ふるさと納税を考える~地方公務員への提言30(その6)
・ふるさと納税の仕組みと現状
ふるさと納税における2021年度の寄付金は過去最高の8,302億円となり、経費(返礼品、送料、仲介サイトへの手数料など)は46%の3,851億円となっています。この制度は今から15年前、過疎などにより税収が減少している地方地域と都市部の地域間格差を是正することを目的に、地方税法を改正して寄付者が税の控除を受けられると共に、国民が好きな自治体を選んで寄付出来る制度としてつくられました。特に自治体に対する寄付金の使い道も寄付者が自由に選択でき、教育や子育て、まちづくり、産業の振興や災害支援などを特定することが最大の目的でした。しかし当初の目的とは裏腹に、各自治体間における政策立案競争から返礼品での競争に変化したため、国が返礼品は寄付金の30%、必要経費を寄付金の50%以下と制限しましたが、寄付額に対する経費の高止まりと周知するために仲介サイトが活用されていることなどから、有識者やマスコミから様々な批判が強くなっています。本来の目的である都市部との税収格差やふるさとの政策を住民自身が判断する新たな視点を活用する目的から、大きく逸脱しているとの指摘です。しかも税の恩恵がセットになっていることもあり、真っ向からこの制度の廃止を主張するマスコミも出ています。いわば税金で特産物を求め、他人の財布からはお金を奪うことで、自治体自身が疲弊してしまいかねず、さらに都市部から地方への再分配の仕組みは別に存在し、何の意義もないという主張を繰り広げています。
しかし横浜市、名古屋市、大阪市、世田谷区、港区など税収が豊かな都市部から税収の少ない北海道の地方都市などに税が移譲されていることも事実です。さらに地方独自の名産品が見直され、地域の活性化に貢献しています。
・ふるさと納税における地方の声
この制度を活用する地方自治体についてマスコミによるアンケート調査では、制度の継続を91%が望んでいます。廃止の希望はわずか9%です。この内訳は91%のうち現状のままが55%、見直した上での継続が36%です。税収を期待出来ない地域の財源確保や災害復興に使うことの出来るこの制度は、部分的な改善は必要とするものの、職員の政策発想力や意欲の向上につながることから存続が望ましいという意見が大多数でした。一部のマスコミによる全て廃止すべきという意見とは大きく異なっています。人口が多く税収が豊かな自治体は見直しや廃止が多く、人口が少なく税収も少ない自治体は現状のままが62%、一部の修正が33%、廃止とするのは、わずか6%となっています。
・自治体職員の力を発揮する
このように、ふるさと納税については大都市と地方で賛否が分かれていますが、制度の本質は住民にとって、驚くような効率性の高い住民サービスを基本として、各自治体が政策的に競い合うことが求められています。現在は返礼品が主役となってしまったため様々な批判が起こっていますが、これを乗り越える知恵が自治体職員に求められています。大都市にも様々な住民のニーズがあるはずです。
私は市長時代に職員に対し、民間でも多用している‶PDCAサイクル方式〟の活用で行政課題(住民のニーズに応える)の解決を図るように指導してきました。さらに住民のためになる施策であり、‶我が市の地域環境に合致した、施策事例を国の内外を問わず取寄せること〟を職員にお願いし、それらの選択をすると共に選ばれた施策を検討し、長所は残し、欠点は是正して新たな施策の立案を図るよう重ねて職員に求めました。全国に大きな衝撃を与えた全国初の「25人程度学級」や「ホームスタディ制度」、「地方自立計画」はフィンランドや欧米から、さらには日本初の「自然再生条例」はカナダの施策を参考にして条例化しました。100の自然を壊したならば、同様に100を自然に戻すといった極めて単純な発想からなる施策です。私学への対応といじめの根絶、90%以上が市街地区域では、自然をいかに守るかということが住民にとって切実な願いであったからです。ゼロからの施策づくりは大変です。地域課題の解決や高度な住民自治を推進するためにはゼロからの発想も大切ですが、国内だけでなく、海外も含めて自治体の環境に合致した「参考事例」に改善を加えて「住民にとって世界一の施策」を立案することが重要だと思っています。
この「ふるさと納税制度」の真の願いもそこにあるのではないでしょうか。日本一の施策をつくり、返礼品に頼らない新しい施策への挑戦が地方公務員に強く求められています。
―次回は「統一地方選挙と職員」―