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東京国際映画祭、第30回の注目は? アカデミー賞有力の新作、締めはトランプ政策への反発作

斉藤博昭映画ジャーナリスト
クロージング作品で映画祭に参加する予定の、アル・ゴア元アメリカ副大統領(写真:ロイター/アフロ)

きたる10月25日から11月3日まで開催される東京国際映画祭。今年は第30回目という節目を迎えた。例年、一般レベルで盛り上がっているのかどうなのか、そこは微妙な判断だが、第30回のトピックを並べると……

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 →一昨年の庵野秀明、昨年の細田守に続き……。

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 →『乱』『タイタニック』など映画祭の歴史を飾った大作も登場。昨年はガラガラだった回もあるので今年は盛り上がってほしい。

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 →安藤サクラ、蒼井優、満島ひかり、宮崎あおいの特集上映(※崎の大は立)

その他には、『ゴジラ』シネマ・コンサートジョージ・マイケルのドキュメンタリーのオールナイト上映、ジョージ・A・ロメロの追悼スペシャル。歌舞伎座スペシャルナイトなど盛りだくさんではある。ただ、「30回」を記念して……というよりは、例年どおりのバラエティ富んだ企画だ。

『ブレードランナー』ニアミスで来日はシブめ

来日スターは、メジャーなところで、審査委員長を務めるトミー・リー・ジョーンズ、特集上映があるスティーヴン・ソダーバーグ監督など、ややシブめ。オープニング作品『鋼の錬金術師』をはじめ、日本のスターたちは例年どおり大集結し、オープニングのカーペットを盛り上げてくれるだろう。

奇しくも開幕直前の23〜24日に、ハリソン・フォードら『ブレードランナー 2049』のメンバーが来日取材を行っているだけに、映画祭に合流できたら良かったのにと思う(もともとは一週前の来日予定で、合流は無理だった)。

コンペティションも例年どおりの印象。アート系からエンタメ系まで15作品で、日本の2作を含めアジア映画が目立つ。北米・南米・オセアニアの作品がゼロ。コンペの注目度は例年と変わらないだろう。

アカデミー賞トップランナーは即完売

『スリー・ビルボード』(c) 2017 Twentieth Century Fox
『スリー・ビルボード』(c) 2017 Twentieth Century Fox

そんななか、特別招待作品には注目作が並ぶ。例年、この枠は各配給会社が公開待機作を「お披露目する」というイメージだが、今年はまず早々とチケットも完売した2作に、映画ファンの期待が高まる。『スリー・ビルボード』と『シェイプ・オブ・ウォーター』だ。

昨年もこの枠での『メッセージ』が大きな反響を呼び、同作はその後、アカデミー賞作品賞候補になるなど賞レースを席巻した。ここ数年、東京国際の特別招待作品がアカデミー賞に絡むことはほとんどなかったので、これはうれしいサプライズだった。そして今年、『スリー・ビルボード』は現在、アカデミー賞に最も近い作品のひとつとして、各予想サイトに名が挙がっている。娘が殺され、犯人が逮捕されないことに苛立った母親が3枚の広告板(スリー・ビルボード)を立てたことから、とんでもない方向に事態が転がっていくサスペンスドラマ。アカデミー賞と結果が重なりやすいトロント国際映画祭の観客賞に輝き、フランシス・マクドーマンドも主演女優賞レースのトップを走っている。

『シェイプ・オブ・ウォーター』(c) 2017 Twentieth Century Fox
『シェイプ・オブ・ウォーター』(c) 2017 Twentieth Century Fox

そして『シェイプ・オブ・ウォーター』も、『ダンケルク』などとともに作品賞候補のラインナップに加わっている。ギレルモ・デル・トロ監督が、半魚人と人間の女性の関係を描き、まさかの感動が訪れる野心作。ヴェネチア国際映画祭で最高賞の金獅子賞を受賞した。

アカデミー賞に入る可能性が高い2作を、イチ早く東京国際で観られるわけだ。

ゴア元副大統領が映画祭のラストに登場

『不都合な真実2:放置された地球』(c) 2017 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
『不都合な真実2:放置された地球』(c) 2017 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

さらに注目なのは、クロージング作品だ。アル・ゴア元アメリカ副大統領の『不都合な真実2:放置された地球』が映画祭のラストを飾り、アル・ゴア本人も来日する。おそらく彼の来日ありきで、この位置に決まったのだろうが、ドキュメンタリーがクロージング作品となるのは東京国際史上でも異例のことである。

前作『不都合な真実』(アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞受賞)で地球温暖化に警鐘を鳴らしたゴア氏は、その功績でノーベル平和賞も受賞。今回の続編は、あれから10年後の状況を追い、よりゴア氏本人の活動や人間性にもフォーカスしている。温暖化といえば、アメリカのトランプ大統領はパリ協定から離脱するなど「温暖化はでっち上げ」というスタンスを貫いている。そんなトランプの考えを、この映画は彼を名指ししてまで、さまざまな根拠を上げて真っ向から否定している。まさに「反トランプ」の作品なのだ。

こうした、国際社会への強いメッセージを掲げる作品が、映画祭のクロージングを飾る。そこに、かつてオープニングのレッドカーペットもグリーンにした東京国際映画祭の強い意志を感じたい。

第30回東京国際映画祭は10/25(水)〜11/3(祝・金)、東京・六本木ヒルズ、EXシアター六本木ほかにて開催

『スリー・ビルボード』『シェイプ・オブ・ウォーター』は2018年公開

配給:20世紀フォックス映画

『不都合な真実2:放置された地球』は11月17日(金)全国ロードショー

配給:東和ピクチャーズ

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、スクリーン、キネマ旬報、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。連絡先 irishgreenday@gmail.com

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