「文在寅大統領の名があると遮断される」とのデマも。韓国で高まるフェイクニュース警戒心
韓国のメディア関係者と意見交換する中で、最近、かならず登場するのがフェイクニュースだ。
先月も韓国の保守系YouTuberが「文在寅(ムン・ジェイン)大統領やとその側近のチョ・グク前法相などの名前があると広告出稿が遮断されるようだ」という趣旨の発言をしてちょっとした話題にもなった。
放送通信委員会のハン・サンヒョク委員長が「明らかなフェイクニュースだ」と反論して一段落したが、先週は「BTS(防弾少年団)が所属事務所への法的対応を検討している」と報じたニュース番組が、「報道後に当事者の立場を確認し、その結果訴訟の可能性が非常に低いことがわかった」と訂正を入れた。
韓国では元KARAク・ハラなどが自ら命を絶ったことから、ネット上の悪質なコメントや“指殺人”がイシューになっているが、同じくらい“フェイクニュース”が問題視されているのだ。
(参考記事:韓国芸能人を苦しめる“指殺人”…なぜ「悪質コメント」はなくならないのか)
韓国で高まるフェイクニュースへの警戒心
例えば、一般市民が主導するフェイクニュースの検証プラットホームまで登場しようとしているほどだ。名前は「フェイクニュース・チェックセンター推進委員会」という。
12月10日にはソウルで市民団体やメディア公共性フォーラム、弁護士団体など30の団体による発足式も開かれた。委員会のイム・スンへ共同委員長によると、「一般市民の集団的知性を集めてフェイクニュースを申告し、検証するプラットホーム」で「現在、発起人を募集中。来年2月にモバイルサービスを開始することが目標」だという。
こんな動きまで出ている現状を見れば、韓国でフェイクニュースがいかに問題になっているかがわかるだろう。
その深刻度を示す興味深い報告書もある。
韓国言論振興財団が20~50代の成人1084人を対象に行った調査結果「一般国民のフェイクニュースに関する認識」(2017年3月)だ。
同報告書によると、回答者の32.3%がフェイクニュースと判断できる報道に触れた経験があり、30代(34.1%)、20代(37%)と若い世代ほどその経験が多かった。
フェイクニュース、ネットで経験が76.3%
そしてフェイクニュースに触れた“経路”を見ると、やはり「インターネット」(76.3%)が圧倒的だ。新聞やテレビなどのいわゆる「マスメディア」と答えた人は、9.1%と大きく減っている。
ただ前出のBTS関連のニュースを報じたのは、韓国で最も信頼されるニュース番組とも評されるJTBCの『ニュースルーム』だった。
だからこそ信じた人も多く、BTSの所属事務所も長文の公式立場を発表して「事実無根」と一蹴するだけではなく、報道内容の誤りについて細かく反論していた。
そういったフェイクニュースに触れた経験を持つと、後遺症のようなものが残るようだ。まともな報道に対しても「フェイクニュースではないかと疑う」という人が、調査対象者全体の75.9%に上った。
特に25.0%、つまり4人に1人は「常に疑う」と答えている。この結果は、フェイクニュースによって多くの人がニュース全体に対する信頼度を悪化させているということを表わしているのかもしれない。
注目はここからだ。ニュースのコメントなどでも散見されるが、フェイクニュースへの規制や処罰について、どんな意見があるかを見てみたい。
処罰や規制が必要との声が圧倒的
同報告書によると、まずフェイスニュースは「規制されるべき」との意見が大多数を占めた。
例えば「フェイクニュースは名誉毀損など人格権を侵害するため規制されるべき」には、「とても同意する」53.1%、「同意する」35.7%と圧倒的に賛同する人が多かった。
同じく「政治的なイシューを判断するうえで混乱を起すため規制されるべき」に対しても、「とても同意する」47.8%、「同意する」40.7%と賛成派がほとんどだった。
反対に「ニュースの内容が虚偽なのかどうか判断が難しいため規制してはならない」には「同意できない」53.4%、「まったく同意できない」28.7%との意見が多かった。
そして、フェイクニュース問題を解決するためには、処罰も必要との意見が少なくなかった。
最も多かったのは「テレビや新聞(インターネット新聞も含む)などのマスメディアがフェイクニュースを報じたときは懲戒処分を行うべき」(43.4%)で、「フェイクニュースとなる内容のコメントを作成したネットユーザーは法律で処罰」(30.6%)が続いた。
シンガポールで施行された「フェイクニュース防止法」に対して、「予想通り…シンガポール政府、“フェイクニュース防止法”を野党に相次いで適用」(『聨合ニュース』)と警戒する記事も出ているが、韓国ではフェイクニュースに対して何かしらの規制や処罰を与えるべきとの声が多い。
いずれにしても芸能ニュースをはじめ、誤った報道が少なくない昨今。今後もフェイクニュースはたびたび話題に上りそうだ。