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愛猫を乳がんで飼育放棄しないために飼い主ができることとは?

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
イメージ写真(写真:イメージマート)

岐阜新聞によりますと、岐阜県西濃地域の商業施設でレジ袋に入れられて顔だけを出した猫がトイレに置き去りにされていました。保護された猫は、重度の乳がんで、鳴き声も出さないぐらいぐったりしていたそうです。

このようなことは、なぜ起こってしまったのか?を獣医師が推測します。愛猫を乳がんにさせない方法はあるのかも考えましょう。

保護された猫の様子とは?

保護された猫は、アメリカンショートヘアといういわゆる血統書付きの猫です。野良猫ではなく、飼い猫で、年齢は6~8歳でそろそろシニアになったかな、という年齢です。猫の平均寿命は一般社団法人ペットフード協会によりますと、2021年は15.66歳です。このことから考えると年齢は、それほど高齢というわけではありません。

体重が2.5キロで、アメリカンショートヘアの平均的な雌猫の体重が、2.7キロ~5.5キロなので、痩せています。

なぜ、乳がんになったのか?

直接、保護された猫を診察したわけではありませんが、一般的な推測では、保護された猫は、不妊手術をしていなかったか、または不妊手術をする時期が遅かったかです。

猫は、不妊手術をしていれば、絶対に乳がんにならないと言い切ることはできませんが、発情が来る前に不妊手術をしておくと、あまり乳がんにならないです。

なぜ、不妊手術をしていると乳がんになりにくいの?

不妊手術は、一般的には卵巣と子宮を取ります(なかには卵巣だけのこともありますが)。発情が来る前に、この手術をすると、乳腺が発達しないのです。発情が来ると、妊娠して子どもを育てる準備を体がします。つまり乳腺が発達して出産したときに、すぐに母乳があげられる状態になるのです。

不妊手術をするからといって、乳腺を取れないのですが、このような効果があるのです。

いつ不妊手術をすればいいの?

写真:イメージマート

栄養状態が悪い時代は、不妊手術の時期は生後1年ぐらいといわれていました。しかし、いまは、栄養状態もよいので以下のような目安で不妊手術をします。

・体重が2キロ

・生後4カ月から6カ月

個体差があるので、獣医師と相談して手術日を決めてください(雄猫の場合は、雌猫ほど早くしないと精巣がんになりやすいというのはないので、生後1年ぐらいまでが基本です)。

乳がんってどんな病気?

乳がんは乳腺にできるしこりです。

犬の場合は乳腺にしこりができれば、悪性の確率は5割ほどです。その一方で、猫の場合は、残念ながら9割以上が悪性です。

手術をすれば大丈夫か、というとそうでもなく、他の乳腺やリンパ節や肺に転移することが多いです。

この保護猫は、重度の乳がんとあるので、寛解することはなかなか難しいでしょう。QOLを上げて肺に転移しないように、多方面から治療をして呼吸困難にならないようにします。

室内飼いだし、不妊手術はいいかな、と思っていませんか?

保護されたアメリカンショートヘアなので、たぶんペットショップなどで購入されたのでしょう。猫は不妊手術をすることは知っているけれど、自分のところは完全室内飼いにするので、望まない命を生み出さないから不妊手術はしなくてもいいや、と思っていたのかもしれません。

不妊手術は、確かに子どもができなくなる手術です。それ以外にも以下の病気の予防ができます。

・乳がん(発情が来る前にした場合)

・子宮蓄膿症(子宮に細菌がたまる病気)

・子宮の腫瘍

飼い主のできること

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生後4カ月過ぎぐらいの子猫のおなかにメスを入れる不妊手術は、かわいそうでできないと思っている人もいるでしょう。猫にとっては、自然ではないことなので不妊手術をしたくないと考える飼い主の気持ちは理解できます。

しかし、人間と室内飼いで暮らすということ自体、もう自然ではないのです。獣医学の進歩により、発情が来る前に不妊手術すると、上述の病気が予防できることがわかっています。

この岐阜の飼育放棄された猫の記事を読んで、なんと無責任なことをするのだ、と憤りを持っている人も多くいるでしょう。病気なのだから、飼い主がしっかり愛猫の面倒を見てあげるべきだと言うのは簡単です。

飼育放棄した飼い主が、適切な時期に不妊手術をするということを知っていれば、乳がんになった猫を置き去りにしなくて済んだかもしれません。

適切な時期に不妊手術をしていない猫の場合は、乳がんになるリスクもありますので、月に1回程度、乳腺にしこりがないか、乳首から分泌物が出ていないか、チェックしてください。

乳がんの治療

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重度の猫の乳がんは、寛解が難しく治療にお金も時間もかなりかかります。そして、治療をしているのに、肺に転移して呼吸困難になり最後は酸素室から出られなくなる子もいます。

早期に治療をすれば、寛解することもできますが、治療をしたから寛解するとは限らない病気です。

猫を飼う人は、適切な時期に不妊手術をしましょう。そうすると、乳がんで苦しむ猫が少なくなります。保護された猫は、治療をしてもらっているようなので、よい状態になることを祈っています。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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