高層ビルの設計で考えている揺れは? 長周期地震動予測を踏まえ見直し!
高層ビルの耐震設計
高層ビルの耐震設計では、建設サイトでの想定地震動に対して、地震応答解析と呼ぶ方法で建物の揺れを計算し、建物各部が大きく損傷しないことを確認しています。ここでは、どの程度の強さの揺れに対して、どういった考え方で安全性を確認しているか、がポイントになります。今回は、高層ビルの設計で考えられている地震動について考えてみようと思います。
高層ビルの設計で考えてきた地震動
そもそも、我が国で高層ビルが建て始められたころは、地震動の性質が十分に分かっていたわけではありません。本来であれば、建設地で将来経験する地震動を予測し、それに対して安全性を検討するのが好ましいのですが、最初の高層ビル・霞ヶ関ビルが着工した1965年は、プレートテクトニクス理論が提唱された1960年代の半ばです。地震の発生メカニズムも十分に理解できていない時代でした。そのため、それまでに観測された地震動に対して安全性を検証していました。よく使われてきたのは、1940年インペリアルバレイ地震のエルセントロ地震動(下図参照)、1952年カーンカウンティ地震のタフト地震動、1968年十勝沖地震の八戸地震動の3つの地震動です。この時期は、観測当初であったこともあり、長周期の揺れはノイズと考えられていたようで、地震動は短周期で揺れると多くの人が思っていました。そのため、高層ビルは、地震動に対して「柳に風と振る舞う」ので安全と考えられていたんだと思います。
日本人が提唱した強震観測
強い地震動を観測するようになったのは1930年代からです。東京帝国大学・地震研究所の所長だった末広恭二が強い揺れを観測できる強震計の必要性を訴えました。残念ながら我が国では受け入れられず、1932年に末広がアメリカで行った講演を受けて、アメリカで強震計が設置されました。最初の強震記録が観測されたのは、1933年ロングビーチ地震の地震動です。そして、1940年に有名なエルセントロ地震動が観測されました。
地震学と地震工学の進展
その後、地震学や地震工学の進展によって、地震発生や地震動生成のメカニズムが解明され、現在では、ある程度の精度で揺れを予測することができるようになってきました。地震は断層の破壊によって生じ、破壊の仕方によって放出される地震波の性質が決まること、震源域から揺れが減少しながら地震波が四方に伝播すること、軟らかい堆積地盤で揺れが増幅することなどです。先日公表された南海トラフ地震の長周期地震動は、こういった知見に基づいて予測されたものです。
高層ビルを設計する地震動の見直し
地震動研究の成果を受けて2000年に、新しい地震動の考え方が国から示されて、比較的堅い地盤(解放工学的基盤と言われています)で標準的な地震動を定義する方法が導入されていました。しかし、長周期の揺れについては、検討の余地があるとのことで、2010年12月に設計用の入力地震動の考え方の見直し案が示されました。ちょうど、その意見募集を終えた直後、翌々週に東北地方太平洋沖地震が発生しました。長周期の地震動で大きく揺れる高層ビルが多数あったことから、その後、再検討が行われていました。先日、内閣府から公表された南海トラフ地震の長周期地震動の結果を受けて、一昨日、国土交通省から、新しい設計用の地震動の考え方が示され、意見募集がされているところです。
今後、既存の高層ビルの安全性の点検も行われることになると思われます。従前の考え方に加え、家具固定などの室内の安全性や、長時間の揺れに対する点検などの必要性が示されました。既存の高層住宅の対策に対して国の支援が言及されている点は注目されます。