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【ジュビロ磐田】“動く人”大津祐樹が語る「J1復帰の使命」と「遠藤保仁」

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター
ジュビロ磐田を新天地に選んだ大津祐樹(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

 J1昇格枠は22分の2。狭き門を突破して“いるべき場所”への復帰を誓うジュビロ磐田が今季、目標達成の切り札として獲得したのが、元日本代表FW大津祐樹だ。

 2008年にプロデビューした柏レイソルで若くして頭角を現し、11年夏にはドイツのボルシアMGに移籍。12年夏からオランダのVVVフェンロに活躍の場を移すと、15年に柏に復帰し、18年から昨年まで横浜F・マリノスでプレーした。

 欧州でプレーした4シーズンを含め、戦歴は多岐にわたる。柏時代の10年にJ2優勝、横浜FM時代の19年にはJ1優勝。日の丸を背負っての戦いでもインパクトを残し、12年ロンドン五輪では日本チーム最多の3得点を挙げてベスト4入りの原動力となった。13年にはアルベルト・ザッケローニ監督が率いる日本代表の一員として2試合出場という経験もある。

 “動く人”でもあり、横浜FM時代の19年には今や伝説の「タオルマフラー動議」でクラブ・チームとファン・サポーターを結束させ、15年ぶりのリーグ制覇へ機運を高めた。

 昨年30歳になり、今回の移籍を「人生のターニングポイントになる」と意気込む大津に、移籍の決め手や今季の目標・意気込みを聞いた。

鹿児島キャンプですっかりチームに溶け込んでいた大津祐樹(中央)(写真提供:ジュビロ磐田)
鹿児島キャンプですっかりチームに溶け込んでいた大津祐樹(中央)(写真提供:ジュビロ磐田)

■「ジュビロはJ2にいるようなクラブではない」

 磐田からオファーをもらった時は「素直にうれしかった」という。

「ジュビロはすごく魅力的なクラブですからね。ただ、マリノスからも(契約延長の)オファーがあったので、オフの間は悩み抜きました」

ー移籍の決め手は何でしたか?

「ジュビロにはJ1昇格という明確なミッションがあり、それに全力でチャレンジするというところで僕にオファーをくれました。クラブが描く明確なビジョンに、自分がどうやって力を注げるか。わかりやすい目標がありました」

ー1年でのJ1復帰を目指した昨年は6位でした。

「ジュビロはJ2にいるようなクラブではありません。J1昇格は僕にとっての挑戦でもあります」

 現在は2月28日(日)のJ2開幕第1節FC琉球戦(タピスタ)に向けて急ピッチで仕上げている段階だ。

■移籍の大きな決め手は「ヤットさん」

ーチームには昨年10月にガンバ大阪から期限付き移籍で加入した遠藤保仁選手がいます。遠藤選手が加入する前の磐田は13位でしたが、最終的に6位まで上がりました。

「今回、僕が移籍する理由の一つとなり、大きなポイントだったのが、ヤットさん(遠藤選手)です。以前から憧れている選手で、一緒にプレーすることで学べることがすごく多いと思いました」

ー練習していて実際にどうですか?

「視野の広さは、日々の練習を見ていてもやはりすごいなと思います。現時点(2月中旬)ではまだあまり一緒に練習できていないのですが、これから死ぬほどたくさんできると思うので楽しみです」

ーザックジャパン時代、13年2月のラトビア戦(神戸)と同3月のカナダ戦(ドーハ)で大津選手と遠藤選手が同時にピッチに立った時間がありました。

「はい。でも、プレー面で合いそうかということよりも、ヤットさんがサッカーをどのように考えているのか、プレー中の各シチュエーションでどのように判断をしているのか、それを感じたいと思ったんです。Jリーグで対戦した時も、そこに出すのかというところにパスを出すなど、プレーの幅がとにかく広い。見えているところが違うし、ボールの置き所も違う。一緒に練習することで、僕自身の判断の選択肢が増えるのではないか、選手として成長に繋がるのではないかと思いました」

ー今野泰幸選手もいますね。

「今野さんは小さい頃から見ていて、めちゃくちゃ好きなプレーヤーだったんです。ボール奪取力がすごいですし、球際も強い。 本当に素晴らしい選手というイメージしかない。ヤットさんと同じで、一緒にプレーしてみたいという気持ちです」

ー今野選手はピッチ外ではどんな方ですか?

「愛されすぎていて、本当に良いキャラクターです。めちゃくちゃフランクですごく喋りやすいんですよ。それに、先輩としてよく声をかけてくれて、チームに馴染みやすい環境を作ってくれています」

20年10月にガンバ大阪から期限付き移籍で加入した遠藤保仁。加入前の13位から6位へとチームを押し上げる原動力となった
20年10月にガンバ大阪から期限付き移籍で加入した遠藤保仁。加入前の13位から6位へとチームを押し上げる原動力となった写真:長田洋平/アフロスポーツ

■中学生の頃から見ていた磐田のレジェンドたち

ー磐田はコーチングスタッフにもレジェンドが多くいます。大津選手は鹿島ノルテジュニアユースの出身なので、中学生の頃はライバル視していたのではないですか?

「確かに当時応援していたのは鹿島でしたが、ジュビロとの試合は見る目も真剣だったので、相手チームの選手としてリスペクトを感じていて、とても好きでした。ここにいるコーチングスタッフは僕の憧れ。今、ハットさん(服部年宏ヘッドコーチ)やゴンさん(中山雅史コーチ)と一緒に仕事をできているということを、当時の僕に言ってあげたですね。『一緒にやるんだぞ』と」

ー大津選手が中学1年生だった02年は、鈴木政一監督が率いる磐田がJ1の第1ステージ、第2ステージとも制して、史上初の完全優勝を達成した年でした。監督もレジェンドです。今、鈴木監督からはどのようなプレーを求められていますか?

「今季、僕が求められているのは、攻撃のオプションという役割だと思っています。ゴールだったりアシストだったり、 得点に絡む動きです」

ー昨年まで所属していた横浜FMで求められていた役割との違いはありますか?

「どちらかと言うとマリノスは戦術的な型にはまっていて、ジュビロの方が個人的な創造性を必要とされていると思います。攻撃の部分では自由な発想やコンビネーションが大事。どちらが良いというのではないのですが、個人の裁量が増えるところにやりがいを感じますし、自由というのも一つの戦術なのでやりづらさはありません」

鹿児島キャンプでボールを蹴る大津祐樹(写真提供:ジュビロ磐田)
鹿児島キャンプでボールを蹴る大津祐樹(写真提供:ジュビロ磐田)

■J1昇格は22分の2

 今季のJ2は22チームで、42試合を終えて上位2チームのみが来季のJ1昇格となる。枠数で言えば昨季と同じで史上最も狭き門だ。ただ一方では、昨季はコロナ禍でJ1からの降格組みがいなく、チャンスであるともいえる。今季で勝負を決めたいと考えるライバル勢も多いだろう。

 そんな中、大津には柏に在籍していた09年にJ2優勝とJ1昇格という経験がある。

「これまで積み重ねてきた経験をジュビロに還元することも僕の仕事です。ピッチ内でもピッチ外でもそれができると思っています」と意気込んでいる。

■「大津祐樹、動きます」からの「ジュビロくん、動きます」

 大津と言えば、横浜FM時代に「大津祐樹、動きます」と宣言し、ファン・サポーターとクラブ・チームを結束させた「タオルマフラー動議」が語り草だ。

 J1リーグ優勝を争っていた19年11月、クラブが最初に発売を決めたのが黒金色のタオルマフラー。ところが、チームカラーのトリコロールと異なる配色に戸惑いを覚えたサポーターから声が上がり、大津が間を取り持つ形で2種類の配色パターンの販売が実現した。誰一人傷つけることのない解決策を得たことでピッチ内外の結束を強めた横浜FMは、FC東京、鹿島との争いを制して04年以来15年ぶりのJ1リーグ優勝を果たした。

 それから1年数カ月がたった今年2月8日。今度は磐田の公式SNS上に「ジュビロくん、動きます」の告知が投稿された。

 Jリーグ開幕前恒例のマスコット総選挙が始まった2月1日に、大津が自身の背番号である「4」にちなみ、自らのSNSで発した「ジュビロくんが4位以内になったらユニフォームプレゼントします」を受けてのものだ。 

ーどんな思いがあったのですか?

「僕としては、そういう些細なことこと一つでも、サポーターと選手が同じ目標を持つのはすごく大切なことだと思っています。もちろん、選手はプレーをしてサポーターに応援してもらうという関係ではありますが、一つの同じ目標をサポーターと選手で一緒に持ちながら協力して何かをやることで、深まる絆があると思うのです」

ージュビロくんは「10位以内に入ったら選手会と共同でグッズをプロデュースします」という公約も掲げていました。結果は惜しくも12位でしたが過去最高です。

「これをきっかけにジュビロを応援してくれる人が人が一人でも増えれば選手としてうれしいですし、クラブとしては財産になる。こういった活動を、選手は協力すべきだと思っていますし、選手側からやることも大事だと思っています」

ー大津選手はもともと行動的な性格だったのですか?

「自分が動くことによって周りの環境が良くなったり周りの人が幸せになったりするのであれば、自分が動いた方が絶対にいいという考えです。必要なことであると判断したときは挑戦すべき。そういう思考があります」

チームになじみ、開幕を心待ちにしている大津祐樹(写真提供:ジュビロ磐田)
チームになじみ、開幕を心待ちにしている大津祐樹(写真提供:ジュビロ磐田)

■「良いスタートを切ることが大事」

ーピッチ内の話題に戻って、今季の個人目標を聞かせてもらえますか。

「明確な数字の目標を立てるタイプではないのですが、本当に1試合に1点でも1アシストでも取れるようにやるだけだと思っています。でも何よりチームとしてJ1昇格、J2優勝が目標です」

ー勝ち抜くうえでポイントになりそうなところはどんなところでしょうか。

「コロナ禍のこういう状況でも最初からリーグがスタートし、そこでプレーできるのは幸せなことでもあります。支えてくださっているサポーターのため、スポンサーのために頑張らなければいけません。目標達成のためのポイントとしては、良いスタートを切ることが挙げられると思います。1試合1試合、全力でプレーすることが大事です」

 自ら動き、周りを動かすバイタリティーにあふれる30歳。今月11日にはテレビ朝日アナウンサーである(久富)慶子夫人との間に第1子となる長男が誕生し、さらに意欲を高めている。大津のチャレンジャー人生は、ここからまた花開いていくに違いない。

オンライン取材で意気込みを語った大津祐樹(写真提供:ジュビロ磐田)
オンライン取材で意気込みを語った大津祐樹(写真提供:ジュビロ磐田)

サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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