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改めて紐解く、カジノ法案の問題点と今後の論議

木曽崇国際カジノ研究所・所長

どうもこんにちは、カジノに関していつも吠えている人です。吠えるのがお仕事です。

さて、IR議連が今年の臨時国会にカジノ法案提出か?という事で世間が大騒ぎとなっているワケですが、「アンチ・グローバルマッチョ宣言」でおなじみの(?)若手論客、うさみのりや氏が元経産官僚という「昔取った杵柄」で、議連による法案の問題点に関して独自の分析をしてくれました。

っていうか全然関係ない話ですが、うさみ氏はタムコー氏なぞという「グローバル芸人」の相手は程ほどにして、早くターゲットを古賀義明氏に移してください。

カジノ法案の問題について ―うさみのりやブログ

http://usami-noriya.com/?p=2652

さてカジノ議連の運営やら法案やらが混乱しているとカジノと言えばこの人、木曽さんが吠えていらっしゃいます[...]

ハイ、仰るとおりで御座います。私がこれまであまりして来なかった、一般法と特別法の関係まで、判りやすい説明を有難う御座います。うさみ氏が解説している内容は、我が国の制度設計の原則を理解している人にとっては至って普通の感想であり、多くの現役官僚も心の中で共有しているものです(彼らは立場上、公にそれを口にはしないが)。議連は「民間賭博の合法化」なんて事をいとも簡単にペロっと言っちゃっていますが、刑法の解釈論議をカジノだけになぞ限定できない。すなわち、この話をしだせば、現行で公営競技&富くじを所管してる各省、遊技業を所管している警察庁に加えて、FXやデリバティブを所管する金融庁まですべてを巻き込む大論争が必至なワケでして、そりゃ多くの省庁は反対派に廻るでしょうね。

いや、むしろ二ヶ月ほど前でしたでしょうか、某官庁の担当ど真ん中の責任者から「あまり無茶な法案出すと、反対派を増やすだけだよ~。コッチだって議連が有るんだから、アッハッハ」と本気なのか本気じゃないのか判らない冗談を直球で投げかけられ、「そうですよね~、気をつけます。アッハッハ」と右から左へ会話を受け流しつつ、互いの目は全く笑ってないという緊張感満載の現場を体感したばかりであります。業界内で、現スキーム案に疑義を呈し続けてきた私が、なぜ責められるのか。お父さん、世の中は何とも理不尽です。

ただ、実は現行の法案にもすでに色々な細工が埋め込まれておりまして、例えば今回のIR議連総会にて合意がなされたIR推進法案の要綱案には以下のような記述があります。

第二 定義

一 この法律において「特定複合観光施設」とは、カジノ施設(別に法律で定めるところにより第七のカジノ管理委員会の許可を受けた民間事業者により特定複合観光施設区域において設置され、及び運営されるものに限る。以下同じ。)及び会議場施設、レクリエーション施設、展示施設、宿泊施設その他の観光の親交に寄与すると認められる施設が一体となっている施設であって、民間事業者が設置及び運営をするものをいうこと。

この部分は、議連が基本的な考え方として掲げる「カジノの施行は民設民営を基本とする」という主張を実際の法案条文として起こした部分なのですが、非常に良く出来ていますね。色んな修飾節が付加されており、非常に判り難いのですが主要部分だけを抜き出すと。

この法律において「特定複合観光施設」とは、カジノ施設及び会議場施設、レクリエーション施設、展示施設、宿泊施設その他の観光の親交に寄与すると認められる施設が一体となっている施設であって、民間事業者が設置及び運営をするもの

すなわち、この記述はあくまで「『施設』が民間事業者によって設置及び運営される」としか書いていないんですね。うさみ氏も私が以前纏めた図表を引用しくれていますが、実は現行の公営賭博の世界でも施設の設置運営を民間に外部委託する制度というのはすでに存在していて、必ずしも議連が考える「民営カジノ」スキームではなく、現行の公営賭博の制度に則る形であっても、今回の法案において定められた事項は実現できることとなります。(下図でいうところの住之江競艇や西部園競輪のスキーム)

画像

すなわち、この点に非常に無理があり、将来的に必ず大論争が起こることを予測した衆院法制局側が、何となく表面上議連が推す「民営賭博」法案に見えるようにしながらも、最悪、後刻の論議で方向転換が効くように法案にひと細工していたということです。何という官僚文法マジック!この法案が作成されたのは民主党政権時代なのですが、逆にいえば当時の法案作成の中心に居た民主党議員が官僚によって上手く「ころがされた」という事ですね。

この現行法案上のトリックについては、私自身は法案が発表された時点からすでに認知しており、議連の運営が自民党主導に移った現在においても「議連が本気で民営賭博を目指すのならば、法案そのものの条項を変えなければいけませんよ」という事はお伝えし続けてきたところ。

しかし今回、この点は議連総会にて承認が行なわれた法案要綱そのものに対しての訂正は行なわれず、民営賭博案はあくまで議連内で共有する「基本的な考え方」とする独自文書内での記載に留められました。また、今回の総会内で岩屋議員(IR議連幹事長)や萩生田議員(同事務局長)が繰り返し強調していたとおり、文書内に示されているのは「あくまで議連によるこれまでの論議のマトメであり、最終的には政府によって判断を頂くもの」という事が最終確認されたところであります。

一方で、議連案の原案を作ったとされる識者側からは、何とか「民間賭博たるカジノ合法化」案を既成事実化するために、この「基本的な考え方」なるペーパーを「法案審議の前提となる合意事項」「議連の解釈は今後の政府内論議に優先する」などという強弁が聴こえてきているのですが、法案にも含まれておらず、法的権能はなんら与えられていない任意団体の議連が独自に定めたペーパーが、そのような強力な拘束力は当り前のように持ちえません。

その点は、まさに岩屋議員が確認した「今後、改めて政府によって判断をお願いするもの」であって、某識者がそのような強力な拘束力を主張するのならばせめて法案の付帯決議事項として議連ペーパーの内容を加えて下さいな、としか言えません。ま、付帯決議ですら法的には、あくまで「尊重」が求められるだけであって、実施が強制されるものではないのですがね。

という事で、まだまだ各種論議は続きそうですが、ひとまずは何とか今年中に法案提出、そして来期通常国会における法案成立をお願いしたいところです。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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