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2024年の映画年間ベスト10 なんと初めて「洋画実写ゼロ」…残念だが予想どおりの結果なのか?

斉藤博昭映画ジャーナリスト
『オッペンハイマー』は健闘したが…

年間の映画興行収入ランキングがそろそろ確定に近づいてきた。映画業界では毎年のランキングは、いわゆる“お正月映画”が来年の対象となるので、基本的に前年末から11月末くらいまでの公開作で決まるからだ。

2024年の現在(12/15)の年間ランキングは……

1)名探偵コナン100万ドルの五稜星 157.1億円

2)劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦 115.5億円

3)キングダム 大将軍の帰還 79.8億円

4)劇場版 SPY×FAMILY CODE: White 63.2億円

5)ラストマイル 58.9億円

6)機動戦士ガンダムSEED FREEDOM 53億円

7)インサイド・ヘッド2 52.7億円

8)変な家 50.5億円

9)怪盗グルーのミニオン超変身 45.3億円

10)あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら 45.2億円

ベスト10のうち8本が日本映画で2本が外国映画(=洋画)。しかもその2本『インサイド・ヘッド2』と『怪盗グルー』はアニメ作品。ベスト10に実写の洋画が1本もランクインしていない。こうした統計がとられてからこれは初めてのケースで、ちょっとした異常事態とも言える。

2024年の11位以下の洋画は、12位がアニメの『ウィッシュ』36億円、実写は17位の『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』23.7億円がトップで、18位デッドプール&ウリヴァリン』20.7億円、22位オッペンハイマー』18億円と続く。特大ヒット作が最後まで現れなかったことを示している。

過去5年、ベスト10内の洋画実写の本数を振り返ると、たしかに今年のゼロへと至る予感もうかがえた。

2023年:1本 7位『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』

2022年:3本 3位『トップガン マーヴェリック』、6位『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』、9位『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』

2021年:1本 10位『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』

2020年:3本 2位『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』、4位『パラサイト 半地下の家族』、7位『TENET テネット』

2019年:3本 6位『ライオン・キング』(超実写)、7位『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』、8位『アベンジャーズ/エンドゲーム』

2021年の1本というのはコロナの影響を受けた部分もあるだろう。さらに10年を遡ると……。

2018年:5本(『ボヘミアン・ラプソディ』など)

2017年:5本(『美女と野獣』など)

2016年:1本(『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』)

2015年:3本(『ジュラシック・ワールド』など)

2014年:1本(『マレフィセント』)

2013年:2本(『レ・ミゼラブル』など)

2012年:3本(『ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル』など)

2011年:4本(『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』など)

2010年:3本(『アバター』など)

2009年:3本(『ハリー・ポッターと謎のプリンス』など)

1本という年もあるが、2011年などはトップ3を洋画実写が独占したりして、まだパワーを見せつけていた。そしてこれ以前のベスト10は、洋画実写の大ヒット作が数多く占めていた。

話を2024年に戻すと、ベスト10入りを期待された作品もあった。たとえば前作『ジョーカー』が2019年の11位だった『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』。前作の50.6億円は2024年の現時点なら8位にランクインする数字だからだ。しかしさまざまな要因から、この続編は思ったほど数字が伸びず、興収は11.5億円(それでも日本は健闘した)。その他にも『マッドマックス:フュリオサ』のように“大化け”のポテンシャルを秘めた作品もあった(結果は9.7億円)。キャストの来日で盛り上げた『グラディエーターⅡ 英雄を呼ぶ声』も思うように数字を伸ばしていない。しかし現在の観客層の嗜好、作品のパワーを冷静に捉えれば、予想どおりと言えるかもしれない。ベスト10に入るには興収50億円あたりが目安になるわけで、そこを狙える洋画実写が2024年は極端に少なかったのだ。

『アバター』続編に象徴されるように、ここ10年ほど、日本では洋画実写で苦戦を強いられる作品が増えている。その一方で、『ボヘミアン・ラプソディ』や『トップガン マーヴェリック』のように予想を超えて爆発的ブームを起こす作品も、何年かに一本は現れる。そうした作品がもう少し増えていけば、映画館に頻繁に足を向ける観客層の心理にも変化を与えるはずだが……。

では2025年も、洋画実写のベスト10入りは厳しいのか? そんなことはない。『ミッション:インポッシブル』や『ジュラシック・ワールド』の新作が控えているからだ。その他にも、日本でも劇団四季の上演でポピュラーな人気を獲得した『ウィキッド ふたりの魔女』や、ディズニープリンセスの“大御所”を実写化した『白雪姫』のように、もしかしたら大化けする可能性のある作品がいくつかある。

ただし、このようなラインナップで『ミッション:インポッシブル』や『ジュラシック・ワールド』がもし大きく数字を落とすようなことがあるなら、それは洋画実写にとって本当に深刻な事態となるわけで、起死回生を期待するしかない。

『オッペンハイマー』(c) Universal Pictures. All Rights Reserved.

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、スクリーン、キネマ旬報、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。連絡先 irishgreenday@gmail.com

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