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米大統領選、韓国は「同盟の行方」と「北朝鮮政策」に注目

徐台教ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長
米国大統領選挙の結果を世界が固唾を呑んで見守っている。(写真:ロイター/アフロ)

投票が終わり、開票が続く米国大統領選挙。「世界の行方を左右する」とも言われる選挙は韓国にとっても重大な意味を持つ。韓国と朝鮮半島情勢という、2つの大きな焦点を整理した。

今回、記事を書くにあたっては世宗研究所、国立外交院、国家安保戦略研究院、統一研究院など韓国の著名シンクタンクが直近に出した米大統領選レポートや各紙の記事を参考にした。

結論から言うと「トランプ、バイデン両候補のどちらが大統領になっても韓国にとって厳しい状況が続く」というものだった。理由には、避けられない米中関係の悪化に巻き込まれることや、米朝関係の停滞・悪化予想が挙げられる。

●韓国:米韓同盟の行方は

韓国ではトランプ大統領の約4年間を経て、米韓同盟は「深刻な状態にある」(外交安保研究所)という見方が一般的だ。理由は、トランプ大統領特有の米国中心主義に加え「同盟を損得で計る」姿勢による。

それを端的に表現しているのが、在韓米軍を支援する防衛費分担金交渉がまとまらない現実だ。

2019年には1兆389億ウォン(約954億円)だったが、米国側は大幅な引上を要求している。内訳には、米軍による戦略爆撃機などの戦略資産展開費用や訓練費用、部隊移動費用等が含まれ、金額は19年の4倍まであり得るとされた。「韓国を守る費用をよこせ」という論理だ。

米韓当局の交渉が長引く中、今年4月に前年比13%引上げという暫定合意を見たが、トランプ大統領が反対し、今なお決定していない。さらに、トランプ大統領は17年1月の就任後、「在韓米軍の撤収」を命じたという米側の報道もあった。理由はやはりコストだった。

トランプ大統領が再選となる場合、韓国政府は困難な交渉を強いられ続けることになる。

一方、バイデン候補は先日韓国の通信社『聯合ニュース』に送った書簡の中で「我々の軍隊を撤収するという無謀な脅迫で韓国をゆするよりも、東アジアとそれ以上の地域で平和を守るために韓国との同盟を強化し、韓国とともに立つだろう」と言及した。この点は望ましいといえる。

だが、バイデン候補が大統領になっても厳しい部分は残る。それはバイデン陣営もまた中国への強硬姿勢を表明すると共に「同盟への正当な寄与を期待」しているからだ。

韓国にとって、同盟国で安全保障を頼る米国と、最大の交易国である中国の葛藤が深まるにつれ「どちらを取るのか」という圧力は強くなる。バイデン候補が当選する場合「組織的に、洗練されたかたちで韓国を圧迫するだろう」(国家安保戦略研究院)との見方がある。

一方、通商面での不安も残る。トランプ大統領が再選される際にはこれまでのように韓国への関税引上を要求する見込みの上に、「支持基盤を労組に持ちオバマ政権時代から環境を重視していた」バイデン氏が当選する場合には「環境や労働基準などの基準が強化される可能性がある」(産業研究院)との見方もある。

●北朝鮮政策、米朝関係

韓国では正直なところ、こちらが議論の主なテーマとなっている。それは前段で触れたような変数が存在するとはいえ、米韓関係は長い同盟関係であるという一種の「秩序」が存在するためだ。

そして北朝鮮の非核化(バイデン陣営は「朝鮮半島の非核化」と言わない)と、それが進む場合の最終ゴールである朝鮮戦争平和協定、米朝国交正常化の行方は韓国の国益に大きく関わってくる。米朝国交正常化がうまくいくということは、当然韓国と北朝鮮の関係も改善され南北交流・南北交易が盛んになることを指す。米朝関係は韓国にとって国家の未来を左右する重要なファクターといっても過言ではない。

韓国の専門家たちの多くはバイデン候補が当選する際の変化、つまりトランプ大統領の北朝鮮政策をどこまで引き継ぐのかに注目する。トランプ大統領は北朝鮮の金正恩委員長との「個人的な親しい関係」を基に「トップダウン」方式で米朝関係・北朝鮮非核化を進めようとしたが、バイデン候補はこれを「金正恩との首脳会談で非核化の実質的な進展を成し遂げられず、正統性だけを付与した」と批判する立場だ。

このため、「ボトムアップ」方式すなわち実務協議を積み重ねる伝統的な外交方式を採用すると見る向きが強い。

そもそも、バイデン陣営はこれまで金正恩委員長に対する嫌悪感を露わにしてきた。バイデン氏はテレビ討論会で金委員長を「暴力的な輩」と称し、副大統領候補のハリス上院議員も「北朝鮮にできる譲歩はない」という立場だ。こうした背景から「民主党は(北朝鮮への)人道主義的援助を支援し、人権弾圧を中断するよう北朝鮮政権を圧迫するだろう」という立場が出てくる。

なお、北朝鮮側も19年11月にバイデン候補を「狂った犬」「狂った老いぼれ」とこき下ろした過去がある。こうした状況であるためバイデン氏が大統領になる場合には「信頼を構築するまでには時間がかかる」(国立外交院)との見方が一般的だ。また、「北朝鮮制裁の目標を国家能力の弱体化に設定し、『悪意的な傍観』を進める可能性がある」(統一研究院)と見る向きもある。

ここに軍事的挑発の可能性が加わる。当選後、参謀が整備され政策基調が固まる「2021年度の上半期まで北朝鮮政策は空白になる」(世宗研究所)ことから、北朝鮮側が自身の価値を最大限に高めようと新型ICBM(大陸間弾道ミサイル)や新型SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)発射実験を行うという懸念だ。17年を振り返れば分かるように、過去に同様のことが繰り返されてきたことからも、それなりの説得力がある。

他方、トランプ大統領が再選される場合の北朝鮮政策については、見方が分かれる。双方が妥協点を見つけられない現状を前に膠着状態が続くとする見立てや、これとは逆にトランプが積極的に対話に乗り出すといったものや、「予測不能」というものまで様々だ。ただ、北朝鮮と対話を進めるビーガン国務副長官の留任が予想されることから、北朝鮮にとってはやりやすいのではという見方がある。

●韓国はどう動くべきか

専門家たちは、揃って「韓国が積極的に動くべき」と提言する。

北朝鮮が軍事的挑発に踏み切らないように状況を管理し、バイデン候補が当選する際には「北朝鮮核問題、米朝関係改善、米韓関係に関するロードマップを先に提示する必要がある」(国家安保戦略研究院)という声まで聞かれる。

仮にバイデン候補が大統領になる場合、文政権の期待は高まると筆者は見る。過去、朝鮮半島問題が最も解決に近づいたとされるのが、史上初の南北首脳会談(6月)をはじめ初の米朝首脳会談の開催直前(12月)までいった2000年のことだ。当時は韓国が米国に政策を提案し、説明を尽くすなど積極的な姿勢を見せ続けた。

この時の大統領が金大中(キム・デジュン)−クリントンと、互いに民主党だった。その後は米韓において民主党−民主党の組み合わせは無かったため、期待が高まる。任期が2022年5月までとなる文在寅大統領にとっては、掲げ続けてきた「朝鮮半島平和プロセス」を進める文字通り最後のチャレンジとなる。

もちろん、開票の結果を待つことになるが、韓国の康京和(カン・ギョンファ)外交部長官は11月8日から早期の訪米を示唆している。統一部長官の訪米の噂もあり、にわかに動き始める気配はある。

ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長

群馬県生まれの在日コリアン3世。1999年からソウルに住み人権NGO代表や日本メディアの記者として朝鮮半島問題に関わる。2015年韓国に「永住帰国」すると同時に独立。16年10月から半年以上「ろうそくデモ」と朴槿恵大統領弾劾に伴う大統領選挙を密着取材。17年5月に韓国政治、南北関係など朝鮮半島情勢を扱う『コリアン・ポリティクス』を創刊。20年2月に朝鮮半島と日本の社会問題を解決するメディア『ニュースタンス』への転換を経て、23年9月から再び朝鮮半島情勢に焦点を当てる『コリア・フォーカス』にリニューアル。ソウル外国人特派員協会(SFCC)正会員。22年「第7回鶴峰賞言論部門優秀賞」受賞。

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