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チベット族の青年、丁真さんはなぜ突如として中国中の人気者となったのか?

中島恵ジャーナリスト
中国のSNSで大人気の丁真さん(中国のウェイボーより引用)

 ここ数日、中国のSNSで大人気となっている1人の青年がいる。その名は丁真さん(19歳)。日本のメディアでも取り上げられ始めたので、すでに知っている人もいるだろう。

 丁さんは中国の内陸部、四川省カンゼ・チベット自治州理塘県に住むチベット族(少数民族)の青年だ。家族とともに農業や放牧などの仕事をしている、ごく普通の青年だったが、11月にこの地を旅行した人が彼を撮影し、SNSにたまたま投稿したことから、突如として人気者となり、わずか数日にして、一躍、中国中にその名が知れ渡るほどの有名人となってしまったのだ。

 11月末、地元の観光大使に就任した彼のプロモーション映像「丁真的世界」(丁真の世界)は初日の配信だけで1200万回再生され、彼の検索閲覧回数はなんと16億回を超えた。彼を目当てに理塘県に向かう航空便の利用者も前月の2割増になったと報道された。

丁真さんのプロモーション映像より
丁真さんのプロモーション映像より

 その人気ぶりは中国を代表する国営メディア、中央テレビ局(CCTV)や人民網などにも取り上げられ、中国政府の報道官が記者会見の席で「天真爛漫な笑顔。SNS界の新しいスターだ」と持ち上げるほど沸騰している。

 SNSを見ると、若い女性を中心に彼のどこに魅力を感じているのかが書き込まれている。

「小麦色の肌、キラキラとして澄んだ瞳、野生的な雰囲気…すべてが素敵!」「大きな黒い瞳に吸い込まれそう!かわいい!」

「大草原で馬に乗る姿がカッコいい。民族衣装も似合っている」「素朴でまったく飾らないところがいい。整形したり、飾っている網紅(ワンホン)とは違う」……。

素朴ですれていないところが魅力

 「網紅」とは「KOL」とも呼ばれ、中国のインフルエンサーのこと。ネット上で高い影響力を持ち、SNSで多数のフォロワーを抱える。企業と契約して商品をPRする仕事をしている人が多く、今では俳優や歌手以上に大金を稼げる可能性があるといわれている。

 だが、丁真さんはそうした職業でやっている「網紅」とは違い、素朴ですれていないところ、まったく計算していないところがむしろ魅力となっている。地元の理塘県には、すでに彼あてのファンレターが大量に届いているが、そこには「人気が出ても都会に出ないで、このまま毒されないでほしい」「これ以上、商売の道具にされないように」などの心配の声も書き込まれているそうだ。

 しかし、観光プロモーションのため、新型コロナで疲弊した別の都市から、彼へのラブコールが相次いでいる。

 彼は中国中央テレビ局のインタビューで、「なぜこれほど僕が注目されたのかわからないが、素直にうれしいです。大使としての知識を身につけて、もっと勉強したい。ぜひここに遊びにきて」とはにかんだ笑顔で答えている。プロモーション映像ではぎこちない中国語を話しているが、メディアのインタビューに答えているのはチベット語の中でもさらに理塘県のみで使われている方言のようだ。

民族衣装を着ている丁さん(中国のウェイボーより引用)
民族衣装を着ている丁さん(中国のウェイボーより引用)

 チベット族というと、人権問題で話題になっているチベット自治区を思い浮かべる人が多いと思うが、チベット族が住んでいるのは、ほかに青海省、四川省、雲南省、甘粛省などがあり、人口はトータルで約540万人といわれている。

 丁さんが住むカンゼ・チベット自治州は四川省の西部に位置し、標高は約4000m。パンダなどの動物が生息し、漢方薬などの貴重な材料が採れる高山地域。全国的に知られるほど有名な観光地はないが、高原や山、古い街並みなどがあり、大自然が豊かだ。チベット自治区以外では最もチベット族が多く住んでいる地区のひとつでもある。

 新型コロナ以後、海外に行くことがほとんどできないなか、中国では国内旅行が人気となっているが、今年10月の国慶節(中国の建国記念日)の大型連休には、「密」を避けて自然が多い地方に旅行する人が増えた。SNSの効果で、もしかしたら、来年2月の春節には、丁さん目当てに四川省を旅行する人が激増するかもしれない。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「日本のなかの中国」「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミア)、「中国人のお金の使い道」(PHP新書)、「中国人は見ている。」「日本の『中国人』社会」「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国を取材。

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