南北関係めぐり深まる韓国与野党の対立…解消のカギは米国
五輪開幕と共に始まった2泊3日の南北首脳級の交流は、再会を期し終了した。一方で、韓国与野党の対立は先鋭化している。対立の中身と今後を見通した。
北朝鮮代表団は文大統領と4度同席
北朝鮮の代表団は、訪韓期間中、文在寅大統領と4度同席した。中でも韓国メディアに大きく取り上げられたのは、9日の開会式と、10日の会談ならびに午餐会だった。
まず、開会式での金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長、金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党中央委員会第一副部長との2度にわたる握手のシーンは、外国メディアの「歴史的な握手」というコピーと共に繰り返し報じられた。
次いで、金与正氏が自らを兄・金正恩国務委員長の「特命を受けてきた」存在と明かし、金委員長の親書を手渡すと共に「(金正恩氏は)早い内に文在寅大統領と会う用意がある」と南北首脳会談を提案した会談は、さらに大きな注目を集めた。
だが、韓国政府側が「これまでの努力の結果」(統一部発表)と胸を張るこれらの動きは、文在寅政権に批判的な野党の大きな反発を呼んだ。
特に、第一野党の「自由韓国党」の反発はすさまじく、政権与党の「共に民主党」との対立はピークに達した感がある。
「米国との足並みの乱れ」を指摘
自由韓国党は、与党・共に民主党の121議席に次ぐ117議席を持つ巨大政党だ。この二つの党で議会(定数300)の約8割を構成する。
韓国で過去9年にわたり「与党」と呼ばれ続けてきた政党で、保守を標榜し、反北朝鮮を掲げると共に、米国との同盟を最重要視する。
そんな同党にとって、9日の開会式直前のレセプションで、米国のペンス副大統領が5分で中座することに至った事態は許せないものだった。
10日、チョン・ヒギョン同党報道官は論評の中で、「政府は『(北朝鮮と)動線がかぶらないようにしてくれるよう』要請した米側の要請を無視し、ペンス副大統領の席を北朝鮮の金永南の向かい側に配置した。これは同盟国の意思を無視し、文在寅政府が米朝の対話を『ショー』しようとしたことから起きた事態で、外交惨事といえる」と強く批判した。
また、同じ9日にペンス米副大統領が2010年3月に北朝鮮により沈没させられた哨戒艦「天安」の展示館を訪ね「自由のための戦いに気持ちを同じくしている」と語った例も挙げた。さらに、トランプ大統領が1月30日(現地時間)、首都ワシントンで行った年頭教書発表の席に、脱北者のチ・ソンホ氏を招待し、北朝鮮の人権問題を取り上げた点に言及した。
その上で、「国民はもちろん、米国でさえ認識している北朝鮮の実態を、文在寅大統領と主体(チュチェ)思想派、運動圏出身の集権勢力だけが無視している。玄松月(ヒョン・ソンウォル)と金与正の満面の笑みの裏に、北朝鮮住民の悲惨な惨状を見てこそ、政府らしい政府といえる」と正面から攻勢をかけた。
これは、現政権の中心部にいる任鍾○(○=析の下に日、イム・ジョンソク)大統領秘書室長を筆頭とする、過去、韓国で民主化運動を行う中で、北朝鮮にシンパシーを感じていたとされる人々に対する当てつけだ。
「核廃棄が前提とならない会談は『利敵行為』」
実現が取りざたされる、第三回南北首脳会談についての批判もこの上なく強いものだった。
同党のチャン・ジェヨン首席報道官は11日に発表した論評の中で、「文在寅大統領は、北朝鮮に金氏王朝の世襲公主(姫)に北朝鮮の白キムチと、江原道(カンウォンド)の干しタラ料理を含む料理までふるまいながら、金正恩の親書と南北首脳会談という嘘だらけのプレゼントをもらった」と評した。
さらに「その対価として、北朝鮮は金氏王朝の正統性を認めてもらい、制裁と圧迫で北朝鮮の核を廃棄させるという、米国をはじめとする友邦国の努力に冷水を浴びせかける、著しい実利を得た」とした。
ここでも文在寅政府を「独走」と規定していることが分かる。
その上で同政府に対し「北朝鮮の核廃棄が前提とならない、いかなる会談も北朝鮮の偽装平和攻勢に騙され、北朝鮮に核を完成させる時間だけを稼がせる『利敵行為』である点を心に刻まなければならない」と全面的な非難を浴びせた。
「大阪の陣」を例えに批判
12日にも、この攻勢は続いた。「金氏王朝の世襲公主を4回も招待しながら、北朝鮮核問題の『核』の字でも言及してみたのか」とし、「北朝鮮の核廃棄が前提とならない大統領の訪北は、核開発への『祝賀使節団』でしかなく、これは明白な『利敵行為』であると」警告した。
さらに、自由韓国党のチョン・テオク報道官は別の論評の中で、日本の「大阪の陣」を例に挙げ、文在寅政府を非難した。
要約すると「難攻不落の大阪城だったが、冬の陣の和平交渉の条件として外堀を埋めることを許した豊臣方が、内堀まで埋められてしまい、夏の陣で敗れた。防御の要を相手に渡す結果は、平和でなく没落である」というものだ。
「金正恩氏が五輪に参加し、首脳会談に出てきたのは、韓国の哀願によるものでなく、米韓軍事合同訓練、米軍戦略資産(最新鋭戦闘機、空母などを指す韓国の表現)の韓国への展開、国際的な圧迫というセットによるものだ。しかしこれも首脳会談により崩れる」という話の例えだ。
「金日成の仮面で応援」疑惑にも不満爆発
話を少し戻す。
一連の自由韓国党の攻勢に拍車をかけたのが、2月10日の女性アイスホッケー南北合同チームで、北朝鮮の女性応援団が行った「仮面応援」だった。
仮面の顔が北朝鮮の建国の父・金日成首席の若い頃の写真に似ていたことから、すぐに韓国の「ノーカットニュース」が「金日成の仮面をかぶって応援」とのタイトルでこの様子を伝えた。
この記事に対し批判が殺到した。根拠は「最高尊厳である金日成の顔に穴を空けて、一般人がかぶることは北朝鮮で許されない。公開の場でやるなどあり得ない」というものだった。
一方、北朝鮮専門家として鳴らす「正しい政党」の河泰慶(ハ・テギョン)議員も参戦し、「これが金日成の顔でないはずがない」としながら「逆に、別人の顔を掲げたらそれこそ収容所行き」と反論したのだった。
騒ぎが広まるや、南北関係を主管する統一部が10日深夜、「『ノーカットニュース』による『金日成の仮面をかぶり応援』は間違った推定だ。現場の北側関係者に確認したところ、そのような意図は無く、北側でもやはり『そのように(金日成を)表現することができない』と述べた」と沈静化に乗り出した。
だが、こうしたやり取りは韓国のネット上でまたたく間に広がり、11日午前中には、ポータルサイト、ツイッターなどでトレンド1位となった。
自由韓国党はこうした政府の動きにも批判の舌鋒を向けた。11日の論評で「北側の応援団が金日成の仮面をかぶって、平昌五輪の会場を練り歩いている。開幕からわずか一日で平昌五輪は平壌(ピョンヤン)五輪そして北朝鮮の体制宣伝の場に転落した」と非難した。
そして「(統一部は)『美男子の仮面』だというが、これまで応援グッズとして使われたことがあったのか」と畳み込んだのだった。
共に民主党も大反論「どの国の政党なのか」
見てきたように、自由韓国党は一日数本の論評を発表しながら、政府のあらゆる南北交渉・接触を否定している。これに対し、与党・共に民主党も黙っていない。
11日の定例記者会見で「仮面疑惑は単純なハプニングで終わった」すると共に、「ファクトを確認しないメディアも問題だが、これに付和雷同し、揚げ足を取る野党の行動は非常に遺憾だ」と批判した。自由韓国党を念頭に置いたものだ。
さらに「野党が平昌五輪に反対するのは昨日今日の出来事でないが、開幕後にも続ける姿には、いったいどこの国の政党なのか疑わしい。古いレッテル張り、根拠のない一方的な主張、針小棒大(おおげさ)で世論をごまかす行為が、野党の存在理由だと思いこんでいるようで、とても残念な思いだ」とこき下ろした。
そして「無分別で無責任な政治攻勢は野党の金科玉条ではない。頼むから国益を先に考えてくれるよう、心の底から望む」としたのだった。
市民の目は自由韓国党に冷やかな傾向
しつこいほどに自由韓国党の批判を引用してきたが、実はこういったやり取りは、五輪や南北関係に限ったものではない。
文在寅政権が昨年5月に発足して以降、両党の反目は最低賃金値上げ、医療制度改革、不動産対策など、あらゆる分野でずっと続いてきた光景だ。ただ、それが南北接触を機に、さらにヒートアップしている。
両党は議席数ではほぼ互角であるため、日本から見ると互いの主張は一進一退のように見える。だが、韓国の有権者の目は自由韓国党に冷やかだ。
共に民主党のシンクタンク「民主研究院」が民間の世論調査会社「KSOI」に依頼し、2月2日から3日まで調査した結果によると、今回の五輪を「平壌(ピョンヤン)五輪」と主張することに対しては、74.4%が「同意しない」と答えた。
だが、この調査は北朝鮮訪問団の訪韓前なので、今の世論を映したものとはいい難い。おそらく今週発表される、最新の調査結果を待つ必要がある。
もう一つの指標となるのが、政府批判を繰り返す自由韓国党への支持率だ。こちらは12日、世論調査会社「リアルメーター」が発表した、2月5日から9日にかけての政党支持率調査の結果が参考になる。
共に民主党は48.2%、自由韓国党は18.7%となっている。この割合は昨年から横ばいのままなので、自由韓国党の主張が広がりを見せているものではないと判断できる。
現役国会議員に聞く
いくら両党があらゆる政策で反目しているとしても、南北関係は韓国の安全保障と関わる、失敗できない分野である。国会の8割を占める両党の強い反目は望ましくないだろう。
こうした疑問を、共に民主党に所属し、南北関係を担当する国会の外交統一委員会で委員長を務める沈載権(シム・ジェグォン)議員(3選)にぶつけてみた。以下は12日に筆者と行った電話インタビューの内容だ。
−与野党の葛藤が目立つ。外交統一委員会の今後の役割は
“(南北首脳会談を前に)外交統一委員会の役割が特別にある訳ではない。これまでのように、与野党が意見を交わしながら、それを調節していくことになる。”
−2月7日、国会では五輪を成功させ、五輪精神を具現するための決議案を採択している。南北首脳会談の実現に向けた決議案を用意しているか。
“決議案については今のところ決定したことはない。”
−与野党の葛藤を今後、どう埋めるか?
“民主主義社会には常に異なる意見が存在する。対話と交渉でそれらを解決していく。南北対話をめぐる葛藤も、解決できると楽観的に見ている。”
なお、7日の決議案というのは▼「五輪を理念対立の道具にせず、政治的な攻防と葛藤を自制」▼「政府に対し、五輪期間中の政争的な要素が発生しないよう努力することを促す」▼「ピョンチャン五輪が朝鮮半島の永久的な平和定着の里程標となるよう、政府を支援する」(以上、聯合ニュース)というものだ。
葛藤の解消には米国がカギ
いつ果てるとも知れない両党の葛藤だが、沈議員の言う通り、南北関係についてはある程度解消される見込みがある。それには、保守派の自由韓国党が韓国にとって絶対的な関係と見なす、米国の態度変化がカギとなる。
聯合ニュースによると、現地時間11日、米紙ワシントン・ポストは「ペンス副大統領が、米国の現在の政策基調は『最大限の圧迫と関与(エンゲージメント)の同時駆使』としながら『最大限の圧迫』を続け強化していくが、(北朝鮮が)対話を望む場合には対話をすると明かした」と伝えた。
「最大限の圧迫と関与」。これはいみじくも、韓国の文在寅政権が発足以降繰り返してきた北朝鮮政策でもある。米国の立場が現政権と近づく場合、自由韓国党は矛先を下げざるを得ないだろう。
巨大与野党の葛藤だけを見る場合、「韓国の国論は分裂している」のは確かに正しい。だが、その内部のバランスについては、慎重に見ていく必要がある。