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TBSが宣伝に困る?BLドラマ。裸とサスペンスと法廷が交錯の『毒恋』は『SPEC』の境地に達するか

斉藤貴志芸能ライター/編集者
(C)『毒恋~毒もすぎれば恋となる~』製作委員会

 昨今、BLドラマは珍しくない。むしろジャンルとして確立している。エッジの効いた作品を生み出してきたTBS深夜の「ドラマストリーム」枠で放送中なのが、『毒恋~毒もすぎれば恋となる~』だ。

 BL×サスペンス、毒×恋、エリート弁護士×天才詐欺師と多重な掛け合わせは、詰め込みすぎにも思えたが、3話までは絶妙に溶け合ったうえにコミカルなテイストも加わっている。ただ、こうしてキャッチコピー的に並べても、その面白さは伝わりにくい。観たら想像の斜め上を行く展開なのだ。

 たぶんTBSもどこをどう宣伝するか、見どころが多彩すぎて嬉しい悲鳴的に苦労しているのでは。裏返せば予備知識ナシでもBL好きでなくても、一度目にすれば観続けたくなる作品だ。

クールだがおかしいキャラクターが秀逸

 W主演で弁護士の志波令真(しば・りょうま)役は濱正悟。朝ドラ『舞いあがれ!』で妻子持ちながら航空学校に入学したヒロインの同期、『何曜日に生まれたの』で金髪の元サッカー部キャプテンなどを演じてきた。

 まず、この志波のキャラクターが抜群に面白い。東大在学中に司法試験を最高得点で突破。日本有数の規模の法律事務所に入所後、数々の難案件に勝訴し、27歳で共同経営者にまでなった。一方で相棒を次々とクビにして、「冷酷無慈悲な氷の法王」と呼ばれている。

 クールな佇まいで口数は少なく、低音でキメたナレーションの中で「俺の目標は法曹界において志波令真というブランドを確立することだ」などと語る。

 しかし、高層マンションの庭で育てている多肉植物たちと“会話”して、「そんなにノドが乾いていたか」と水をやったり、「スペシャルマッサージだ。気持ちいいだろう」と葉をさすったりと、おかしな様子も見せる。

 趣味のソロキャンプに行けば、「心を鎮め無心になる時間を作る。これも法の守護神となるため必要不可欠」と気取りながら、組み立てたテントは崩れ、薪に火をつけることもままならない。肉を焼くのを諦めて「外で食べるプロテインバーも格別だ」と1人でカッコつけているのがクスッと笑えた。

志波令真を演じる濱正悟
志波令真を演じる濱正悟

バスタブに2人で入るシーンも

 「俺の人生に恋愛の文字はない」と言っていた志波だが、得体の知れないワンコ系男子のハルトに調子を狂わされていく。バーのトイレ前で出会い、キャンプ場でも遭遇し、なぜかマダムから逃げる彼をかくまってテントで一緒に寝るハメに。

 志波の高級車を勝手に拝借して去ったりと、奔放な行動を続けるハルト。志波は「かわいいね。リョーくん」と言われ、「何だ、このムズムズする感覚は?」とキョドったり、クールさが綻び出すのも面白い。ときめきが芽生え、毒が回って恋になっていくのがタイトルの意味するところのようだ。

 BLドラマとしては、サービスシーンも盛りだくさん。1話の終わりから2話の冒頭では、シャワーを浴びた志波が腰にタオルを巻いただけの裸でハルトと向き合い、そのタオルがハラリと落ちたり。2話では志波の家に住みついたハルトが、パンツ一丁にバスローブを羽織って絡んできた。

 3話ではさらに、ハルトがバラの花びらをしつらえたバスタブに志波が浸かり、妄想でハルトを体を乗せて一緒に入っているシーンまであった。志波の恍惚の表情とハルトのいたずら顔。2人ともいい体で、尺も長めに取られていて。大喜びした視聴者もいることだろう。

恋の相手は人懐っこいが謎が多くて

 ともあれ、こうしたツンデレの恋愛下手が恋に落ちる関係は、BLでも男女のラブコメでも見掛けるパターンで、山あり谷ありで最後は実るのが定番。だが、『毒恋』では現状、ハルトは人懐っこいが謎が多い。

 演じているのは兵頭功海。『騎士竜戦隊リュウソウジャー』の追加戦士役で注目され、『下剋上球児』ではフェリーで2時間かけて通学する野球部員を演じていた。

 『毒恋』の公式サイトでハルトは天才詐欺師とされているが、劇中ではまだ直に詐欺を働く場面はない。ただ、志波の同僚の弁護士が手掛ける案件で、地面師集団の写真に写っていた。

 志波が法律事務所で相棒を99人クビにし、100人目は自分で見つけるように命じられていることも、バーでの会話で聞いていたと言い、「100人目の相棒になってもいいよ」と愛嬌たっぷりにうそぶく。

 手料理をふるまえば三つ星レストランのシェフ並みの腕前で、志波は「いちおう食える」と装いながら感服を隠し切れない。裁判資料に勝手に目を通すと、「試しに俺を使ってみたら? 結構役に立つよ」とアピール。「だって俺、誰にでもなれるから」と、ノリの軽いハルトが一瞬鋭い眼光を放った。

ハルトを演じる兵頭功海
ハルトを演じる兵頭功海

裁判後の告白から展開は予想つかず

 その裁判では実際、ハルトが盗聴した会話や証人の懐柔が功を奏し、不利な状況を覆した。法廷シーンはコミカルなドタバタオチは付いたが、原告のウソを暴き、リーガルドラマとして成立していた。志波はハルトを詐欺師と見越しながら正式に契約を交わし、裁判に臨む異色のバディが誕生した。

 そんな展開と並行しながら、3話の最後には2人でキャンプに出掛け、ハルトが志波に「リョーくんが大好きだよ。俺、本気だから」と告白。確かに真剣に見えたが、ハルトは「何にでもなれる」詐欺師。すんなり受け取っていいものか? 

 出会いも偶然だったかは疑わしく、そもそも志波の裸の写真を隠し撮りして、「俺をここに住まわせてよ」と笑顔で脅し気味に迫っていた。何か彼に近づく目的があるのか? 実は毒の存在ではないのか? そこはサスペンスをはらんでいる。

 BLでリーガルドラマでサスペンス。どこを取っても見どころがあるが、どこかだけ取り出しても語れない。やはり宣伝の仕方は難しそうだが、観れば全部混ざっていても違和感はなく面白い。

序盤の意外性は傑作ドラマと重なって

 この『毒恋』、序盤の意外性という点で、似た印象を思い出すのが『SPEC』だ。もう14年前の作品で、もちろんジャンルもテイストもまったく別もの。GP帯の1時間枠と深夜の30分枠では根本から違う。ただ、『SPEC』は当初『ケイゾク2』が仮題だったこともあり、その系統のハードな刑事ドラマを予想させた。

 ところが蓋を開けたら大違い。SPECと呼ばれる超能力を使う犯罪者と戦うSF調だった。たとえば、人の体に憑依したように見える事件の謎を解くのでなく、本当に憑依する能力を持つ相手と対峙する。神木隆之介が演じたニノマエは時間を止められる。普通の刑事ものなら反則で最初は面食らったが、グイグイ引き込まれていった。

 それでいて『ケイゾク』の世界観は引き継がれ、バディの刑事ものの醍醐味も十分。SPECの存在を前提にすれば謎解きもリアルで、通常の刑事もの以上にスリリング。かつ、SF的な荒唐無稽さが緊迫感に転化していた。型破りだが、刑事もの×SFでドラマ史上に残る傑作となった。

嫉妬の芽生えから「巨悪と対峙」にどう行き着くか

 『毒恋』もBLドラマと思って観たら、それで括れる作品ではなかった。かつ、BL要素もしっかり織り込まれていて。ひとつひとつに波乱の予感があり、何と何がどう融合して、どんな結末を迎えるのか、まったく予想がつかない。

 こじつけで続けると、『SPEC』では当初は個々のSPECホルダーとの対決が中心だったが、物語は国家と秘密組織の陰謀戦にまで及んだ。

 『毒恋』で次の4話はベンチャー企業の内部告発を巡る話で、当面は志波とハルトが訴訟絡みのトラブルを解決していくようだが、公式サイトには「やがて2人は巨悪と対峙することに」とある。かと思えば、次回予告では志波が嫉妬に駆られるようで。展開が読めないだけに最後まで楽しめそうだ。

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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