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定住外国人の問題を考えることは避けることはできない!

鈴木崇弘政策研究者、PHP総研特任フェロー
多様な人材が活躍する社会は日本でも可能だろうか?(写真:アフロ)

厚生労働省が総務省「国勢調査」及び「人口推計」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」(2012年1月)なども基にして作成した図「日本の人口推移」を見ればわかるように、日本の人口は2013年の12,730万人をピークに、その後急激に減少し、2025年11,662万人、2060年には9000万人を割り込むと推定されている。

また少子高齢化により、高齢化率が急速に高まり約4割に迫ると共に、60%を超えていた生産年齢人口がほぼ5割にまで減少することになる。

図:日本の人口の推移
図:日本の人口の推移

このようにして、国の形が変わるほどの、人口減少(特に生産年齢人口の減少)および人口構成の急減な変化が、今後起きることになる。

日本では、このような状況を受けて、女性や高齢者なども働き活躍できる社会への多くの模索がなされ、さまざまな試みや提案が生まれてきている(注1)。

だが、それだけで、今後の急激な労働力の不足を十分に補えるかというと、それは難しいとも考えられる。では、どうすればいいのだろうか。そのような事態への一つの方策として考えられるのは、外国人労働力の受け入れを行うことであろう。

そのような問題状況も踏まえて、「技能実習」という制度が導入され、外国人が日本で働きながら技術を習得してもらえるようになっている。同制度は、本来は外国人の技術取得のためという国際貢献であるが、仕事がきついために、日本人が避けがちな単純労働などを、外国人が担うというような歪んだものになっている面もある。

同制度に基づいて、日本にいる外国人実習生は、農業や漁業、建設などの現場に、2014年末で約17万人にも達している。しかしながら、重労働や低賃金などの場合もあり、さまざまな問題が生じてきている。

2015年12月20日付の朝日新聞によれば、外国人技能実習生の「実習先からいなくなる事例が相次いでいる。法務省によると、今年は10月までに約4930人がいなくなり、年間で最多だった昨年の4847年をすでに上回った。よりよい待遇の職場を探しているケースが多いとみられている」、そして「失踪者の多くは、不法滞在しているとみられる」という。

このようにみてくると、同制度は、日本国内の労働力不足を補うための、期間限定の「定住外国人」あるいは「移民」制度として、実質的に機能してきているのであるが、さまざまな問題を生み始めてきていることがわかる。

また、不法滞在者やなし崩しの形の定住外国人の増大は、社会のセキリティー上も問題であるし、日本のように単一民族意識の強い社会での不安感や不信感の増大にもつながりやすいとも考えられる。

さらに、最近は、特にヨーロッパにおいて、テロなどとの関係で、移民の問題が注目を集めてきている。また、ヨーロッパでは、歴史的にも、移民に関する様々な問題や課題が起きてきている。それらのことは、日本にとり、単に他国の出来事として決して考えてはならないことであろう。

このように考えていくと、日本国内に、現在のように中途半端な形でなし崩し的に外国人労働者を入れてしまうことは、今後将来に向けて多くの問題の火種を抱えることになろう。

であるならば、いずれ日本においても移民や定住外国人の問題を考えなければならないのであることを考えれば、今すぐにでも、日本の今後を見据えて、その問題を考えるべきなのではないだろうか。

そのような問題意識から、「定住外国人政策研究会」が、『 「定住外国人の受け入れ」に関する提言』を先に発表した(注2)。

その提言は、次の4つのポイントから構成されている。

1. 定住外国人受け入れに関して早急なる議論の開始

2. 実験的な定住外国人受け入れ制度の構築・早期実施

3. 定住外国人に対する日本語等の教育の義務化

4. 自治体やNPOの役割の明確化

要は、関連政策の促進のエンジンとして、内閣官房に官民共同の「定住外国人問題総合検討懇談会」(仮称)を設置し、省庁の枠を超えた議論を早急に一元的に行うことや、限定された数の定住外国人をまずは実験的に受け入れ、その成果を活かしつつ、段階的にその制度を拡充していくこと、さらに受け入れ外国人がスムースに日本社会に適応していけるような仕組みを構築することなどを提案しているのである。

これはあくまで一つの提言であるが、このような提言を題材にして、定住外国人の問題に関する議論を、まず始めてはどうだろうか。

今後の日本を考えると、人口減や生産年齢人口減が不可避であるならば、この定住外国人の問題に関しても、私たち日本人が、自分たちで将来の日本を構想し、構築するという点からも、その議論を避けてはならないといえる。

(注1) 安倍政権の進める「一億総活躍社会」の考え方や別の拙記事で報告した政策提言「新しい勤勉(KINBEN)宣言などもその模索に一つの試みといえる。

(注2) 同提言および同提言のフルバージョンは、一般財団法人「未来を創る財団」から、ダウンロードできる。

政策研究者、PHP総研特任フェロー

東京大学法学部卒。マラヤ大学、米国EWC奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て東京財団設立参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・阪大FRC副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長・教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。経済安全保障経営センター研究主幹等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演多数。最新著は『沖縄科学技術大学院大学は東大を超えたのか』

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