「おむすび」構成の妙 ギャルになる歩の決意と第1話冒頭の結(橋本環奈)の迷いを重ねる
おむすび冷たい発言が結の人格形成に繋がっている
今後も、そういうことだったのかと、登場人物の言動が紐解かれていく
朝ドラこと連続テレビ小説「おむすび」(NHK)第5週は「視点を大事にした」と演出の松木健祐さんは言った。
「震災から9年後の結の視点で描きました。また、結だけではなく、歩(仲里依紗)の視点やお母さん(麻生久美子)の視点、お父さん(北村有起哉)の視点、おじいちゃん(松平健)の視点と、家族それぞれが、同じ震災だけども違う視点でこの時間を生きてきたということを描いています」
結の回想が、歩の回想に繋がったり、同じ出来事を愛子(麻生久美子)や聖人(北村有起哉)が回想したり。さりげなく凝った構成になっている。
それぞれの視点が重なり合う瞬間として印象的だったのが第24回。
震災で仲良しの真紀ちゃんを亡くしてからすっかり塞いでいた歩が、高校生として初登校するときに、金髪にして制服を着崩しガラリとイメチェンして食卓に現れる。家族はびっくりするが、それは歩なりの、現実に踏み出す覚悟であったのだ。そのとき思い浮かんだのが、第1回の冒頭である。
高校第1日目に結が制服に着替えながら、襟を緩めたり、スカートをたくしあげたりして逡巡した結果、真面目な着こなしで食卓に現れた。
第1回の時点は単純に、ギャルぽい格好をしてみようとして辞めた、というだけのことであり、初回冒頭のつかみでもあるのだろうと思って見ていた視聴者が多いと思う。どうやらそれだけではなかったようだ。
それが松木さんの言う「視点」である。結は歩のあの姿を見ていて、彼女なりに何かを感じていたのだろう。自身が高校生になったとき、結も自分なりの決意表明をしてみたいと思ったのではないか。少なくとも、あの場面で結は歩の初登校の日を意識していたことが第24回でわかった。
松木さんにそう解釈していいですか、と聞くと、頷いてくれた。
「台本を読んでなるほどって思いました。第1話の冒頭だけでなく、ほかにも緻密に考えられているんです。根本さんの頭の中にいろいろなピースがあって、それをバラバラにして配置しているという、難しいことをやっています」
昨今、「伏線」という言葉が一般化し、「伏線」を先回りして予想する楽しみもあるのだが、本来「伏線」とは予想もしていなかったことがあとで関連していたことがわかって驚く仕掛けである。そういう意味で根本ノンジさんの脚本は、予想もしていなかったことがあとでふっと出てくる。第1回の冒頭然り。
また、第21回では、タイトルの「おむすび」につながる避難所のエピソードがあった。ボランティアのかたがおむすびを持ってきてくれると、幼い結が、冷めているからチンできないのかと聞く。これが第22回のアヴァンでも使用されている。幼いから、悪気なく言ってしまったこと。これが、結のその後の人格形成に繋がっていく。
「あの時のことが、結が栄養を学び始めてからも何かと彼女の決断を規定する要因になっています」
おむすびが配られたことは実際にあったことだが、結の発言は根本さんの創作だと言う。
「子供の視点からこの地震を見た時にどうなるんだろうという議論のなかで、根本さんからああいうアイデアが出てきました。それがずっと彼女の心の中に残っているようにしたいと根本さんが考えました。実際に取材でも、子供はあの日、無邪気に幼稚園が休みでうれしい気持ちになったりもしたようです。子供独特の視点ですよね。おにぎりのこともリアルから離れていないと僕は取材して思いました」
米田家の過去と呪いについても回収される
制作統括の宇佐川チーフプロデューサーも言う。
「第1~3週でじっくり結の心情を描くなかで蒔いた種が、姉の帰還である第4週を機に、どんどんと、一気に変化していきます。結が自ら積極的に動きはじめるに従い、展開もダイナミックになっていきます。
さらにこの先も、歩の過去や真相、栄養士の道へと盛りだくさんの内容です。第1話・冒頭の“ネクタイを緩めるしぐさ”、結の“美味しいもん食べるとちょっとは悲しいこと忘れられるけん”という口ぐせ、米田家の過去と呪いなど……『こういうことだったのか』と、気づくことも多数出てくると思います。ここから見ても十分に楽しめますが、第1週から見ていた方は、より豊かな世界を感じてもらえると思います。『連続テレビ小説』だからこそできる、半年間を活かした物語をお届けしたいと思っております」
連続テレビ小説「おむすび」
毎週月~土曜 午前 8時00分(総合)※土曜は一週間を振り返ります
/ 毎週月~金曜 午前 7時30分(NHKBS・BSP4K)
【作】 根本ノンジ
【主題歌】 B’z 「イルミネーション」
【語り】 リリー・フランキー
【音楽】 堤博明
【出演】 橋本環奈 仲里依紗 佐野勇斗 麻生久美子 宮崎美子 北村有起哉 松平健 ほか