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「新参者」のアマゾン、医療サービス拡大あの手この手

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
画像出典:米Amazon.com

米アマゾン・ドット・コムは先ごろ、一部地域で提供している社員向け医療サービス「アマゾン・ケア(Amazon Care)」を全米に広げると明らかにした

オンライン医療相談、対面診療や処方薬配達も

アマゾンは2019年9月に、同名の医療サービス部門を立ち上げた。当初は実験プロジェクトという位置付けだったが、20年2月に本社のある米ワシントン州シアトルで本格サービスを始めた。

社員とその家族は、専用アプリを通じ、ビデオ通話とテキストチャットによるオンライン医療相談が可能で、必要に応じて訪問診療・看護も受けられる。

他企業にも提供

訪問場所は自宅のほか、社屋内の診療室も選べる。処方薬の配達サービスも利用できる。これらのサービスはこれまでワシントン州全域で社員と家族向けに提供していたが、21年3月中旬に同州の他企業にも広げた。

また、今夏には米50州でオンライン医療相談を始める。こちらも他社に提供する。数カ月後には首都ワシントンやメリーランド州ボルチモアなどの都市で対面の医療サービスも始めるとしている。

画像出典:米Amazon.com
画像出典:米Amazon.com

アマゾンの医療関連事業を巡っては先ごろ、米投資会社のバークシャー・ハザウェイ、米金融大手のJPモルガン・チェースと設立したベンチャー企業ヘイブン(Haven)が閉鎖されたと報じられた。米CNBCによると、ヘイブンは企業向け医療サービスの拡充を促進するものとして期待されていた。

一方で、アマゾンはオンライン薬局を立ち上げたり、社員向けクリニックを開設したりしている。薬局事業、クリニック事業、今回のアマゾン・ケアの3つを活用し、企業向けヘルスケア市場を狙っているとCNBCは報じている。

オンライン薬局とクリニック事業

アマゾンは20年11月に米国で処方薬をオンライン販売する「アマゾン・ファーマシー」を始めた。ウェブサイトやアプリで注文を受付け、配達するというものだ。

それに先立ち、ヘルスケアサービスを手がける米国の新興企業「ヘルス・ナビゲーター」を買収。ヘルス・ナビゲーターは診断や重篤度判定を遠隔で行うツールなどを開発、提供していた企業だ。遠隔治療を手がける医療サービス企業などを顧客に持っていた。18年には処方薬のネット販売を手がける米ピルパックを買収。これら企業のサービス基盤やノウハウをアマゾン・ファーマシーに取り込んだ。

また20年7月には、米医療サービスのクロスオーバーヘルスと提携し、社員向けクリニックを開設すると明らかにした。CNBCによると、現在、カリフォルニア州やテキサス州、アリゾナ州、ケンタッキー州、ミシガン州の計17都市でクリニックを開設している。

遠隔医療市場、30年までに18.5兆円規模に

米調査会社のレポート・オーシャンによると、世界の遠隔医療市場は30年までに1711億3000万ドル(約18兆4700億円)規模に達する見通し。20年から30年にかけて毎年20.5%成長するとみている。背景には医師不足やネットの進歩、新型コロナと在宅の広がりなどがあるようだ。

CNBCによると、遠隔医療の業界は大きく動いている。20年10月に米遠隔医療サービス大手のテラドック・ヘルスが同業のリボンゴ・ヘルスを180億ドル(約1兆9400億円)で買収するなど、過去半年で3件の大型買収があった。遠隔診療が広がるなか、大手は規模を拡大し需要を取り込もうとしている。

アマゾンはこの業界では新参者。だが、小売りやクラウドサービス、エンターテインメント分野で大成功した実績のある同社の動向を、投資家やヘルスケア市場の競合が注意深く見守っている。

  • (このコラムは「JBpress」2021年3月19日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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