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下剋上達成の広島ドラゴンフライズ:B1の頂点に立った要因は相手をカオスな状態に陥れたディフェンス

青木崇Basketball Writer
厳しいディフェンスで琉球を50点に抑えて頂点に立った広島 (C)B.LEAGUE

 正直なことを言えば、チャンピオンシップ(CS)のクォーターファイナルで三遠ネオフェニックスと対戦するのを現地で取材するまで、広島ドラゴンフライズに焦点を当てる機会が筆者にはなかった。しかし、ゲーム1の前半20分を見て、ディフェンスの素晴らしいチームだと認識。特に帰化選手のセンター、河田チリジがマッチアップゾーンの先頭に立ってディフェンスしていたのは、いい意味で驚かされた。

 広島はレギュラーシーズンでB1最高の平均89.5点を記録した三遠を70点、66点に抑えての勝利。アグレッシブなディフェンスからアップテンポなオフェンスを展開する名古屋ダイヤモンドドルフィンズに対しても、負けたゲーム2を除けば75点、73点に限定させていた。

 得点力のある三遠と名古屋をスローダウンさせることができた要因の一つは、スクリーンでズレを作られないようにするためのスウィッチ・ディフェンス。スウィッチした後に身長のミスマッチが生じたとしても、ボール保持者に対する厳しいプレッシャーでオフェンスに時間をかけさせることに力を入れていた。琉球ゴールデンキングスとのファイナルでは、ディフェンスの質がさらに高くなっていったのである。

 その間に選手同士のコミュニケーションから質の高いローテーションを遂行することで、広島がミスマッチから攻められて失点するというシーンはあまり見られなかった。それは、ボールがないところのスクリーンに対しても、スウィッチによってフリーの状態になる選手を作らせないようにしていたのも大きい。琉球とのゲーム3を制して広島を優勝に導いたカイル・ミリングコーチは、スウィッチ・ディフェンスに対する質問に対してこのように返答した。

「正直、私自身もどんなディフェンスをしているのかわからないときがある。はっきり一言で言うのであればゾーンのマッチアップディフェンスだけど、基本的に チリがいるときにそういったスウィッチ・ディフェンスをやっている」

相手を混乱に陥らせるスウィッチ・ディフェンスを採用し、広島を最高の結果へと導いたミリングコーチ (C)B.LEAGUE
相手を混乱に陥らせるスウィッチ・ディフェンスを採用し、広島を最高の結果へと導いたミリングコーチ (C)B.LEAGUE

 ファイナルでの広島は、ゲーム1で琉球に15本の3Pショット(成功率45.5%)を決められて敗れたものの、ゲーム2と3の成功率がいずれも30%未満。特にゲーム3で琉球が記録した成功率16.7%(24本中4本成功)は、レギュラーシーズンとCSを通じて2番目に低い数字だった。

 広島のビッグマンたちは、スウィッチ後に今村佳太や岸本隆一と1対1でディフェンスする状況になっても、高さと腕の長さを生かして3Pを打たせないだけでなく、簡単にドライブさせない対応ができていた。前半終了間際に河田が岸本からスティールを決めたプレーは、正にスウィッチ・ディフェンスの効果を象徴するシーンだったと言える。

 フィジカルの強さとインサイドの攻防で琉球は優位に立てると思われたが、3試合中2試合はペイント内でのFG成功率が43.5%と41.4%。3Pの精度が落ちたゲーム2と3は24点と、レギュラーシーズンの平均より11.5点も少ない数字だった。

センターの河田が3Pショットへの対応で奮闘するなど、ディフェンスの遂行力がCSでレベルアップしていた広島 (C)B.LEAGUE
センターの河田が3Pショットへの対応で奮闘するなど、ディフェンスの遂行力がCSでレベルアップしていた広島 (C)B.LEAGUE

「点数を自分たちが取れず、スウィッチ・ディフェンスに対しての糸口を僕自身が選手たちに表現というか、提案できなかった。プレーを提案し続けられなかったというところが敗因だと思うんですけど、それでも一つ一つのタイムアウトのときもそうですし、いろんなことをやりながらでも、広島さんがやっぱり気迫溢れるディフェンスをやってきました。50点に抑えたところ、また自分たちのアドバンテージがあるところをしっかりフィジカルで潰してきたっていうところでも、広島さんが本当に優勝するに値するプレーをしたと思います」

 桶谷大コーチがこう振り返ったように、ゲーム3の琉球は広島のディフェンスに対する答えを導き出せなかった。ミリングコーチは河田がプレーする際にスウィッチ・ディフェンスを使ったと説明したものの、指揮官もやっている選手たちもどうしているのかわからないと感じたくらいだから、琉球が“カオス”な状況に陥ってリズムを狂わせてしまったとしても不思議ではない。CSのMVPに輝いた山崎稜の答えはこうだ。

「本当にヘッドコーチが言った通り、僕らもたまに何をやっているかわかんないようなディフェンスをしています。それはみんながコート上で喋って、ヘルプもそれぞれがヘルプし合えるというのがあるからこそ成立していると思います」

 広島にとってのターニング・ポイントは、河田が昨年10月に日本国籍を取得し、帰化選手としてプレーできるようになったことだろう。フィジカルの強さとディフェンスでの機動力を持つセンターの存在によって、スウィッチ・ディフェンスが威力を増したことは明らか。山崎もそのことを認識したうえで、次のように説明した。

「それができるようになったのは、河田選手が入ってビッグラインナップを使えるようになったからです。こういったディフェンスの変化、リズムの変化っていうものは、試合中の40分間で変えていかなければならないと思います。やり始めた頃はそこまではまってなかったと思いますけど、やっぱり(シーズンの)終盤にかけてから守れるという感覚はありました。もちろん、レギュラーラインナップのマンツーマンも自信を持っていますし、ビッグラインナップにしたときのスウィッチだったり、2−3という特殊なディフェンスでも、僕はすごく自信を持ってやっていました」

フィジカルの強いダーラムのドライブにスウィッチした船生に河田がヘルプ。メイヨも対応できる態勢を作っていた (C)B.LEAGUE
フィジカルの強いダーラムのドライブにスウィッチした船生に河田がヘルプ。メイヨも対応できる態勢を作っていた (C)B.LEAGUE

 琉球をB1ファイナル史上最少失点の50点に抑えて手にしたB1の頂点は、相手をカオスな状態へと陥れた広島のディフェンスが素晴らしかったということに尽きる。CSでの8試合で相手のFG成功率が40.6%、相手から平均14.3本のターンオーバーを誘発させ、70点以下に抑えての勝利が4試合を数えた。ミリングコーチは琉球を称えながら、ディフェンスに関する質問に対する答えを次の言葉で締め括った。

「こういった素晴らしいチームにどうやって勝つかを試行錯誤して考えた結果、相手のちょっとしたリズムを崩すしかないのかなと思っていた。ちょっとでも崩せたので、それが本当に良かった。琉球がとても素晴らしいチームだったからこそ、こういったディフェンスも精度の高いものになった」

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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