代表事例に取り上げ、再生策を考えたい。

御承知のように北海道夕張市は10年前の2006年に破綻したが、当時の借入残高が349億、15年度の借入残高は259億(15年度末の見込み)で10年間で90億円を返済している。しかも高い利息を払い続けている。一見すると成功のようだが、私から見ると、当事者には悪いが“大失敗”と言わざるを得ない。最大の理由は膨大な人口の減少である。

破綻した10年前には13,189人から2016年1月には9,031人となり4,158人大幅に人口が減ってしまった。32%という途方もない減少率である。しかもこの人口減少は出生率の低下によってもたらされたものではなく、地域から人口が流出したことが大きな要因となっている。税収も大幅に減少している。再生失敗の見事なまでの結果である。私は「役所が残って住民が消える危険性がある」と10年前に予告したが不幸なことに見事に的中してしまった。何故だろうか。

最大の原因は従来の行政運営スタイルを踏襲したまま、巨額の借金を返済しているため、教育などの自主的公的サービスは何も出来ない。住民は居住に必要な必要最小限度のサービスだけに甘んじなければならない。しかもその公共サービスの負担は著しく重い。これでは将来のある若い住民は残るに残れない状態になる。高齢者だけが残り、福祉費の比率が増大する。特に教育サービスが減少すると子供の将来を考える保護者は、ふる里を離れたくない気持ちがあっても、働く場所もある大都市・札幌に移り住むことになる。

どうすればよいのか。特効薬はあるのか。ある、ある!

第1は従来の行政運営システムを抜本的に改める。例えば役所を中心とした21世紀型村落協同体への転換である。私は志木市長の時、「現在の役所の仕事は75%が市民化(外部化)できる」との結論を職員に出してもらい、人口の減少が到来する20年後を目標とした「地方自立計画」を立案した。

夕張市の人件費は約11億円(H27年度予算)で前年より15.2%も増加している。物件費、維持修繕、建設事業費の合計は21億円、人件費を合わせると32億円の再生原資がある。この原資を市民全体の事業費とする。自治体丸ごとの市民化である。

第2は返済期間の延長と6億円近い借入金利息の減額である。国がいくら返済を急いでも夕張市が消えてしまっては何にもならない。さらに公的資金の利息は高すぎる。現在の利率はマイナス金利であり、国と交渉して現在の妥当な利率に変える。

第3は子供の将来に対する新たな投資である。教育サービスや保育などは大幅に引き上げる。大都市から環境のよい夕張市への流入を図るなど、積極的な方策が重要である。このままではジリ貧となり、役所が残って市民が消えることが現実化する。

自治体は「弱者と強者の共生」を哲学とした「非営利独占的サービス事業体」である。議会も市民総会に変え、住民には「市民委員会」を設置して参加をしてもらう。傾いた事業体を再生するためには、従来のシステム・手法を大転換しなければならない。市民が施策決定を含め、市役所の運営や様々な事業にも全て参加するシステムを構築する。市長はシティマネージャーに徹することだ。

新たな「21世紀型村落協同体」を夕張市に誕生させることが再生と創生に向けての唯一の方策ではないだろうか。自治体は市民がつくったことを忘れてはならない。

(以下次号)

NPO法人地方自立政策研究所・財団法人日本自治創造学会理事長

埼玉大学経済短期大学部卒業。埼玉県職員、足立町(現志木市)職員を経て、志木市議会議員、議長、埼玉県議会議員、議長を歴任。2001年、志木市長に就任。2005年6月任期満了にともない退任。2005年7月、NPO法人地方自立政策研究所理事長。2010年4月より一般財団法人日本自治創造学会理事長に就任。著書に『教育委員会廃止論』(弘文堂)、『地方自立 自立へのシナリオ』〔監修〕(東洋経済新報社)、『自治体再生への挑戦~「健全化」への処方箋~』(ぎょうせい)、『シティマネージャー制度論~市町村長を廃止する~』(埼玉新聞社)、『Xノートを追え!中央集権システムを解体せよ』(朝日新聞出版)などがある。

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