梅雨どきにカビ大発生も。24時間換気装置をうっかり切ったままにしていませんか?
近年、日本の住宅は断熱性能が高まっている。
だから、室内にカビが生じにくいと思われがちだ。しかし、断熱性とカビの関係は単純ではない。
日本では、住宅の断熱性を高めた結果、室内にカビが大量発生してしまったことがあった。今から40年ほど前の話だが、今も同じ状況がないとはいえない。
暮らし方によって、現代の住宅でも室内にカビが大発生してしまうリスクがある。
また、冬の寒さが厳しい北海道と本州では、カビ発生に注意しなければならない季節が異なる。
カビが発生しやすい今だからこそ、住宅のカビに関する正しい知識を知っておきたい。
多くの人が勘違いしやすい断熱性とカビの関係
次の文章には、おかしなところがある。どこがおかしいか、おわかりだろうか。
「日本の住宅は断熱性を高めているが、まだ断熱性が低いのが窓。特に窓枠がアルミの場合、室内と外の温度差により、窓枠に結露が生じやすい。この結露がカビの原因となるので、梅雨時は特に注意が必要」。
どこがおかしいかというと……アルミの窓枠に結露が生じやすいのは、梅雨どきではない。冬、それも寒さが厳しい北海道などで問題視されてきた現象である。
北海道の多くの地域では、真冬にマイナス15度とかマイナス20度もしくはそれ以下になる。一方で、室内は東京、大阪よりも暖かくする傾向が強い。
その結果、外気で冷えたガラス窓に室内の暖かい空気が触れて結露が生じる。
結露の量が多いため、ダラダラと床に流れ落ちて溜まり、木質の床にカビが生じて腐る。カビをエサとするダニが発生し、ダニの死骸が空気中に漂って人間の体に悪影響を及ぼすなど、室内環境が悪化する。
そのような現象が起きるため、北海道では結露しにくい窓が求められた。
まず、ガラスを複層にしてガラス面の結露をなくした。が、それだけではアルミの窓枠に生じる結露を防ぐことができなかったため、窓枠内に断熱材を入れ、アルミの上に樹脂のカバーを付けるなどして、枠にも結露が生じないようにした。この工夫は、北海道だけでなく、北欧など世界中の寒さが厳しい地域で採用されている。
つまり、寒さが厳しいエリアでは時間をかけて窓全体の断熱性が高められてきたわけだ。
その「冬の寒さが厳しい北欧の高断熱住宅」を日本全国の住宅がお手本にした時期があった。それは、昭和の終わりのことだ。
2度のオイルショックで、高気密・高断熱に
日本の住宅は、断熱性が低い。すきま風が入る一戸建ても多い。これでは、暖房、冷房に費やす光熱費が高くなり、エネルギーのムダ遣いが生じる。この状態を改善し、断熱性の高い住宅にしなければならない、と政府が大号令をかけたのは2度のオイルショックで原油価格が高騰した後だ。
第2次オイルショックが1982年(昭和57年)4月までだったので、それ以降の話である。
このとき、見習うべきとされたのが北欧の住宅だった。
大量の断熱材が入れられて、壁や屋根が分厚い。窓には、ガラスを2枚用いたペアガラスはもちろん、ガラス3枚のトリプルガラスも採用。窓枠の断熱性も高める。
まさに、高気密・高断熱のお手本で、北欧の住宅がどれほど断熱性が高いかを啓蒙するテレビCMも流された。
北欧の住宅をお手本とし、壁や屋根に断熱材を入れて、窓には気密性の高いサッシと複層ガラスを採用した住宅が登場。高気密・高断熱住宅が日本中に広まった。
その直後から、重大な問題が起きた。
魔法瓶のように密閉した住宅をつくったら、梅雨どきの室内に湿気が溜まり、室内にカビが発生するケースが多発したのである。
反省から生まれた24時間換気装置
日本国土の大部分は「高温多湿」の地となる。これは、世界のなかでは特殊な気候だ。欧米は全体的に乾燥しており、夏の暑さより冬の寒さが問題となるエリアが多い。日本の多くの地域とは、気候が大きく異なるのだ。
気候の違いを無視して、高気密・高断熱の家を日本でつくったら、どうなるか。当時はそこまで考えなかった。
梅雨どきは湿気が室内に溜まり、気温が上がる……結果として、カビが発生しやすい家をつくったことになる。
国を挙げて気候の違いを考慮しなかったのだから、まさに世紀の大失敗である。
ちなみに、日本の木造住宅は欧米より短命とされるが、それも気候の違いを考慮しない意見となる。
空気が乾燥し、台風も地震もない欧米では数百年使われ続けている木造住宅がいくつもあるが、それを日本に持ってきたらどうなるか。木材にとって最悪の環境となる高温多湿と、台風をはじめとした大量の雨、そして、地震による揺れで、そんなに長持ちしなかっただろう、と考えられている。
すきま風には、カビの発生を抑制する働きも
古来、日本の住宅は、カビとの戦いを強いられてきた。
建物の構造体や室内にカビが発生しないよう、床下を大きく開け(現在は火災防止のため、実現できない)、窓を大きくとった。そして、日差しと乾いた風を取り入れやすくするため、家は南向きが最良とされた。
窓が多いため、すきま風も入りやすかった。が、それが、梅雨時のカビを抑制する働きを果たした。
正倉院の校倉造り(あぜくらづくり)も、乾いた風が吹く日は、すきまから風が入るようにしている。あえて、すきま風が入る建物にしたのである。
高温多湿の日本で、窓が小さくてすきま風が入らず、断熱性の高い住宅をつくれば、梅雨どきに湿気を含んだ暖気が室内にこもってしまう。カビが発生するのは、当然の結果だった。
昭和の後期、高気密・高断熱住宅にカビが大発生したことへの対策はすぐに行われた。
高気密・高断熱にするだけでなく、室内の空気を入れ換える装置が追加された。それが、「24時間換気装置」だ。
24時間換気装置は、わずかな風量で室内の空気を入れ換えるもの。これで、湿気が溜まるのを防ぎ、室内のカビ発生を抑えることができた。
つまり、「すきま風が入らない家」をつくったのち、「機械で少しだけすきま風を入れて、室内の空気を入れ換える」住宅をつくったようなものである。
24時間換気装置で冬、窓の結露も減ったが……
現在、日本で建築される住宅は、マンションでも一戸建てでも、ほぼすべてに24時間換気装置が入っている(24時間換気装置に頼らず、室内環境をよくする方法もあり、一部で採用されている)。
その効果は絶大で、梅雨時の室内にカビが発生しにくいのはもちろん、常に空気を入れ換えることで、寒さの厳しい地方以外は冬に窓の結露も生じにくくなった。
一方で、24時間換気装置の弊害もある。
それは、わずかだが外気をそのまま室内に入れてしまうこと。真夏は熱気を含んだ空気を取り入れ、真冬は冷たい空気を室内に入れる。その結果、夏は冷房が効かない、冬は暖房が効かない、という不満が出やすい。それが、短所となる。
冬の寒さと夏の暑さ、それによって生じる光熱費の上昇を嫌う人は、24時間換気装置のスイッチを一時的に切ってしまうことがある。
すると、カビが生じやすくなってしまう。
梅雨時に24時間換気装置を切ってはいけない
24時間換気装置は、オンオフの切り替えができる。
そのスイッチは、壁の高所に設置されることが多く、カバー付きとなることもあり、簡単には切り替えできないようになっている。が、切り替えは可能。多少面倒だが、オフにできるわけだ。
寒い冬の日、一時的に24時間換気装置を切ってしまうことは責められない。しかし、切ったままにして梅雨を迎えると大きな問題が起きる。
梅雨どきは、ときに豪雨になることがあるため、外出時に窓を閉めることになりがち。24時間換気装置を切ったまま、窓を閉めてしまうと室内の空気がよどみ、室温が上がることでカビが生じやすくなってしまう……昭和後期の悲劇が再現されてしまうのだ。
24時間換気装置のスイッチは切らないほうがよい。でも、寒い日、暑い日は切りたくなる。その点、24時間換気装置が「熱交換式」になっていれば、冬に冷たい空気が入ったり、夏に熱気が入るのを防いでくれる。だから、スイッチを切ることがなく、安心だ。
しかしながら、熱交換式の24時間換気装置は値段が高いため、採用しているケースは少ない。
また、どんな方式でも、「24時間換気装置は音が気になる」という人がいる。昼間は気にならないのだが、就寝時に気になってしまうというのだ。
その場合も、スイッチを切りがちで、うっかり切ったままにしておくと、梅雨どきにカビが発生するリスクが高まる。
梅雨どきは必ず24時間換気装置を動かし続ける。それは、日本の住宅において、極めて大切な心構えなのである。