「障害者が主人公の恋愛バカ映画」『パーフェクト・レボリューション』で、健常者が理解してない4つのこと
今回は、今週末公開の『パーフェクト・レボリューション』に主演のリリー・フランキーさんと清野菜名さんの対談をお送りします。脳性麻痺の車椅子の中年男クマと、精神に障害を持つ風俗嬢ミツ。ふたりの恋を描いたこの作品は、リリーさんの言葉をそのままお借りすれば「障害者が主人公の恋愛を描いたバカ映画」で、特にぶっとんだ女の子に車椅子の中年オヤジが翻弄されまくる前半は、ハッピーな爆笑の連続です。
主人公クマのモデルは、身体障害者のセクシャリティに関する支援、啓発などの活動をしている熊篠慶彦さん。10年以上前から熊篠さんと親交を持ち、その活動を見てきたリリーさんの口から何度も出たのは「健常者の人たちに知ってほしい」という言葉でした。そうなんです、健常者が全然理解していない障害者の世界が、そこには描かれているのです~。
というわけで、まずはこちらをどうぞ!
【その1】障害者にも恋愛や性欲があるのは当たり前
リリー・フランキー(以下、リリー):あたりまえの事実だけど、障害者だって人間だから、恋もしたいし性欲もある。でも――これ、日本独特の感受性だと思うけど――多くの健常者が障害者を勝手に天使化して、「性欲もないしペニスも立たないでしょ、恋愛とかよそ事ですよね」って思っている。でも同時に、そうした事実を訴えることを、良かれと思っていない障害者もいるんです。性欲があると思われると、周囲の人たちが冷たくなったりするから。そうなると障害者も、周囲が望む「障害者」を演じてしまう。もちろん障害者の方たちは、周囲で自分たちを支えてくれる善意の人たちに感謝してると思います。そこにはなんの悪意もない。でも「セックスがしたい」という本当の望みを言える環境にはなっていかない。海外であれば、カウンセラーやセラピストが介在して言い出しやすい環境があるけど、日本の奥ゆかしさみたいなものが、結局強い抑圧になっちゃうんだよね。
【その2】マスコミが求め、垂れ流す「障害者らしさ」のウソ
リリー:冒頭で俺が演じる熊篠の講演のシーンがありますが、あれを見ても「この映画はご都合主義だ」って言いだす人が結構いると思います。脳性麻痺は必ず知的障害と言語障害を伴うと思い込んでる人が多い。でも実際の熊篠は、すごく理路整然としゃべるインテリです。健常者は「障害者はこうだ」と勝手に思いこんでる。
清野菜名(以下、清野):クマとミツがテレビ局の取材を受けるシーンがありますよね。あの場面でマスコミの人から、「無理して明るくしなくていい」とか「障害者らしく、風俗嬢らしくしてほしい」って言われる。その場のミツは「何言ってるんだろう、なんでそうしなきゃいけないだろう」っていう気持ちなんだけど、よく考えるとやっぱり傷つきますよね。認められていない、差別されているなってすごく感じました。
リリー:障害者はピュア、辛いけど一生懸命みたいなのが、テレビの“額縁”に最もハマりやすい。だからテレビにはすっげー根性ワルの障害者とか出てこないけど、健常者と同じように、障害者にだっているよ、根性の悪いヤツ(笑)。「らしさ」を求めるのは、自分の理解の範疇を超えたものを受け入れられないからで、特に日本のメディアにはそういうところが多々ある。差別感情や偏見のある人たちには、「自分はモノを知らない」という認識がなくて、自分が100%正しいと思ってるんだよね。そういう人たちが一番ヤバいと思うよ。
【その3】障害者を家族に持つ人たちの気持ち
リリー:映画として大事なシーンだと思うのは、クマの実家での法事のシーン。障害者を家族に持つ人たちの気持ちがリアルに描かれてるよね。
清野:「障害者との生活の苦労を知りもしないで」とか「障害者と結婚するなら夢は全部諦めろ」とか「障害が遺伝するから子供は絶対に産むな」とか。私は撮影中は完全にミツになっていたので、すごく自然に、本当にムカついちゃったんですよね。演技のプランでもなんでもなく、本当にクマピーのことが好きだったし、ミツは感情が「0」か「100」というタイプだったので……。
リリー:菜名ちゃんがアドリブで急に寿司投げたから、みんなびっくりしてたよね。ネタが壁に張り付いて(笑)。
清野:「ファ*ク!」っていうセリフがあったんだけど、あの時の感情にはそれじゃあ全然足りなくて。その時にお寿司が目に入ったんです(笑)。
リリー:最初はすっごい「イタい女」として登場したミツが、物語が進むうちにどんどん真っ当に見えてくる。それは登場人物の中でミツの言っていることだけが、なんの掛値もないから。クマは結構グチグチ言ってるけどね。
【その4】それでも「バカ映画」として作った理由は……
リリー:この映画に関して、作っている側はみんな「主人公がたまたま障害者」っていうだけで、「障害者の性について真剣に考えましょう」みたいなマジメな啓蒙は一切ない。障害者が主人公の、すげーバカ映画っていうのを目指したい。
清野:障害者について描いているから「重い」と思われたくないですよね。楽しく撮影したところばっかりだし、バカげた場面もすごく多いし。単純に楽しんでほしい。
リリー:でも「これは障害者をテーマにすごくエンターテイメントした映画です」って言うと、色々と「障害者を侮辱している」みたいなことを言いだす人もいるわけです。こういう風に作るのは、その手の「実は無理解」な人たちにこそちゃんと理解してもらいたいから。熊篠慶彦の活動を、ぜひ一度知ってもらいたいですね。
*「しょうがいしゃ」には、「障害者」「障碍者」「障がい者」などの表記がありますが、今回はプレス資料に準じ「障害者」としました。
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